• 無理をせず、いつも自然体で—。太陽とともに起き、大地と草花を愛する。自然のめぐりを感じながら、いつも感謝を忘れず、桧山さんは、今日も思いを込めて料理をつくります。
    (『天然生活』2018年9月号掲載)

    桧山タミさんの暮らしの心得

    道具はていねいに扱い、長く使う

    画像: 大きな竹ざるの縁の部分を、ひもを使って修理し、使いつづけている

    大きな竹ざるの縁の部分を、ひもを使って修理し、使いつづけている

    桧山さんは調理道具をとても大切に扱っています。日本で昔から使われてきた木や竹の道具は、けっして壊れやすいものではなく、手入れさえきちんとしていれば長持ちするといいます。

    木のおひつや寿司桶は必ず陰干し。もし、たがが少しゆるんできたら、とっておいたかまぼこの板を使って、叩いて締めるそうです。

    竹ざるも、桧山さんが大好きな道具のひとつ。弾力があって強く、湿気をよく吸うので、水切れがよいのです。米や野菜の水切りだけでなく、洗った木の道具も、竹ざるの上で乾かします。

    長い間、使い込んだざるは、修理できるところは自分で修理し、使いつづけます。

    ブランドのバッグより鍋がいい

    画像: 「70年ほど前に江上トミ先生からいただいた」という銅鍋。たっぷりとした厚みで、風格がある

    「70年ほど前に江上トミ先生からいただいた」という銅鍋。たっぷりとした厚みで、風格がある

    「ブランドのバッグより、おいしいものをつくれる鍋がいい」。よい鍋があれば、おいしいものを何度でもつくって、家族を喜ばせることができます。流行のバッグは一時的な幸せですが、よい鍋は一生の幸せです。

    料理をつくる際に出番が一番多いのが銅鍋。熱の当たりが柔らかく、均一に火がとおり、煮くずれせずに味がよくしみます。洗ったあとに温めて水けをとばして乾かせば、緑青は出ません。梅干しのしそなどでふけば、銅本来の色に輝きます。

    「お値段は張りますが、一生ものどころか次の代でも使いつづけられる鍋。ずっとおいしいものをつくれるのですから、むしろ、お買い得ではないでしょうか」

    最高の調理道具は「火」です

    画像: 1960年代に東京・御徒町の店を通じて輸入したル・クルーゼの鍋

    1960年代に東京・御徒町の店を通じて輸入したル・クルーゼの鍋

    桧山さんの台所には、IHクッキングヒーターも電子レンジもありません。「電気の熱とは気が合わない」そうです。

    調理はガス火が中心ですが、七輪などを使って炭火で調理することも。仕上がりがまったく違い、ぐっとおいしくなるといいます。

    冷凍したごはんを温めるときは、せいろで蒸します。電子レンジより数分、時間がかかりますが、そのふっくらしたおいしさは、電子レンジで温めたものとは比べものになりません。「面倒でも、おいしいほうがいいのです」といいます。

    トーストも七輪で焼くと絶品だそう。ガス火や炭火の柔らかな波動は、先生が愛用する銅鍋や鋳鉄鍋とも相性が抜群です。

    「ほんとう」がある料理と人生を

    画像: 喉の調子がすぐれない日は、大根のはちみつ漬けでいたわる

    喉の調子がすぐれない日は、大根のはちみつ漬けでいたわる

    桧山さんの料理教室のことを、生徒さんたちは、こっそりと「人生塾」と呼んでいるそう。もう50年も通っている方も。その魅力は、桧山さんの生き方を身近に感じることができるというところにあります。

    自然に寄り添い、常に感謝の気持ちをもって、大らかに明るく、手を動かし、五感を使ってすこやかに生きる—そんな桧山さんの暮らしと感性に触れることで、日々の苦しさから解放され、生き方が変わる、という方も多いそう。

