• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を3冊セレクト。今回は、「冒険」を描いた絵本を紹介します。
    画像: 「冒険」の絵本|ずっと絵本と。

    もう9月だなんて、今年はいつにも増して早い気がします。9月は新しいことをはじめる方も多いのでは? そこで、「冒険」をテーマにセレクトしてみました。

    『かいじゅうたちのいるところ』(モーリス・センダックさく じんぐうてるおやく 冨山房)

    画像: 寝ているかいじゅうは、怖くなさそう。

    寝ているかいじゅうは、怖くなさそう。

    「ある ばん、マックスは おおかみの ぬいぐるみを きると、いたずらを はじめて おおあばれ…」

    子ども、とくに男の子のいるご家庭では、おなじみの光景かもしれません。

    いたずらばっかりするマックスに、おかあさんは

    「この かいじゅう!」

    マックスも負けずに、

    「おまえを たべちゃうぞ!」

    画像: マックスのこの表情、家じゅうめちゃくちゃにしそうな勢い。

    マックスのこの表情、家じゅうめちゃくちゃにしそうな勢い。

    怒ったおかあさん、マックスを夕ごはん抜きで、寝室に放り込みこみました。

    マックス、しゅんとするかと思いきや、かいじゅうですからね。

    寝室には、にょきりにょきりと木が生え出して、そのうちすっかり森に。

    「そこへ、なみが ざぶり ざぶりと うちよせて、マックスの ふねを はこんできた。」

    そうしてマックスの大冒険がはじまります。

    画像: マックスを乗せた船が到着したのは、かいじゅうたちのいるところ。

    マックスを乗せた船が到着したのは、かいじゅうたちのいるところ。

    かいじゅうたちのいる陸地に着くと、マックスはかいじゅうたちの王様になって、ここでも大暴れ。

    しかし、どうでしょう。王様なのに、マックスはさびしくなって、優しい誰かさんのところへ帰りたくなってしまいます。

    食べちゃいたいほど、お前が好きだ、と追いかけてくるかいじゅうたちを振り切って、寝室に戻ると……。

    そう、冒険って、安心して帰れる場所があるからこそ、できるんですよね。

    すべての子どもたちが、たくさん冒険できる世界になるといいな、と思っています。

    『おむかえワニさん』(陣崎草子作・絵 文溪堂)

    画像: 主人公のちよちゃんと、ワニ。二足歩行しているワニって見慣れませんが、水中にいるときは、ちょうどこんな感じ。

    主人公のちよちゃんと、ワニ。二足歩行しているワニって見慣れませんが、水中にいるときは、ちょうどこんな感じ。

    ある日、ちよちゃんにおばあちゃんから電話がかかってきました。

    「ちよちゃん こっちへ あそびに いらっしゃい」

    ちよちゃん、おばあちゃんが住んでいる町へ、ひとり、電車に乗って出かけます。

    電車を降りると、待っていたのはワニ。

    このワニさん、おばあちゃんのおつかいだというではありませんか。

    ちよちゃん、怖がる風でもなく、

    「ふうん そんなら あんた あたしの けらいね」

    「あんた けらいなら おぶってよ

     きょう あたしね ばあちゃんち ひとりで とまるの

     ねえ すごいと おもう?」

    ひとりでおしゃべりするちよちゃん、だまーって聞いているワニさん。

    いいコンビです。

    だいたい、怖そうで無口な人(ワニだけど)は、優しくて強いのが定番。

    このワニさんも、道中、ちよちゃんをしっかり守ります。

    「ワニさんは こわいの おおさまなんだ」

    ちよちゃん、すっかり頼りきっています。

    そしてお神輿に乗ったり、どろぼうやおばけをやっつけたりしながら、ようやくおばあちゃんの家に着いたふたり。

    ワニさんがどうなるのかは、絵本をご覧いただくとして……。

    このワニさんみたいな仲間がいてくれたなら、どんな冒険にも、乗り出していけそうだなぁと、読むたび、ちよちゃんがうらやましくなるのです。

    そして、心の中にワニさんを飼って、冒険に出かけたいな、と思うのです。

    『うきわねこ』(蜂飼耳ぶん 牧野千穂え ブロンズ新社)

    画像: 子猫らしい、ぽっこりしたおなか。まん丸の瞳は、好奇心でいっぱいです。

    子猫らしい、ぽっこりしたおなか。まん丸の瞳は、好奇心でいっぱいです。

    日曜日のお昼、おかかのおにぎりを食べているえびおの元に、おじいちゃんから、誕生日プレゼントが届きました。

    包みを破いて箱を開けると、出てきたのは「うきわ」。

    この街には、プールも川も海もないのに、と訝しがる両親に隠れて、えびおはおじいちゃんからの手紙を読みます。

    手紙には

    「つぎの まんげつのよるを たのしみにしていてください。」

    と書かれていました。

    画像: 満月の夜がやってくるのを、いまかいまかと待ち受けるえびお。

    満月の夜がやってくるのを、いまかいまかと待ち受けるえびお。

    待ちに待った満月の夜。

    うきわに空気を入れて、穴のところに体を通すと、両足がぶらんと宙に浮きました。

    月に引き寄せられるように、上へ上へと登っていくと、なんと、おじいちゃんがいるではありませんか。

    ふたりのうきわはゆっくり、ゆっくり、空を飛び、はじめての海に降り立ちました。

    画像: 海でふたりは、自分たちよりよほど大きな魚を釣りました。なんとも豪勢な食べ方は、ぜひ絵本で。

    海でふたりは、自分たちよりよほど大きな魚を釣りました。なんとも豪勢な食べ方は、ぜひ絵本で。

    釣った魚をお腹いっぱい食べると、おじいちゃんが言いました。

    「えびお、こんばんのこと ずうっと わすれないで いるんだよ。おおきくなっても わすれないでね」

    えびおはおじいちゃんに言われるまでもなく、きっとずうっと忘れないでしょう。

    冒険の暖かな思い出は、後々、大きな支えになってくれるもの。

    近頃、ちっとも冒険していないので、未来の私のために、冒険したいわーって思う今日この頃です。



    画像: 『うきわねこ』(蜂飼耳ぶん 牧野千穂え ブロンズ新社)

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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