• 東京・秋葉原にある、カフェ風精進料理のお店「こまきしょくどう」おかみの藤井小牧さんによる、日々の暮らしや食などを綴る連載です。精進料理のレシピもときどき紹介。今回は、自粛期間中に手に入れた便利な調理家電のおはなしです。

    新しい料理道具

    なんだかやる気が出ない日々を過ごしています。

    自粛期間に入り、いままでずっと仕事をしてきたのにいきなりお店をお休みする状況となりました。ゴールデンウィークに入るまでに、断捨離も、録画したテレビも見尽くし、マスク作りも十分できました。パソコンのデスクトップに散乱していた資料もフォルダーに整頓したし……毎日やることを探してもそろそろ見当たりません。

    さて、わが家の台所事情ですが、長女が高校の寮に入ったため食事の消費量が減りました。こんな状況なので台所に立つ時間は増えましたが、女ふたりではなかなか食が進みません。

    次女は、普段は運動部で活動をしているのですが、いまは体を動かせずただ自室に篭り山の様な課題に取り組んでいます。

    私もたまに出かけますが、それでもお腹すいた!となることはあまりありませんから、つくるものは簡単なものばかり。なんだかやる気が食卓にも現れ出しました。

    自粛期間になり始めの1週間は、掃除・片づけをしていたので、とにかく家を軽くすることがテーマでした。自粛生活を過ごさないといけない方々には、きっと共感いただけると思います。こんな時期なかなかない……でもなかなか処分ができないのが「台所用品」でした。

    こんな仕事をしていることもあり、台所用品はいわば戦友!なので、どうしても手放すことができません。

    10代の頃から少しづつ増えていった、愛着がありいまだに捨てられないもの。

    デンマークへ訪れた際、コーヒーを飲みに行く途中に迷子になって見つけた古道具屋で買ったボウル。

    自分の名前で料理教室の講座を持たせてもらったころ、フランス旅行中に立ち寄った蚤の市で買った、ただただ重いオーバル皿。

    友達との発酵食材を探す旅で、餅米のルーツを見に出かけたベトナム・メコン川の水上市場で購入したまな板。

    そんな思い出の詰まったものたちは、引っ越しのたびに段ボールにていねいにしまい、住まいを点々とともにしてきました。そんな、娘より長く共に過ごしてきた台所用品なので、簡単にお別れできるわけがありません。

    そもそも、新しいものを買うということが台所用品はあまりないのかもしれない。いままでの道具に申し訳ないので、壊れて使えなくなるなどその席が空かない限り買わないのです。とくに家電となると、コンセントはいるし、置き場所が必要になります。

    わが家には最低限の家電としては冷蔵庫くらいしかなかったのですが、炊飯器と電子レンジをこの数ヶ月の間に娘にせがまれ購入しました。さすがにお鍋でご飯を炊くことや、蒸し器で温めるのは今時ではなさそう。そうはいっても、電気ケトルやトースターやジューサーは、引き続き購入の予定はありません。

    そんな私が、これを機にあらたにもうひとつコンセントのある家電を購入しました。

    その名も「電気圧力鍋」。

    画像1: 新しい料理道具

    そもそも、電気ケトルのような日常的に使いそうなものを差し置いて、電気圧力鍋を置くなんて……。考えてもみなかった。

    今年の1月末に、心の師と仰ぐ料理家先生の料理をいただく会にお邪魔したところ、そこに並んだものすべてがおいしく、先生の本は大体購入してしまったほど。たまたま仕事で最近の家電の仕事をしたらしく「電気圧力鍋には素晴らしい可能性を感じる」と目を輝かせていたのが印象的で興味はありましたがやはり「コンセントかー……」と、渋っていました。

    が、家を掃除するため棚を動かしたら、二口コンセントが出てきたのです。 しかも台所の動線を考えてもちょうどいいところに。ならばと、勢いで購入してしまいました(炊飯器を買うときより簡単に購入ボタンを押していました)。現代の通販は早いもので、翌日夜には到着。待ってました!と、まずは小豆を炊いてみることに。

    ピーとなって開けてみると、ふっくら。豆は火が一番と思っていましたが、なんとおいしいこと。

    キャベツのポトフは最高だし、かぼちゃの塩煮も焦げずにやさしい味がしっかり出ている。なんと便利なものか。

    画像2: 新しい料理道具

    しかも何がいいって、食材を切ってボタンを押すだけ。慣れてくればいろんな料理に挑戦したいものです。いままで家電という家電を置いていなかったので、こんなにスイッチポンが便利なのかと改めて現代の調理家電に感動しました。

    正直これを読んでいただく方には笑われそうですが、本当に私はボタンひとつでできる調理家電を持っていなく、料理は割とていねいにつくっていたので、ボタンを押すだけでほかの手仕事の時間ができたことが何よりも幸福に思えました。

    いままでは、ごはんを鍋で炊きながら煮物・焼き物をしてグリルを使ったら火がもう使えませんでした。ごまを煎りたいなと思っても、どれかが終わらないと使えなかったことが、これがあれば時間が増え、料理に余裕ができます。

    昔ならば、おばあちゃんや子どもが手伝うことで一汁三菜の家庭の食卓が成り立っていました。わが家は女ふたり。手はあってもその手は違うことをせねばなりません。一日中台所にいられたら幸せですがそうもいかないのが現代の食卓です。

    先の先生がおっしゃっていた「この家電には素晴らしい可能性を感じる」という言葉は、手がない分の時間をつくる、これからの家庭への光だなと改めて納得しました。

    画像3: 新しい料理道具

    ていねいなごはんは昔ながらの道具でつくるのイメージがありますが、自分の代わりに手間をかけてくれる道具も大事な食卓の戦友です。料理が楽しくなるならこんなスイッチポンは大歓迎。

    そろそろ自粛も終わるでしょうか。また、あたらしい「家族の食のかたち」ができそうです。

    何はともあれ楽しく食卓を囲める日々に感謝したいですね。


    画像4: 新しい料理道具

    藤井小牧(ふじい・こまき)
    東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。

    「こまきしょくどう」は新型コロナウイルスの影響で休業をしていましたが、2020年6月8日より営業を再開しました

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    天然生活の本『こまき食堂』(藤井 小牧・著)
    天然生活の本
    『こまき食堂』(藤井 小牧・著)

    天然生活の本『こまき食堂』(藤井 小牧・著)

    B5判
    定価:本体 1,400円+税
    ISBN978-4-594-08460-8

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