• 「砥石で包丁を研いでみたい」と思いつつも挑戦できずにいる方も多いはず。そこで、包丁マイスターこと、刃物メーカー貝印の林泰彦さんに、ご家庭で簡単にできて確実に切れるようになる、「洋包丁の研ぎ方」を教えてもらいました。コツは、ゆっくりでもいいので、研ぐときの角度がブレないようにすること。研ぐときの力加減など細かな注意点も説明します。
    画像: 刃物メーカー「貝印」の包丁マイスターこと林泰彦(はやしやすひこ)さん

    刃物メーカー「貝印」の包丁マイスターこと林泰彦(はやしやすひこ)さん

    用意するもの:(右上から時計まわりに)雑巾、鉛筆、面直し用砥石、砥石と研ぎ台、砥石を水に漬けるための容器、新聞紙

    画像: 研ぎ台がなければ、ぬれ雑巾で代用できる

    研ぎ台がなければ、ぬれ雑巾で代用できる

    STEP 1

    まず砥石を水に浸します。砥石から気泡が出始め、出なくなったら砥石を研ぎ台にしっかりとはめ込みます。研ぎ台がない場合は、ぬれ雑巾を砥石の下に敷きましょう。

    画像: STEP 1

    砥石は水に浸し、気泡が出なくるまで待つのが基本です。砥石によっては渇きが早いものがあるため、もうしばらく浸すと安心だ。浸す時間は、砥石の説明書を参照してください。

    STEP 2

    包丁を持ち、砥石に対して斜めに置きます。刃と砥石の角度は約15度にします。小指を入れたときに、女性などの指の細い方は第一関節まで、男性などの指の太い方は爪までが入る程度が目安です。

    画像1: STEP 2

    利き手の親指はあご(刃もとにある刃の角)の近くに、人差し指は峰(刃の背中)に添えます。

    画像2: STEP 2

    砥石に対して包丁を斜めに置きます。

    画像3: STEP 2

    刃と砥石の間の角度が約15度になるよう傾けます。15度といっても厳密である必要はなく、研ぎはじめから研ぎ終わるまで、決めた角度を変えずに研ぐことが大切です。小指を使って角度を確かめるときは、刃渡りの真ん中あたりで行いましょう。

    STEP 3

    利き手でない方の指2本ほどを刃先の近くに添えて、研いでいきます。 砥石の縦方向を、なでるように前後に動かしましょう。研ぎ始めから終わりまで、約15度の角度をできるだけ変えずに保つのが、上手に研ぐコツです。

    Point1:力が入ると角度がブレやすくなるため、力はあまり入れずに研ぎます(なでる+腕の重さが乗る程度の力加減で)。前後で力の入れ具合を変える必要はありません。力を入れて早く研ごうとすると、確度がブレて丸っ刃(刃先が丸いこと)になることも。研ぐ際は、添えている指が刃先や砥石に触れないように気をつけて。

    Point2:研ぎ始めると砥石から黒い研ぎ汁が出てきますが、これは滑らかに研ぐ手伝いをするものなので、落とさないでください。途中で砥石が乾いてきたなと思ったら、手で水をぽたぽたとたらします。

    画像1: STEP 3

    包丁の角度を一定に保ったまま、砥石の上を上下に動かすことで、刃が研がれていきます。

    画像2: STEP 3

    砥石が乾いて滑りが悪いと感じたら、指先から水をたらして砥石に水分を補給しましょう。

    STEP 4

    何回か研いだら、研ぐ位置をずらします。研ぐ順番は決まっていませんが、あごの近く、刃中、切っ先(刃の先端)と研ぐ位置を変えて、刃全体を研いでいきます。包丁に添えた2本の指は研ぐ部分を変えるたびに、砥石の横幅の中心にくるようにずらしていきましょう。

    Point1:何回研げばいいかは包丁の素養や刃の状態で異なります。しっかり研げているかは、刃先にバリ(刃返り、まくれともいう)ができているかで判断します。バリについては次の手順で説明します。

    Point2:砥石は縦方向の幅をいっぱいに使って中心で研いでください。砥石の端で研ぐと、研いでいる最中に包丁が砥石から外れて、けがをする恐れがあり危険です。また、砥石全体を使って研がないと、砥石の一部だけがすり減ってしまいます。そうなると、砥石の表面が平らでなくなり、研ぐ確度にブレがでてしまいます。

    画像1: STEP 4

    あごの近くを研ぎます。

    画像2: STEP 4

    次に、刃中を研ぎます。

    画像3: STEP 4

    刃中の次は、切っ先の近くを研ぎましょう。

    画像4: STEP 4

    最後に、切っ先を研ぎます。

    Point3:包丁には反りがあるため、切っ先と砥石の間には隙間ができます。切っ先を研ぐときは、包丁のおしりを持ち上げて砥石に密着させるようにします。ただし、研ぐとぎの角度(約15度)はキープしたまま研いでください。

    画像5: STEP 4

    切っ先が浮いているところ。これでは切っ先を研げません。

    画像6: STEP 4

    持ち手を少し持ち上げて、切っ先を砥石に密着させたところ。

    STEP 5

    バリが出ているか確認します。バリとは刃先の金属が削れたものが、反対側にまくれてくるもので、手で触るとほんの少しの引っかかりを感じます。包丁を軽く洗って研ぎ汁を落としてから、確認しましょう。その際、水を含ませたスポンジを使うと便利です。

