• イリヤ&エミリア・カバコフ《棚田》(撮影/中村 脩)
    『天然生活』が注目する方に、お話を聞く人気シリーズ。 北川フラムさんに「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」のことをお話いただきました。
    (『天然生活』2017年5月号掲載)

    会うこと、聞くこと 第八十一回 アートディレクター 北川フラムさん(前編)より続き —

    違う人同士が一緒に何かする。手間はかかるけれど、面白い

    特技を発揮することで、地元の老人たちが元気に

    「大地の芸術祭」の立ち上げから約20年。歳月を重ねるうちに、北川さんが実感するようになったことがあります。

    「年々、地元のおじいちゃん、おばあちゃんたちが元気になってきました。でもそれは、『経済が潤うから』とかが理由ではない。針仕事でアーティストと一緒に作品づくりに参加したり、来場者に料理をふるまったり。自分の日頃の特技を発揮するのが、彼らが一番元気になることなんだと、最近やっとわかってきました」

    地元の人々の高齢化も進むなか、北川さんは、「他者をいかに巻き込むかが大事」といいます。

    「『土地の人間だけでやる』というと美談に聞こえますが、それでは先細りしてしまう。外部の人間が加わることで、非日常の世界が生まれるし、新陳代謝ができます。しばらく滞在後、また去っていく人がいてもいい。いまの時代、人は流動しているんですよ」

    画像: 20年近く、繕いながら使いつづけている帽子。雨やみぞれに強い素材

    20年近く、繕いながら使いつづけている帽子。雨やみぞれに強い素材

    美術は『人と違っていることで褒められる』

    「大地の芸術祭」では、「こへび隊」というボランティアのサポーター役が全国から集まり、地元の人々と一緒に働きます。学生からお年寄りまで、年齢も出身地もさまざま。最近は香港や台湾からの若者も増えてきました。

    「世代も背景も180度違う人たちが一緒に働くことで、思わぬ化学反応が起きる。手間はすごくかかるけれど、そこに、僕は大きな可能性を感じています」

    効率ばかりが重視され、ともすれば、多様性がうとまれる現在。

    「でも、美術は『人と違っていることで褒められる』領域なんです」

    今年は6~7月に「北アルプス国際芸術祭」、9〜10月に「奥能登国際芸術祭」が開催されます。両方の総合ディレクターを務める北川さんは、いまも足しげく現地に通っています。

    20年近く前、新潟の静かな里山で始まった新しいかたちの芸術祭。それが年々、世界中に広まりつつあるのは、そこに、時代に風穴をあけるヒントが隠されているからなのでしょう。

    会うこと、聞くこと アートディレクター 北川フラムさん(前編)へ ⇒

    <撮影/ニシウラエイコ 取材・文/嶌 陽子>

    北川フラム(きたがわ・ふらむ)
    1946年、新潟県高田市(現上越市)生まれ。東京藝術大学卒業。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」などの総合ディレクターを務める。長年の文化活動により朝日賞(2017年)、文化功労者(2018年)等受賞。著書に『美術は地域をひらく:大地の芸術祭10の思想』(現代企画室)、『ひらく美術』(ちくま新書)など。
    https://www.artfront.co.jp/

    撮影/ニシウラエイコ
    フォトグラファー
    webサイト
    http://www.eikonishiura.com
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    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

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