• 二十四節気 小雪(11月22日~12月6日)
    日々の暮らしの中にある季節の移ろいを
    白井明大さんの詩・文と當麻妙さんの写真で綴ります。

    イチョウと私


    なぜ紅葉を
    うつくしいと感じるのだろう
    枯れる間際のさまだというのに

    花なら色づくものかもしれない
    けれど葉も
    まるでじぶんが花であるかのように
    あざやかな色に染まるのが
    しかもそれがその葉の晩年でもあることが
    胸を打つからではないだろうか

    こころを
    そっとひとりにしてあげたい
    ときに必要なこととして

    しぼみかけた植物に
    水やりをするのと変わらない仕種で
    こころにもあげられるものがあるとすれば
    それは
    ひとりきりの時間

    ただぼんやりと
    しゃがんでいる間に
    知らず知らず回復していくものなのだ
    こころというのは

    そしてじつは植物のほうこそ
    いつも私に注いでくれていたのだと
    地面に散り敷かれる
    まばゆいひかりに目をほそめながら思い出す

    ひとりきりになりたいと
    こころが求めるほどよわっているときは
    誰にも言わずここで佇んでいる

    知っているのは
    イチョウと私だけ

     

    季節の言葉:朔風(さくふう)

    二十四節気で冬の二番目の季節、小雪(しょうせつ)が訪れました。

    もう木枯らしの吹く季節ですね。

    十一月二十七日から十二月一日に、七十二候*では小雪次候「朔風葉を払う」の候があります。北風が木の葉を吹き払うころ。

    この「朔」は、朔日(ついたち)にも使われる字ですね。一か月のはじまりが朔日。そんなはじまりを意味する「朔」の字が「北」を表わすのが興味深いところです。

    旧暦だと、朔日は必ず新月なので、朔日の夜に月は出ません。同じように、冬という季節も太陽の力が陰るときです。

    言い換えれば、これから月が満ちていくとき、これから太陽の力が強まっていくときでもあり、まさにスタート地点と言えそうです。

    もしも先が見えなくても、いまはスタート、これから光が見えるはじまりのときだよ、と朔風の「朔」の字がささやくようです。

    *七十二候……旧暦で一年を七十二もの、こまやかな季節に分けた暦。日付は2020年のものです。

     

    白井明大(しらい・あけひろ)
    詩人。沖縄在住。詩集に『生きようと生きるほうへ』(思潮社、丸山豊賞)ほか。近著『歌声は贈りもの こどもと歌う春夏秋冬』(福音館書店)など著書多数。新刊に、静かな旧暦ブームを呼んだ30万部のベストセラー『日本の七十二候を楽しむ ー旧暦のある暮らしー 増補新装版』(KADOKAWA)。

    當麻 妙(とうま・たえ)
    写真家。写真誌編集プロダクションを経て、2003年よりフリー。雑誌や書籍を中心に活動。現在、沖縄を拠点に風景や芸能などを撮影。共著に『旧暦と暮らす沖縄』(文・白井明大、講談社)。写真集『Tamagawa』。
    http://tomatae.com/



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