• 東京郊外に生まれ、南信州に暮らすライター・玉木美企子の日々を綴る連載コラム。村での季節のしごとや、街で出会えたひとやできごと、旅のことなど気ままにお伝えします。今回は、三度三度家族で食卓を囲むことが多くなった日々のなかの、小さな気づきのお話を。

    自宅待機とたまご料理

    すごしやすい季節、いや暑いくらいの日も増えてきましたね。

    眩しい日差しと茂る青葉、ここ伊那谷にもいよいよ田植えの季節がやってきました。田んぼの水路に勢いよく水が流れ込むようになると、夕方からはカエルの大合唱が響き渡り、「どこにそんなに隠れていたの?」と驚くほど。

    しかし一方で、今季は冬の間に雪が少なかったので、周囲では水不足を心配する声も聞かれます。こんなご時世、せめて一年一度の新米の実りは豊かなものであってほしいと、今は願うばかりです。

    かくいう私も、従来ならば西へ東へと取材に飛び回ることが常でしたが、今は家にいる時間がすっかり長くなりました。その流れで、庭いじりをしたり、野菜を植えたりする時間も増え、なんとトラクター耕運機の運転にも挑戦しました!

    画像: トラクター初挑戦のようす。この機械でまず田んぼの土をふかふかに起こし、その後、土を平らにならし(代かき)、やっと田んぼに水が入れられます

    トラクター初挑戦のようす。この機械でまず田んぼの土をふかふかに起こし、その後、土を平らにならし(代かき)、やっと田んぼに水が入れられます

    いつもは夫任せにしていた米作り。最初から(少しずつですが)関わってみると改めて、田植えや稲刈りといった「ハレの日」に至るまでに、「名もなき仕事」がたくさんあることに気づかされます。

    冬の間眠らせていた水路の掃除や、土手の草刈り、刈った草は水路に詰まらせないようにまとめて、運んで、山にして……と、名もなき仕事ほど、時間も労力もうんと必要。まさに、家事と同じですね。

    趣味程度の小さな田んぼでもこれほど大変なのですから、農家のみなさんのご苦労はいかばかりかと感じ入ります。

    さて、そんな風に、何につけても否応なしの大きな変化続きだったここ数ヶ月間。夫も在宅での仕事となり、一番増えた家事といえば、やはり3度の食事作りでしょう。

    テイクアウトももちろん楽しんでいますが毎日ではお財布の中身が心配。なんだかんだと工夫をしながらやりすごすなかで、わが家ではにわかに「たまご料理ブーム」が到来しました。

    まず、私がかつて吉祥寺のハーモニカ横丁でいただいた味の記憶を頼りに作り始めた「納豆オムレツ」が、小学5年生の長男の大のお気に入りに。

    溶いたたまごに納豆と、納豆に添付されているタレを入れて焼くだけの手軽さもあいまって、ついに長男が「自分で作る!」と言いだして。次男も加わり、しばらくの間、ずいぶん楽をさせてもらいました。

    画像: 長男作の鶏の照り焼きと、納豆オムレツ。次男は上手にピーマンを細切りにして、好物のじゃこピーマン炒めを作ってくれました

    長男作の鶏の照り焼きと、納豆オムレツ。次男は上手にピーマンを細切りにして、好物のじゃこピーマン炒めを作ってくれました

    次にやってきたのが、中華風たまご炒めブーム。

    この季節、毎年恒例のように近所のスーパーマーケットで愛知県産のトマトがうんと安く手に入るので、家にたくさんあるトマトを使って「そうだ、たまには中華風に」と、新たな味に挑戦してみました。

    すると、いわゆる欧風のオムレツと、中華風のたまご炒めは、(あくまで私が作っている感覚で、ですが)作り方のポイントが正反対なことにびっくり。

    フライパンの上で卵を手早くかき混ぜるとおいしいオムレツに対し、中華レシピは箸で「寄せる」くらいが、ちょうどいいようです。また卵液にあらかじめごま油を少々入れておくのも、おいしく仕上げる大きなポイントと感じました。

    上手にできた時の食感は、オムレツはふんわり、中華たまごはツルリ&トロリ。トマトだけでなく長ネギや“カニカマ”(!)を入れるのも好評です。

    画像: 中華風たまご炒めを、伊那谷在住の鍛造作家・河原崎 貴さんのフライパンで。こんな風に周囲からたまごに火が入ってきたら、ヘラで中心に寄せるようにして、できあがりです

    中華風たまご炒めを、伊那谷在住の鍛造作家・河原崎 貴さんのフライパンで。こんな風に周囲からたまごに火が入ってきたら、ヘラで中心に寄せるようにして、できあがりです

    おいしいたまご料理は、家族みんなで囲む食卓の名脇役として、すっかりわが家に欠かせない存在になっています。

    副菜というと、「結局メインを作らなくてはいけない……?」と思いがちですが、たとえばメインが焼き魚で副菜がたまご焼き、とすれば、メインは魚焼きグリルにお任せしておくだけ。

    魚を焼いているうちにたまご炒めを作り、そこに箸休めの漬物とみそ汁でも出せれば、ずいぶんと優等生の食卓ではないでしょうか。

    もちろん、たまご料理だけの日があってもいいはず。私も先日、なんだか疲れてしまってお茶漬けだけの晩ごはんにしたら、あの味がいい、この味もいける、と、全員で盛り上がりそれはそれで楽しい食卓になりました(長野名物、野沢菜茶漬けの素もおすすめですよ!)。

    一人になれる時間も少ない今、きっと各自がストレスを溜めずに笑顔でテーブルを囲めることが、なによりのおいしさの秘訣になるのでしょう。

    最後に、もしこれをお読みになりたまご焼きを食べたくなった方に、もう一つのポイントを。

    できれば1回に3個以上、たまごを使ってみてください。たまごのおいしさに肝心な「食感」が損なわれにくく、ぐっと成功率が上がるのは、オムレツとたまご焼き共通の実感でした。どうぞ、お試しになってみてください。


    画像: 自宅待機とたまご料理

    玉木美企子(たまき・みきこ)
    農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も

    <撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>


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