• 東京郊外に生まれ、南信州に暮らすライター・玉木美企子の日々を綴る連載コラム。村での季節のしごとや、街で出会えたひとやできごと、旅のことなど気ままにお伝えします。今回は、梅雨入りを迎えた伊那谷で、雨の日に思うあれこれをお伝えします。

    雨が降っています。梅雨らしい天気です。東に大きく窓が開いたわが家のリビングから、降り続く雨の庭を眺めています。

    打ち明けるのもお恥ずかしいのですが、大学では心理学を学んでいました。まったくの劣等生ながらなぜか、深く印象に残っているのが、認知心理学という授業のなかで聞いた「プルキンエ現象」のこと。

    プルキンエ現象とは大まかに言えば、「晴れの日には赤、雨の日には青や緑が強く目に飛び込んでくる」という、人間の視細胞の特性が引き起こす現象のことです。

    画像1: 村暮らし、まちあるき。
第12回 雨の日には、緑|玉木美企子

    たしかに、晴れの日よりも雨の日のほうが、庭の草木の緑が強く目に入り、迫ってくるように感じます。

    だからでしょうか、こちらへ越して来たころは雨が降り続くとなんだか山や草木がこちらへ覆いかぶさってくるようで、ざわざわと不安にかられたものです。山道を歩いているときにも、ふと日が陰ると目の前に広がる色が一段濃くなって、とたんに表情が変わる気がしますね。

    人間の視覚のいたずら、とはいえあの深い緑色の風景たちは、強い印象として胸の内にたくさんしまわれているように思います。

    そんなことからいろいろと考えて思い返してみれば、そうそう、ここへ来たばかりのときは緑だけでなく、夜の闇もうんと怖かった。家で寝ているのに、外で聞こえる葉擦れの音や、人間以外の生きものたちの気配が、とても近くに感じたのです。

    おそらく、都市の生活よりも自然との距離が近いこの環境に、まだ慣れていなかったのでしょう。

    画像2: 村暮らし、まちあるき。
第12回 雨の日には、緑|玉木美企子

    今でもときどき、怖くなります。風の強さや満月の光の強さ、すぐ耳元で鳴っているような雷の音も。

    けれどそれは決して悪いことではなく、自然災害の危険性を意識することも含めて、そうした怖さ、畏れを抱いて生きることは、ここで暮らしていることの大切な意味でもあるようにも思うのです。

    天然生活8月号には、野草やハーブを使ったたくさんの知恵が紹介されていましたね。

    私も、先ほどご紹介したドクダミを少しだけ摘んで、アルコールに漬けて、はじめてドクダミの花チンキを作ってみました。まだ使うには早いのですが、つい先日試してみたら、スッとして気持ちがよかった。これはいい感じです。

    ときに自然を畏れ、ときに自然に助けられて。

    そんな日々を無理せず、すこしずつでも、私の新しい「あたりまえ」にしていけたらいいなと思っています。

    画像3: 村暮らし、まちあるき。
第12回 雨の日には、緑|玉木美企子

    画像4: 村暮らし、まちあるき。
第12回 雨の日には、緑|玉木美企子

    玉木美企子(たまき・みきこ)
    農、食、暮らし、子どもを主なテーマに活動するフリーライター。現在の暮らしの拠点である南信州で、日本ミツバチの養蜂を行う「養蜂女子部」の一面も

    <撮影/佐々木健太(プロフィール写真)>


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