NSCでは最下位クラスの地味なクラスだった山内さん
2017年の「キングオブコント」での優勝を機に本格的に東京進出を果たし、いまや破竹の勢いで快進撃を続けるお笑いコンビ「かまいたち」。多彩で完成されたネタはもちろんのこと、ツッコミ担当の濱家隆一さんとボケ担当の山内健司さんそれぞれの、“不思議とカワイイ”キャラクターも人気の要因です。
ブレイクを果たしたのはここ最近ですが、実は今年結成16年目を迎えベテランの域に入りつつあるふたり。山内さんは2020年12月20日に発売された初のエッセー『寝苦しい夜の猫』(扶桑社刊)で、コンビ結成の秘話や長い下積み期間の暮らし、そして相方・濱家さんとの若き日のエピソードを赤裸々に語っています。
ふたりはダウンタウンやナインティナインも輩出したよしもとのお笑い養成所「NSC」の同期生。ですが、1年間の在校中は、ほとんど接点がなかったそう。なぜなら、濱家さんはエリート生が集まるAクラスの常連、山内さんは万年最下位のCクラスに属していたから。
明るく社交的で同期の中心メンバーだった濱家さんに対して、人と話さず口数も少ない山内さんはコンビを組む相手も見つからず、いつもぽつんとひとりで過ごす地味~な存在だったのだそう。
打算で濱家さんの連絡先を聞いた卒業日
そんなふたりがコンビを組むことになったのは、養成所の卒業日、山内さんが勇気を振り絞って濱家さんに「連絡先交換しといてくれへん?」と話しかけたのがきっかけでした。その時のようすを振り返ると……。
「こいつは目が細くてチャラいし、絶対友達になりたくないタイプだけど、いろんなクラス行き来してるから顔は広いよな。このままNSCを卒業したら、もう相方を見つけるチャンスはないかもしれない。だからこいつ目が細くてチャラいけど、連絡先を交換してもらっといたら、いい相方見つけるのに繋がるかもしれへん」
とっさにそう思った僕は、ここが勝負どころだと踏んで、全然なかよくもない、むしろ否定的だった細目チャラ男の濱家に連絡先を聞こうと心に決めた。
めちゃくちゃ勇気がいる。断られるかもしれないし、こいつは目が細くてイヤな顔つきをしているからバカにしてくるかもしれない。でもここは勇気を出すしかない!
~『寝苦しい夜の猫』より~
そう、濱家さんとコンビを組みたかったわけでなく、濱家さんの顔の広さ、つまり人脈が目当てだったのです。濱家さんも「この変なヤツだれだ?」と思いながら、連絡先を教えたようです。
……しかし、運命というのは本当にわからないもの。濱家さんに連絡する勇気がないまま、ひとり過ごしていた山内さんに、なんと濱家さんから電話がかかってきました。相方が見つからないままひとりでオーディションに挑んでいた山内さんの姿をたまたま見かけた濱家さんが、その面白さにほれ込みコンビを組まないかと誘ってきたのです。
濱家さんの意外な申し出に即OKした山内さん。
偏見の目でしか見ていなかった濱家さんに対しても、まったく別の印象を持ち始めます。
コンビを組んでみてわかったのが、NSC時代に僕が抱いていたチャラい細目のイヤなヤツという印象とは違い、濱家はお笑いにストイックなちゃんとしている人だった。
~『寝苦しい夜の猫』より~
こうして、偶然が重なった結果生まれた「かまいたち」。コンビ名は、養成所の先生がつけてくれました。最初は漢字の「鎌鼬」でしたが、のちに平仮名に変更します。
芸人としての世界を広げてくれた濱家さん
鼻の下にあるおそろいのほくろ以外、共通点はほとんどないふたりですが、16年続けてこられたのは、お互いのないものを補い合ってきたからかな、と山内さん。たとえば山内さんが瞬発力を生かしたネタをつくる分、濱家さんはそのネタを1mmでもいいものに育てるために粘り強くアイデア出しをする……というぐあい。濱家さんは舞台の立ち位置まで正確に決めるというストイックさで仕事に臨んでいます。
仲間も多く、芸人としての世界を広げてくれた濱家さんのことは、面と向かってはいえないけれどとても感謝しているのだそう。山内さんの著書の中にも、ふたりが尊敬し合い、信頼し合う様子が伝わる箇所がいくつも登場します。
でも僕は、今後何かあって万が一、濱家とコンビを解消することになっても、ピンになって芸人を続ける気持ちは一切ない。そうなったら僕は、放送作家とか、裏方でゆっくりやっていくつもりだ。コンビは濱家でラスト。
~『寝苦しい夜の猫』より~
こんなところからも、山内さんの濱家さんへの愛が伝わってきますね。
コントと漫才、猫、家族、そして濱家さんに向けて……。山内さんの著書『寝苦しい夜の猫』は、かまいたちの知られざる歴史をたどりながら、ところどころに山内さん流の愛の告白が隠れているのも読みどころ。ぜひ手に取ってみてくださいね。
山内健司
1981年1月17日、島根県生まれ。2004年5月に濱家隆一とお笑いコンビ『鎌鼬』を結成。のちに『かまいちた』に改名。ネタづくりとボケを担当。NSC26期生。2017年キングオブコント優勝、2019年M-1準優勝。妻と長男と猫5匹と暮らす。
自らの半生をつづった初の著書、『寝苦しい夜の猫』(扶桑社・刊)を上梓したばかり。
『寝苦しい夜の猫』(山内健司・著)
2019年12月22日のM-1決勝戦の前夜、山内は、翌日披露するであろうネタを、ひとりでひたすら繰り返した―。お笑いコンビ『かまいたち』の山内健司による初の著書は、自らの半生を綴ったエッセイ集。M-1のこと、コンビのこと、恋愛のこと、家族のこと、猫のこと……など山内のお笑いの源がどこにあるのか読むうちにきっとわかるはず! かまいたちのコンビ結成エピソードもここに!!