• 東京・秋葉原にある、カフェ風精進料理のお店「こまきしょくどう」おかみの藤井小牧さんによる、日々の暮らしや食などを綴る連載です。精進料理のレシピもときどき紹介。今回は、こまきしょくどうからの大事なお知らせです。

    大切な人たちを守るために。
    「こまきしょくどう」も、お休み中です

    なんだか世の中ザワザワしておりますね。皆さまいかがお過ごしでしょうか? 2020年4月7日より「こまきしょくどう」も世にならい、休業をしております。

    2014年7月オープン以来、インバウンド・ダイバーシティという流れに背中を押していただき、海外のお客さまが6割、国内のお客さまが4割、この数年はこのような割合でお越しいただいております。

    40年近く前に、鎌倉の山の中で父がはじめた精進料理塾が、秋葉原の高架下で和食のベジタリアン料理が食べられるカフェへと変化してきました。そして、大切な人たちを守ることにつながるならと、しばらくお休みをいただくことにいたしました。

    店を1カ月も休むだなんて不安でしかたなかったのですが、不安なのは私だけではなく世界中の皆さんも不安なはず。忙しかった時、手帳にやることリストをまとめていたので、それを開き片づけています。

    忙しかったらできなかったことをできる余裕がなんと幸せなことなんだろうと、しみじみ思っています。家庭としては10年以上ゆっくりとした時間を過ごしていなかったこともあり、家の中でていねいに過ごすというのんびりとした時間を楽しんでいます。店をオープンした時はピカピカのランドセルを背負っていた娘たちが今ではセーラー服を着ていることにも今更ですが驚いています。

    実感をする間もなく時間は経っているのですね。

    今は、成長してきた今までの人生、さらに成長していくこれからの人生を考えるべく、ていねいな生活を送ることに軸をおけるよう過ごしています。次の変化をするには良いタイミングかと。

    そう考えると「どう過ごすか」の今が、「どう過ごしてきたか」と次の未来で立ち止まったタイミングできっと穏やかに受け入れられるのではないかなとぼんやり考えています。

    そんななか、この春から長女が他県の学校に入学しました。今住んでいる街にも学校はたくさんありますが、身近に農業・食品加工を直に学びたいと寮のある自然あふれる学校を自ら選んだのです。

    15歳で親元を離れるって大丈夫なの?と不安もありましたが、ありがたいことに担任の先生から応援していただいたことが励みになり進学を決め、今は機嫌よく過ごしています。

    精進料理では感謝して食事をいただくということを大切に考えます。でも、日々の日常では食べることに感謝をするということは案外気づきにくいことだとも思います。

    私でも食べ物が自分の食卓に届くまでにどれだけの人々の手を介してきているかを見たり、聞いたり、体験することによって感謝は生まれてくるんだと、この数年の生産者さんとの関わりで実感してきました。

    どなたかのおかげでこの食があること、そう思える体験が彼女もできることを願ってます。

    会社勤めの友人たちも働き方、生活が変わりました。仕事がリモートになり、子供たちは休校のため毎日・毎食ご飯をつくらないといけないのが初めは苦痛だといっていましたが、こんな生活も慣れてくると、今までは仕事帰りにお惣菜を買っていたのが、家族で手づくりのご飯を食べる時間が増え、料理に時間をかけるのも以外に気分転換に良いと思えるようになり、給食やレストラン用食材の「食品ロス問題」をニュースで見て何かできないか?と思うようになり、普通のスーパーで野菜を購入していたのが、自然食品店のものだと切っただけでもおいしいので利用するようになったそうです。

    家にいる子どもたちに料理をさせると楽しいようで、調味料のさ・し・す・せ・そに興味を持っているから教えて欲しいという連絡もきました。「誰かのために、自分のために食べる」というこれからの食のキーワードになるような、消費者側も食への考え方も新しく変わっているように思います。

    食を提供する生産者側とこの数年話していたことは、いままでの消費者が求めることは味覚でおいしいが一番でした。甘い野菜、旨味が強すぎる調味料など、「わかりやすいおいしさ」が求められてきました。

    いまでは、食材の背景やストーリーがご馳走と感じてくれる人が少しずつ増えてきたと喜んでいます。消費者と生産者が良い食へ伴走していく価値観が、こんなザワザワした時期だからこそ嬉しく感じられます。

    ちょっとお休みをいただきのんびりまわりを見渡しただけでこんなことが身近に増えはじめているので、再びお店を開ける時にはまた、新しい「つくること、食べること」と出合えそうで、少しワクワクしています。

    それまでは、ひと休み、ひと休み。


    画像: 大切な人たちを守るために。 「こまきしょくどう」も、お休み中です

    藤井小牧(ふじい・こまき)
    東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。

    「こまきしょくどう」は現在休業中。2020年5月下旬再開予定。

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    天然生活の本『こまき食堂』(藤井 小牧・著)
    天然生活の本
    『こまき食堂』(藤井 小牧・著)

    天然生活の本『こまき食堂』(藤井 小牧・著)

    B5判
    定価:本体 1,400円+税
    ISBN978-4-594-08460-8

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