• 東京・秋葉原にある、カフェ風精進料理のお店「こまきしょくどう」おかみの藤井小牧さんによる、日々の暮らしや食などを綴る連載です。精進料理のレシピもときどき紹介。今回は、とっておきの「海苔」のお話です。

    かっぱ橋のオアシス「ぬま田海苔」

    こまきしょくどうの再オープン前に訪れた「かっぱ橋通り」は、以前お話したお寺さんから自転車で1分のところにあり、大きな「ニイミ」の看板が目印です。

    いわずと知れた世界中の台所好きが集まる、調理道具街。世界の市場を巡るときも、調理道具がまず目に入り、現地の食堂の調理人を見ながらこう使うのか……と興味津々で眺めてくるほどに、もちろん私も大好きです。

    かっぱ橋は、上野・浅草間を南北つなげ、大きな店から小さな店まで、調理・製菓道具、お店のユニフォームや調理関係者が集う喫茶店などがあり、いつも忙しくにぎやかな商店街であります。

    ニイミの看板を左、向かいの交番を右にして、入谷方面に続くかっぱ橋道具街を歩き出すと、ウキウキし始めるのは私だけではないはず。

    このあたりは大きく四つのエリアに分かれています。かっぱ寺で有名な曹源寺がある「松が谷北地区」、矢先稲荷神社がある「松が谷南地区」、道具街を挟んで言問通り側(浅草寺側)の「西浅草北地区」(ついお店ばかり見てしまいますがぜひ上を見てください。スカイツリーがきれいに見えます)、私の行きつけの道具屋や昔からある甘味屋さん、東本願寺がありウキウキし始める「西浅草南地区」。

    いまのかっぱ橋は外国人観光客がいないので、子どものころ祖父に連れられ歩いたときと雰囲気が変わらず、懐かしい気持ちが込み上げます。いつもの包材屋の方と話していると、昨今のテイクアウト需要やオンライン発注が大忙しのようです。

    いろいろお話をお聞ききしたかったのですが、けたたましくなり続ける受話器を肩と耳で挟みパソコンを叩いて、お客さんに商品を案内している様に圧倒され、店を後にしました。

    早々に買い物を切り上げ、かっぱ橋のオアシス「ぬま田海苔」へ。

    画像1: かっぱ橋のオアシス「ぬま田海苔」

    「ぬま田海苔」は、川崎で「大師のり」といわれる上質な海苔が養殖されていたころ、奉公先の海苔問屋から独立した一代目が開いた「沼田治雄商店」から始まりました。

    その後、川崎の漁場は100年の歴史の幕を閉じるのですが、変わらぬ本物の海苔の味を求めて、九州・有明海の海苔を扱うようになりました。「東京の食の勉強会」でご縁をいただいた4代目の沼田晶一朗さんは、海苔の本当のおいしさと奥深さを広めるために、いまも上質な有明海苔を紹介しています。

    その海苔に魅了された、海外の料理人やチョコレートの巨匠が来店するなど、世界に日本の食文化を「海苔を通じて」伝えているのです。

    画像2: かっぱ橋のオアシス「ぬま田海苔」

    店内に入るとまず見入ってしまうのが、海苔のプレス機。海苔を買うと、乾海苔をその場で焼いてプレゼントしてくれます。プレスでしっかりと伸びた海苔のなんとおいしいこと。口の中で解け溶けていく様には「はあ……」とため息が漏れてしまいます。

    そして今回ご紹介いただいた「久保田町壱〇1」(商品名です)は、味付け海苔?と思ってしまうほど味がしっかりとして旨みのある海苔でした。

    画像3: かっぱ橋のオアシス「ぬま田海苔」

    購入して帰路につき、ウキウキと「これは鍋で炊いたご飯と食べたい!」と勇んで米を研ぎ、少し硬めにと水分を少し減らしておこげ手前で火を止めました。蒸らし用にセットしたタイマーが10分ちょうどで鳴ると同時に海苔の袋を開け、茶碗にご飯をよそうより前に海苔で巻いて何もつけずにひと口。

    舌の上に「久保田町壱〇1」巻きの熱々ごはんをのせると、海苔の香りがやさしく香ります。

    あれ?海苔なのに磯の香りがあまりない……でも、ものすごく旨みが強くておいしい。いままでにない海苔のおいしさに驚きです。

    これまでおいしい海苔と思っていたのは、磯の香りが強いものが多かったのですが、これは海苔のおいしさを表現するのに、香りが強いものの方がおいしいという思い込みから来たのでしょうか。2口、3口食べ進めても、磯の香りをあまり感じません。

    この漆黒の凛とした海苔に興味津々で、疑問を沼田さんに連絡すると、その違いは「漁場の違い」「焼き方の違い」だと教えてくれました。

    この海苔の産地は、佐賀の六角川の河口にある久保田町の漁場で、「強い旨みと柔らかさ」が特徴です。その理由は川の温度や旨みが溜まりやすい立地だからなのだそう。そうか!漁場の違いで美味しさが異なるのか!と手を打ちました。

    私がいままで食べてきた磯の香りがたつ海苔は、「磯の香りがたつ」漁場で採れた特徴の違う海苔だったのです。

    街中の海苔屋さんは、漁場で海苔を買ってきて商品として加工します。その加工の仕方がそのお店の特徴になり、お客さんは「海苔はやっぱりこの店じゃなきゃ。うちは代々ここなのよ」と長いお付き合いへとつながるのです。

    産地、季節、養殖・採取方法・干し方、焼き方で海苔の味が変わる話をていねいに話してくれて、その様子をイメージしながら海苔と向き合える「ぬま田海苔」は、世界からファンが押し寄せるのも不思議ではありません。

    味付けやパッケージ、カットも様々な海苔が並び目移りしながら陳列されているスーパーで買うのも好きですが、専門店で商品説明を伺い愛でながらの買い物は、心の満足度が違います。誰から何が買いたいかが肝心だと思うのです。

    あっという間に一袋食べてしまったので、また、ぬま田さんに海苔を買いに行かなきゃ……。次はどんな海苔との出会いが待っているのでしょう。

    画像4: かっぱ橋のオアシス「ぬま田海苔」

    画像5: かっぱ橋のオアシス「ぬま田海苔」

    藤井小牧(ふじい・こまき)
    東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。

    ホームページがリニューアルしました。
    こまきしょくどう 鎌倉不識庵

    https://www.kamakura-komaki.com/

    ウェブショップもできました。
    こまきしょくどう商店

    https://gomagomagohan.stores.jp/

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    天然生活の本『こまき食堂』(藤井 小牧・著)
    天然生活の本
    『こまき食堂』(藤井 小牧・著)

    天然生活の本『こまき食堂』(藤井 小牧・著)

    B5判
    定価:本体 1,400円+税
    ISBN978-4-594-08460-8

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