    桧山さんの料理と生き方には、いつも変わらない「ほんとう」がある、と生徒さんたちはいいます。それを心のよりどころにすることで、人生が豊かに開けていくのです。

    女性はやさしさを学ぶために

    「女性は、もともと強い。だから、やさしさを学ぶために女性に生まれてきたの。料理とは、やさしさ、思いやりそのもの。だから、料理を通して女性はやさしさを学ぶのです」と桧山さんはいいます。

    一方の男性は、もともとやさしいから、強さを学ぶために男性に生まれたのです。「もっとも、強さを学ばず、弱いまま威張り散らす人もいますけどね」

    やさしくなるために生まれてきた—これが、桧山さんがなにより女性たちに伝えたいメッセージです。

    弱いと威張る。しかし、強ければやさしくなれる。そして、その強さは、女性にはもともと備わっているのです。その心身の強さをよりどころに、女性たちはもっと人にやさしくできる。

    身近にいる大切な人たちを応援する気持ちで、真心をこめて包丁を持ち、穏やかな気持ちで台所に立ち、目に見えない思いを料理に込める。このことがなにより大切なのです。

    家族のために料理ができるのは、本当に幸せなこと

    画像: 密封保存袋は何度も洗って使う。ベランダにプランターを並べて草花を植えているのは「土と緑を身近に感じていたい」から

    密封保存袋は何度も洗って使う。ベランダにプランターを並べて草花を植えているのは「土と緑を身近に感じていたい」から

    疲れてイライラしていたら、穏やかな気持ちにはなれません。イライラが、料理を通じて大事な人たちに伝わってしまいます。

    「女性は太陽、といわれることがあるけれど、私は、太陽よりお月さまがいい」と桧山さん。月のように柔らかい光で家族をやさしく照らしつつも、「疲れた日は、『今日は闇夜』といって、ささっと寝てしまえばいいのよ」とも。

    料理は毎日のことだから、小さな疲れがたまり、心身のバランスを崩すこともあります。そんなときは無理をせず、家族に任せてしまうということも大切です。

    画像: 料理をするときは、いつも室内履きとして、このスニーカーを。足への負担が減り、背もちょっぴり高くなる

    料理をするときは、いつも室内履きとして、このスニーカーを。足への負担が減り、背もちょっぴり高くなる

    「人の思いは、料理を通じて波動のように食べ手に伝わります。だから、ただひたすら心を込めて料理をつくるのです」

    そして、ごはんをつくるとき、その手にいつも、こんな願いを込めてきたそうです。

    子どものごはんをつくるときは「人の役に立つ子になりますように」、大人のごはんをつくるときは「元気で今日一日を過ごせますように」と。

    「料理は上手い下手ではなく、思いやりが一番大事」と考えている桧山さんは、こういいます。

    「家族のために料理ができるのは、本当に幸せなこと。だから心を置いてけぼりにしないで」

    <撮影/繁延あづさ 取材・文/土屋 敦>

    桧山タミ(ひやま・たみ)
    1926年、福岡県生まれ。17歳から、料理研究家・江上トミ氏に師事。30代半ばで独立。現在の地に「桧山タミ料理塾」を移し、40年になる。著書に、愛情と自然の恵みを大切にする家庭料理のありようと、生き方の哲学を余すところなく伝えた『いのち愛しむ、人生キッチン』(文藝春秋)がある。

    撮影/繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
    写真家。兵庫県姫路市生まれ。桑沢デザイン研究所卒。雑誌や広告で活躍する傍ら、ライフワークである出産撮影や狩猟に関わる撮影、原稿執筆などに取り組んでいる。長崎県在住。著書に『うまれるものがたり』『長崎と天草の教会を旅して』(共にマイナビ出版)他。現在『母の友』(福音館書店)、『kodomoe』(白泉社)で連載中。 webマガジン『あき地』(https://www.akishobo.com/akichi/ )では、『山と獣と肉と皮』(亜紀書房)を執筆連載中。
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    ※トップの写真について
    台所には、いちょうの木のまな板や竹ざる、銅鍋など、長年使い込んだ、お気に入りの調理道具が並ぶ

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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