(『天然生活』2014年7月号掲載)
し 塩
調味料という概念のない太古の昔から、人は海水などから塩分を得て、食材を調味していたにちがいありません。
なぜなら、塩は人間にとって必要なものだから。そして、料理のおいしさは、塩加減で決まるといっても過言ではありません。
つまり、塩は最も重要な調味料なのです。選ぶ際には、海の滋養分をたっぷり含んだ自然の塩を選びましょう。
ひと口に塩味をつけるといっても、ステーキなら下味にふって中まで塩味を浸透させる、また、スープなどの汁ものは仕上げに加えてビビッドに味を立たせる、というように、入れるタイミングが重要です。
そして常に、調味の塩は控えめに、を心がけること。というのは、加えた塩を途中で取り出すことはできないからです。
塩の強い脱水作用を利用して、魚を焼く際には10分くらい前に塩をして、くさみのもととなる水分を抜き、それから焼き上げるといった場合にも使われます。
そのほかにも、素材の色を鮮やかに仕上げる、ぜんざいのように少量の塩が甘味をさらに引き立てるという効果や、食物の腐敗を防ぐなど、塩は幾つもの科学的な効能をもっています。
ハムや塩ざけ、漬物など、たくさんの保存食も、塩という存在があったからこそ生まれたのです。
し 塩
3つの作用
1 脱水作用
食塩による浸透圧の作用とは、食材の内側と外側の塩分濃度が異なると、同じ濃度になろうと、水分が塩分濃度の低いほうから高いほうへ移動する現象。きゅうりに塩をふると、中の水分は外へ流出するのです。
2 色鮮やかにゆで上げる
塩の成分が、青菜の中に含まれる緑色色素クロロフィルを、より鮮やかな緑にすると同時に、黄褐色に変化させる酵素が働くのを防ぎます。ふき、枝豆などをゆでる前に塩もみするのも、このためです。
3 漬物が腐敗しない
きざんだ白菜に塩をしてしばらくおくと、塩の脱水作用で白菜の水分が引き出され、白菜全体が塩水にひたっている状態になります。雑菌の繁殖が抑えられるばかりでなく、さまざまな成分が抽出されて漬物らしい味に。
1 脱水作用
食塩による浸透圧の作用とは、食材の内側と外側の塩分濃度が異なると、同じ濃度になろうと、水分が塩分濃度の低いほうから高いほうへ移動する現象。きゅうりに塩をふると、中の水分は外へ流出するのです。
2 色鮮やかにゆで上げる
塩の成分が、青菜の中に含まれる緑色色素クロロフィルを、より鮮やかな緑にすると同時に、黄褐色に変化させる酵素が働くのを防ぎます。ふき、枝豆などをゆでる前に塩もみするのも、このためです。
3 漬物が腐敗しない
きざんだ白菜に塩をしてしばらくおくと、塩の脱水作用で白菜の水分が引き出され、白菜全体が塩水にひたっている状態になります。雑菌の繁殖が抑えられるばかりでなく、さまざまな成分が抽出されて漬物らしい味に。
きゅうりの昆布漬けのつくり方
塩を加えた熱湯できゅうりをゆでるから、色鮮やかに仕上がる。
材料(4人分)
● きゅうり | 4本 |
● 湯 | 1ℓ |
● 粗塩 | 大さじ3 |
● 塩 | 小さじ1/2 |
● 切り昆布 | 1/4カップ |
つくり方
1 きゅうりをピーラーで縦に3カ所、皮をむき、へたを落とし長さを半分に切り、縦半分に切る。
2 沸騰した湯に粗塩を加え、さっときゅうりを湯通しし、氷水に取る。バットに並べ、塩、切り昆布を加えて混ぜ合わせ、軽く重石をして30分~1時間おく。昆布と一緒に器に盛る。
ポイント
きゅうりの皮を縞目にむいてから、多めに塩を加えた熱湯で、短時間、熱湯にくぐらせるようにゆでるのがコツ。色止めになるのはもちろん、水分が出ないので、時間がたってもシャキシャキの食感を保てる。
◇ ◇ ◇
世界の塩は大きく、「海塩」と「岩塩」に分かれます。
海塩は汲み上げた海水を製塩したもので、日本の塩は、ほとんどがこれ。
そのうち、物理的に水分を蒸発させた塩を「天日塩」といいます。ミネラルなど海の滋養分が豊富で、口にふくむと、うま味や甘味を感じます。
それに対し、濾過した海水を電気透析して煮つめた精製塩は、ほぼ塩化ナトリウムでうま味を含みません。
一方、地殻変動で海水が閉じ込められた陸地から採掘するのが岩塩。
「家庭料理には、同じ風土で育まれたやさしい日本の塩が合うと思います。私は伊勢神宮の伏流水と海水が混じり合う水を鉄窯で煮つめた『岩戸の塩』を主な料理の塩味をつけるのに使っています」
おすすめの塩
岩戸の塩
「岩戸の塩」
伊勢神宮に奉納する塩を製造してきた少量手づくりの品。海水を鉄鍋で煮つめている。
(問)岩戸館
TEL.0596-43-2122
粗塩
「赤穂の天塩」
にがり入りの塩のおいしさをいち早く唱え、40年前から粗塩をつくりつづける「天塩」。
(問)天塩
TEL.03-3371-1521
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「さしすせそ」の底力
料理が素材になんらかの味をつける作業であることを考えれば、調味料の果たす役割は重大です。
また、日本料理が世界に誇れるゆえんも、酒造りとともに生まれた麴を用いて、しょうゆ、味噌、米酢、みりんという固有の調味料が発達したからにほかなりません。
一番の基本となるのが、料理の「さしすせそ」。
それは、砂糖、塩、酢、しょうゆ(せうゆ)、味噌の順に加えるとおいしくできますよ、という先人の知恵です。
そこには、「粒子の細かい塩を先に加えると、粒子の大きい砂糖が中まで入らないから、砂糖は先に」、「しょうゆや味噌は香りがとばないよう最後に」、「酢の酸味をほどよく利かせたければ調理のなかほどに」と、料理を科学でとらえた真理が込められています。
実際、教えのとおりに料理をすると、少ない調味料でしっかり味が入ります。
健康にもよく、時短にもなる。そして何より、素材の味が感じられて、おいしいのです。
調味料は「味」を「調(しら)」べて「料(はか)る」と書きます。
理にかなった方法で調理することが料理の腕前をこんなにも上げるのかと、きっと驚かれることでしょう。
<料理/松田美智子 撮影/川村 隆 取材・文/小松宏子>
松田美智子(まつだ・みちこ)
1993年から料理教室を主宰し、日本料理をベースにした家庭料理を教える。「おいしさには理由がある」をモットーに、伝え継がれた料理の科学を追求。著書に『松田美智子 調味料の効能と料理法』(誠文堂新光社)、『季節の仕事』(扶桑社)など多数。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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