• 「砥石で包丁を研いでみたい」と思いつつも挑戦できずにいる方に向けて、包丁マイスターこと林泰彦さんから、ご家庭で簡単にできる包丁研ぎの方法を教えていただきます。今回は、「包丁のカスタマイズ」など上級者におすすめの応用術と、包丁と長く付き合うための基本をお届けします。
    画像: 刃物メーカー「貝印」の包丁マイスターこと林泰彦(はやしやすひこ)さん

    刃物メーカー「貝印」の包丁マイスターこと林泰彦(はやしやすひこ)さん

    今回は、包丁研ぎ上級者に向けた応用術と、包丁と長く付き合うための基本を紹介します。「包丁のカスタマイズ」という耳慣れない言葉も飛び出してきて、包丁の奥深い世界に魅了されました。

    長年使って幅が短くなった包丁を復活させる方法

    「包丁を長年研ぎ直していると、刃幅(刃から嶺の幅)が少しずつ細くなり、包丁の厚い部分に刃が近づいていきます。すると、食材を切るときの抵抗になり、切り裂くのに重く感じるように。そんなときは包丁の厚みをそぎ落とすように研ぐことで、切れ味が復活します。

    包丁(洋包丁)を砥石にぺたんと密着させます。そうすると、糸小刃(いとこばと読み、刃先についている1mmあるかないかの刃)があるため少しだけ刃先が浮きます。その状態から峰側をほんの少し持ち上げると糸小刃が砥石にあたります。この角度と、持ち上げる前の角度の中間の角度に包丁を傾けます。強いていうと紙が一枚入るかどうかの角度です。

    画像: 紙が一枚入るかどうかの微妙な角度

    紙が一枚入るかどうかの微妙な角度

    ①の状態で包丁を研ぎ、包丁全体を削っていきます。包丁の厚みを把握するには、包丁を砥石に寝かせたまま“ぐりぐり”と動かし、砥石から伝わる感覚でつかまなくてはいけません。分厚い場所があったら、そこを研いで削ります。

    画像: 分厚い部分を研いだ研ぎ跡。刃先は削れておらず、糸小刃が残っているのが分かる。糸小刃がだんだん小さくなるまで研いでいく

    分厚い部分を研いだ研ぎ跡。刃先は削れておらず、糸小刃が残っているのが分かる。糸小刃がだんだん小さくなるまで研いでいく

    ③ 分厚い部分を削り終わったら、次は糸小刃をつけます。これは、「包丁マイスターに教わる、洋包丁(両刃)の研ぎ方」と同じ手順です。というのも「洋包丁の研ぎ方」で教えた研ぎというのは、実は糸小刃をつける作業なんです。糸小刃をつけてバリを取ったら終了です。砥石のメンテナンスも忘れずに。

    刃先をカスタマイズして自分好みの切れ味に

    「最近になり、講習会などで包丁のカスタマイズの話をするようになったのですが、皆さん感心してくれることが多くて。包丁のカスタマイズとは、刃先の角度を自分好みにアレンジするということです。

    たとえば洋包丁は工場出荷のとき、片側15度、両側で合計30度ほどの刃がついていますが、『私はもっと切れなきゃいや』という方は、うんと鋭角に研いでみるのもそのひとつ。逆に骨を断ち切るような使い方をしたい包丁なら、うんと鈍角に研ぎます。

    ただ、鋭角に研ぐと刃先は弱くなりますし、鈍角に研ぐと刃先は強くなりますが、切れ味はそんなによくない。その特性を理解した扱い方ができればいいのですが、弱い刃先で硬い野菜を切ったりですとか、包丁に適さない使い方をすると刃をいためてしまいます。

    このほかに、同じ包丁をふたつ手に入れて、刃先の角度をそれぞれ変えて使い分けるなんていうのも、カスタマイズの面白さですね」

    包丁研ぎに慣れてきたらぜひ実践を! 砥石のもっと深い話

    「和包丁を研ぐときは、削る体積がすごく大きいので、砥石の減りがとても早いです。場合によっては、研いでいる途中で、面直し用砥石でメンテナンスしてもいいほどです。

    基本の研ぎ方のところで、砥石の真ん中を使って研ぐと教えましたが、研ぎに十分慣れているなら、左右の端も使って砥石の面全体で研ぐと効率アップできます。ただし、砥石から包丁が外れてしまわないよう気をつけてください」

    画像: 砥石は、砥石表面で平らに整える。洋包丁は1回研ぐごとに、和包丁は研いでいる最中に何回かこの作業を行うといい

    砥石は、砥石表面で平らに整える。洋包丁は1回研ぐごとに、和包丁は研いでいる最中に何回かこの作業を行うといい

    包丁を長持ちさせる方法

    画像: 「包丁は食文化を下支えする道具。『いい包丁を気持ちよく使い、楽しくお料理して、最終的に美味しいものを食べる』そのお手伝いができればと思っています。ぜひご自分で研いで、いい包丁を長く使っていただきたいです」と林さん

    「包丁は食文化を下支えする道具。『いい包丁を気持ちよく使い、楽しくお料理して、最終的に美味しいものを食べる』そのお手伝いができればと思っています。ぜひご自分で研いで、いい包丁を長く使っていただきたいです」と林さん

    「包丁を長持ちさせるのに重要なことは、『よく洗って、よく乾かす』こと、これに尽きます。あとは、やってはいけないNG項目があるので、それを守ることが長持ちにつながります。よくご存じかとは思いますが、うっかりやっていないかチェックしてみてください。鋼もステンレスも同じです」

    1 冷凍した食材や骨類など硬い食材を切らない。 硬いものを切ると、刃こぼれしたり刃先がいたむことがあります。

    2 刃を直火で温めない。刃を直火で温めると、せっかくの焼き入れをダメにしてしまいます。ケーキを切るなど刃を温めたいときは、お湯を使いましょう。100℃ほどまでは耐えられるので、熱湯でも大丈夫です。

    3 食器洗い洗浄機にかけない。包丁を食器洗い洗浄機にかけると、どんどん包丁はいたんでいきます。ただし、食洗器に対応している包丁もありますので、説明書に従ってください。

    4 漂白剤は使用しない。塩素は金属によくないので、漂白剤の使用はNGです。野菜のアクなど、食器用洗剤で洗っても落ちない汚れは、メラミンスポンジでこするときれいになります。

    いかがでしたでしょうか? 「包丁研ぎ」レッスンはこれで終了です。一度挑戦してみると、包丁研ぎはそれほど難しくないと感じていただけるはず。ぜひ習慣づけてみてください。



    <撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>

    林 泰彦(はやし やすひこ)
    貝印株式会社の資格制度である「マイスター 制度」の責任者であり、包丁シニアマイスターの資格を持つ。初代包丁マイスター。小学校2年生の時から包丁を研ぎ始め、包丁研ぎ歴約50年というキャリアの持ち主。国内はもとより海外でも包丁研ぎのセミナーやデモンストレーションに登壇し、包丁愛に満ちた熱のこもった講座が多くの人に人気を集めている。 

    諸根文奈(もろね・ふみな)
    出版社にて、パンやスイーツ、ナチュラルフードなど多数のグルメガイドの編集に携わったのち、出産を機にフリーランスに転身。食べる人のことを思って丁寧に作られた、体にやさしくておいしい食べ物が大好き。特技は極狭キッチンでやりくりすること。


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