    Point:バリは髪の毛1本分ほどあれば十分で、指で触れたときにジャリッとした感触があります。切っ先からあごまで、刃全体にバリが出ていることが大切です。

    画像: STEP 5

    バリを確認するときは、指3本ほどを使い、指先で刃の側面から刃先に向かいなでるようにします。指を切る恐れがあるので、刃先だけをなぞるような触れ方はしないように注意しましょう。

    STEP 6

    次に反対側の刃も研ぎます。包丁を持ち、砥石に対して斜めに置きます。先ほどと同様に、包丁を砥石にあてる角度を約15度に保ちながら、研いでいきます。

    画像1: STEP 6

    包丁を持つ手は、利き手の親指は峰に、人差し指は刃先の近くに添えます。

    画像2: STEP 6

    利き手でない方の指2本ほどを刃先の近くに添えます。

    先ほどと同様に研ぐ部分をずらしながら刃全体を研いでいきますが、あごの近くはハンドル(包丁の持ち手)が砥石にあたりそうになるため、包丁を砥石に対して直角になるように置きます。

    ただ、この研ぎ方では角度がブレやすいので、利き手でない方の親指も添えてブレを防いでください。バリが刃全体に出たら研ぎ終わりです。

    画像3: STEP 6

    あご近くを研ぐ際は、持ち手が砥石に当たらないように、包丁を砥石に対して直角に置きます。

    画像4: STEP 6

    反対側から見た様子です。

    画像5: STEP 6

    研げているかは、バリを確認します。

    STEP 7

    バリを取ります。新聞紙を平らなところに広げ、研いだときと同じぐらいの角度(約15度)で包丁をあて、峰から刃先方向になでるようにこすります。最後に峰を上げていき、すくいあげるような感じで包丁を紙から放すといいでしょう。何回かこすったら、反対側も同様に。バリが残っていないか、刃先を手で触って確かめます。

    Point:切っ先は刃の反りによって浮いているため、包丁のおしりを持ち上げて切っ先を新聞紙に密着させた状態でバリを取ります。バリを砥石でこすって落とすのは、刃先がつぶれてしまうのでNGです。

    画像1: STEP 7

    刃を新聞紙にこすりつけて、片側のバリを取る。最後は峰側をすくい上げるように新聞紙から離すと、バリがよく取れます。

    画像2: STEP 7

    反対側の刃のバリも、同様に取ります。

    STEP 8

    しっかり研げているか、試し切りをします。スムーズに切れれば、研ぎ終わり。トマトを切ると分かりやすく、透けるくらいに薄くそげれば上手く研げている証拠です。

    画像: STEP 8

    うまく研げていれば、トマトが薄くスッと切れます。

    STEP 9

    最後に砥石のメンテナンスをしましょう。研ぎ汁を洗い流し、鉛筆で砥石の面全体に印をつけてから、面直し用砥石で10秒ほどこすります。鉛筆の跡がきれいに消えたら完了です。

    Point1:包丁を一丁研ぐと砥石は必ずへこむので、毎回メンテナンスしましょう。砥石はへこんだままでは、上手く研げません。この作業をせずに何本も包丁を研ぐと、修正に長い時間がかかり、10秒ではとても終わりません。林さんは「2mmぐらい凹んだ砥石を修正する実験をしたことがありますが、2時間ほどかかってしまいました」という経験があるそうです。

    画像1: STEP 9

    一度包丁を研ぐと砥石表面が平らではなくなります。平らに戻す目印として鉛筆で印をつけます。

    画像2: STEP 9

    面直し用砥石で、砥石表面を整えます。

    Point2:包丁研ぎに慣れないうちは、砥石表面に鉛筆で印をつけるといい。最初に面直し用砥石で数回研いでみて、写真のように鉛筆跡が残っている部分がへこんでいる場所。鉛筆跡がなくなるまで面直し用砥石をかければ、砥石が平らに戻った目安になります。

    画像3: STEP 9

    鉛筆跡が残っている部分が、砥石のへこんでいる部分です。

    余計な力を入れず、ゆっくりでもいいので、包丁と砥石の角度を保つように正確に作業すれば、どなたにでも包丁の切れ味を蘇らせることができます。料理をおいしく快適にするのに、包丁の切れ味は大切ですので、ぜひチャレンジしてみてください。



    <撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>

    林 泰彦(はやし・やすひこ)
    貝印株式会社の資格制度である「マイスター 制度」の責任者であり、包丁シニアマイスターの資格を持つ。初代包丁マイスター。小学校2年生の時から包丁を研ぎ始め、包丁研ぎ歴約50年というキャリアの持ち主。国内はもとより海外でも包丁研ぎのセミナーやデモンストレーションに登壇し、包丁愛に満ちた熱のこもった講座が多くの人に人気を集めている。

    諸根文奈(もろね・ふみな)
    出版社にて、パンやスイーツ、ナチュラルフードなど多数のグルメガイドの編集に携わったのち、出産を機にフリーランスに転身。食べる人のことを思って丁寧に作られた、体にやさしくておいしい食べ物が大好き。特技は極狭キッチンでやりくりすること。


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