• 東京・神宮前から岐阜・美濃に移住した、文筆家で「マーマーマガジン」編集長の服部みれいさん。移住して5年。小さな畑をしたり、お店を切り盛りしながら、いま服部さんが感じているのは「移住して、よかった!」ということ。今回は、コロナ後のあたらしい暮らし、移住を考える人たちへのアドバイスを、コロナ禍を経て、あたらしい暮らしを模索中のフラワースタイリストの平井かずみさんとイラストレーターの平澤まりこさんとともに語ります。

    コロナ後のあたらしい暮らし

    平澤まりこ(以下、ま): 昨年の夏、ドイツ・ベルリンに2か月ほど滞在して、今年はベルリンへ移住する予定でした。それまでは、仕事にやりがいを感じながら、仕事優先で暮らしていましたが、昨年のベルリン滞在で、からだやこころが常にゆるんでいる心地よさを感じて。ベルリンでは、もしかしたら収入はゼロになるかもしれないけれど、それでもクオリティオブライフを充実させるほうにシフトしてみたいと思ったんです。その直前にコロナがきて……。だから、みれいさんの話を聞いて、ものすごく刺激を受けました。

    平井かずみ(以下、か): 本当に、いろいろ始めるなら今が大チャンスですね。

    服部みれい(以下、服): 引っ越せるならそれもいいし、セカンドハウスをもつのもいいし、農家さんを手伝いに行くのもいいですね。人や自然とのつながりがあると、生きる喜びが増すんじゃないでしょうか。田舎暮らしには採取するたのしみもありますね。わたしはお茶摘みもしますけど、異様にたのしいんですよ。年齢性別関係なく作業できるのもたのしいです。

    か: 心と体が喜びますよね。わたしも今年の春は時間があったから、梅仕事をしたり、実山椒を漬けたり、いろいろやりました。何も考えずに手を動かすってたのしいですもん。

    画像1: コロナ後のあたらしい暮らし

    服: わたしたちが移住する前には東日本大震災のときに引っ越した人たちがいて、その前にも、さらに前にもいて……と田舎へ移住する人々がレイヤーになっていて、その人たちとの無言のつながりみたいなもの、わかりあえるものがある気がしています。世界は時間空間を越えて多層的に、豊かなレイヤーでできているんだなっていうのは、田舎に住んでるとより感じられるかなあ。何か見えないものとの結びつきが強くなるのかもしれないですね。

    か: 「会う」ことの価値も変わりましたね。以前は頻繁に会うことで安心している部分もあったけど、今は会いたい人ほど会えなくて、だけど、会えなくても以前より不安がないんですよね。大切な人とはちゃんと思い合えてることがわかるというか。

    服: 見えないもので、みんながつながりだしているのかもしれないですね。もちろん今春からの変化で想像を超える悲しみや苦しみを味わっている方もいらっしゃると思います。でも一方で自しゅくの生活で自分と向き合ったりつながりをとりもどした方々もいる。ひょっとすると、自然に近い、自分たちにやさしいゆったりした暮らしをしていると、そういう感覚が増すのかな? それで今回、たくさんの人がそんな体験をしたのかもしれないですね。

    画像2: コロナ後のあたらしい暮らし
    画像3: コロナ後のあたらしい暮らし

    移住はグラデーションで

    服: 大都市から田舎に移ろうとするときに、不安なことってありますか?

    ま: その街にゆかりがあるとか、友人がいるならいいのですが、たとえばひとりで移住しようと思った場合、人間関係は大丈夫かな、孤独じゃないかな、っていう不安はありますね。

    画像1: 移住はグラデーションで

    服: 確かに、知り合いとか友だちがいる場所にいくっていうのは自然かも。以前ある方からきいたのですが、「思想」で農業を始めた人はやめちゃうことが多いのだとか。移住もそうかなと思うんです。たとえば、いきなり山奥に引っ越して、うまくいかなかったりするケースもあります。好きだなと思う場所に少しずつ行く回数を増やして、徐々に知り合いを増やしてと、あんまりはりきらずにグラデーションで動くほうがいいと思います。

    か: みれいさんは、この先、別の場所に拠点をもつことも考えていますか?

    服: 実は、できればもっと田舎に行きたいと思っています。もっと山のほうに家をもってたら……などなど、いつも考えてます! みなさんも今の生活を当たり前なんて思わず、たとえば期間限定で1年か2年、田舎暮らしをしてみるとかもいいですよね。安心して暮らせる場所で、自然や自分自身を感じてもっと自分に生きる喜びを味わうのもこれからの時代は必要とされるかもしれないです。

    画像2: 移住はグラデーションで




    〈取材・文/アマミヤアンナ〉

    服部みれい(はっとり・みれい)
    岐阜県生まれ。文筆家、詩人、『マーマーマガジン』編集長。2008年春に『murmur magazine』を創刊。2010年、冷えとりグッズと本のウェブショップ『マーマーなブックス アンド ソックス』をスタート。2015年春、岐阜・美濃市に編集部ごと移住。同年8月には『エムエムブックスみの』オープン。2020年7月に扶桑社より、リアルな移住記録をまとめた『みの日記』の増補改訂版が発売。2020年9月には4年ぶりとなる『まぁまぁマガジン』23号(エムエムブックス)発売予定。
    服部みれい公式サイト
    http://hattorimirei.com/
    エムエムブックス
    http://murmurmagazine.com/

    平井かずみ(ひらい・かずみ)
    フラワースタイリスト。「ikanika」主宰。「cafeイカニカ」を拠点に、花の会やリース教室を全国各地で開催。雑誌や広告、イベントでのスタイリングや、ラジオやテレビなど多方面で幅広く活躍中。著書に『花のしつらい、暮らしの景色』『あなたの暮らしに似合う花』(ともに扶桑社)、『フラワースタイリング ブック』(河出書房新社)、『季節を束ねるブーケとリース』(主婦の友社)などがある。
    http://ikanika.com/

    平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)
    東京生まれ。イラストレーター、版画家。セツ・モードセミナー卒。著書に『イタリアでのこと』(集英社)『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)ほか。絵本に『森へいく』(集英社)、『しろ』(ミルブックス)など。銅版画で手がけた『ミ・ト・ン』(幻冬舎文庫、小川糸との共著)がある。8/22から高知のギャラリーM2で「六人六様」展に参加。
    https://www.instagram.com/mariko_h/


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    服部みれいさんの『みの日記』が、7/17(金)に、扶桑社より発売されました。

    会社ごと岐阜・美濃に移住した服部さんの美濃での暮らしを記録した連載(『天然生活』2016年1月号~2018年5月号に掲載)をまとめた一冊に、2020年にみれいさんが考える新しい生き方など、新たなエッセイや記事を加えた増補改訂版です。
     
    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)
    天然生活の本
    『みの日記』(服部みれい・著)

    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)

    A5判
    定価:本体 1,300円+税
    ISBN978-4-594-08548-3



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