• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、「木」が出てくる絵本を紹介します。
    画像: 「木」が出てくる絵本3冊|ずっと絵本と。

    新緑が美しい季節になりました。いろいろなことがありますが、自然の中に身を置くと、ふっと心がゆるみます。そこで今回は、「木」が出てくる絵本を選びました。

    『森はオペラ』(姉崎一馬/写真・文 クレヨンハウス)

    画像: タイトルの森の字に、新芽が。

    タイトルの森の字に、新芽が。

    この本は、自然写真家である著者が、森の木々を撮影した写真に言葉を添えた写真絵本です。

    「森をあるくと 遠くで 近くで きこえる」

    きこえるのは、低い声、高い声。響く声、かすれた声。

    画像: 深い森の中を歩いている気分になります。

    深い森の中を歩いている気分になります。

    森に分け入ると、外界の音がシャットダウンされ、しーんとした静けさが訪れたのちに、風にそよぐ葉ずれや、木々のぴしっ、みしっと鳴る音などが絶え間なく聞こえてきます。

    わたしはそれを歌と思ったことはありませんでしたが、自然に親しむ著者には、歌、それも壮大なオペラのように聞こえるのでしょう。

    画像: この木は、どんな声で歌うのでしょうね。

    この木は、どんな声で歌うのでしょうね。

    今度、森を訪れることがあったら、木々に耳をすませて、思い思いの歌を聞いてみたいと思うのです。

    巻末には、本に登場する木がどこの何の木かキャストとして紹介してあって、木の名前を覚えられるのもうれしいですね。

    『ぶたのたね』(佐々木マキ/作 絵本館)

    画像: うれしそうに火を焚くおおかみ。ぶたさんの運命やいかに……。

    うれしそうに火を焚くおおかみ。ぶたさんの運命やいかに……。

    主人公は、走るのが遅いおおかみです。
    あまりにも遅いので、ぶたを捕まえられた試しがありません。

    ある日、ぶたにばかにされたおおかみが泣いていると、きつね博士がやってきて、ぶたの実がなる木のたねをくれるというではありませんか。

    ぶたのたねと、成長が早まる薬をもらったおおかみ。毎日、大切に育てていたら、とうとう、まるまると太ったぶたが何匹も実って……。

    画像: たわわに実ったぶたたち。木がちいさいときは、どんな姿だったのでしょうね。ちいさいぶた?

    たわわに実ったぶたたち。木がちいさいときは、どんな姿だったのでしょうね。ちいさいぶた? 

    走るのか遅くて泣き虫なおおかみというユニークなキャラクターに、ぶたのなる木という奇想天外な設定は、かたくなった大人の頭をやわらかく刺激してくれます。

    ちょっと心がくたびれちゃったな、というときに、ふふっと笑わせてくれるこういう絵本は、本棚の定位置に常備薬のように置いておきたいのです。

    『木をかこう』(ブルーノ・ムナーリ/作 須賀敦子/訳 至光社)

    画像: 木の成長にはなにやら規則性があるようです。

    木の成長にはなにやら規則性があるようです。

    世界的に有名なイタリアの美術家、ブルーノ・ムナーリによる、木の描き方を紹介する絵本です。

    木の枝は、幹から遠くなるほど細くなります。そして2本に分かれるものや3本に分かれるものなど、さまざまありますが、2本に分かれるものは、まず幹から枝が2本出て、その枝がまた2本に分かれ、と成長していきます。

    画像: 枝の太さや別れる位置はいろいろあっても、ルールは同じ。

    枝の太さや別れる位置はいろいろあっても、ルールは同じ。

    風に吹かれて曲がった木もあれば、枝が垂れてしだれ柳のようになった木もあります。2本の枝のうち、1本だけが長くなったり、短くなったりしたものも。

    それでも、よく見ると、規則性は保っています。

    画像: 葉っぱの葉脈のような姿をした木も。木にはいろいろな種類がありますからね。

    葉っぱの葉脈のような姿をした木も。木にはいろいろな種類がありますからね。

    この本では、いろいろなタイプの木を紹介しながら、その描き方を教えてくれます。

    でも本当に大切なことは、木が上手に描けるようになることではないんですよね。ものごとの本質をよく見ること、そして、完璧でなくてもいいから、自分の手でつくってみること、いろいろ試してみること。

    そんなメッセージが伝わってくる気がしますし、これはさまざまなことに当てはまるのだろうな、と思っています。


    画像: 『木をかこう』(ブルーノ・ムナーリ/作 須賀敦子/訳 至光社)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>


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