(『天然生活』2015年11月号掲載)
自然農が本当の幸せを教えてくれた
朝9時過ぎ。妻の洋子さんはいつも、畑から戻るふたりのために朝ごはんを用意して待っています。
茶がゆと漬物の日もあれば、テーブルいっぱいに料理が並ぶ日も。主役はもちろん、畑の野菜。とりどりの野菜たちは、畑の姿同様に生命力がみなぎる味わいです。
「すべてが過不足なく満たされているのが、いのちがめぐる世界。自然の摂理に沿った栽培法なら、田畑は恵みをもたらしつづけてくれます。ゆえに『足る』を知り、豊かに平和に暮らすことができる。自然農が僕に本当の幸せを教えてくれました」
そういえば、と川口さん。「ここ数年、近所の農家さんから差し入れをいただくようになりました」。摩紀さんが、にこにこうなずきます。長い間、「草の種や虫が飛んでくる」などの苦情や、怒られることが多かったといいますが、最近は作業をするふたりに冷たい飲み物を持ってきてくれるそう。
聞けば、自然農を反対しつづけたお母さまも、川口さんのいないところで一度だけ、「ようがんばりやった」といってくれたことがあったとか。「時間はかかりましたけど、すべてがなんとかなってます」
川口さんの「なんとかなる」は、無謀でも楽観でもなく、農家として、人として、正しい道を歩んでいるという、確かな矜持。だからこそ、川口さんは何があっても負けなかったのです。
「うちのお父さん、相当の頑固者なんです」。洋子さんが鷹揚に笑って、つぶやきました。
川口さんの夏の一日
4:30 | 起床(漢方薬を飲むときはもう少し早めに起きて煎じて一服する) |
5:00 | 田んぼ、畑へ |
9:00 | 家に戻って朝食。そのあと、穀物コーヒーとデザートでのんびりする |
11:00 | 昼寝 |
13:00 | 原稿書きや整理など、本の執筆作業 |
18:00 | 夕食 |
19:00 | 電話やFAXで塾生からの相談を受ける |
21:00 | 就寝 |
<撮影/伊東俊介 取材・文/熊坂麻美>
川口由一(かわぐち・よしかず)
1939年生まれ。中学卒業後、慣行農業に従事したのち、1978年から自然農と漢方医学に取り組む。主な著書は『妙なる畑に立ちて』(野草社)、『自然農にいのち宿りて』(創森社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです