• 『天然生活』が注目する方々のもとを訪ね、お話を伺う人気シリーズ「会うこと、聞くこと」。今回は、「古来種野菜」の流通・販売などを行う「warmerwarmer(ウォーマーウォーマー)」の代表、高橋一也さんにお会いしました。
    (『天然生活』2018年2月号掲載)

    質問:古来種野菜を広めているのはなぜですか?

    個性的で野性的な味や形。消えゆく野菜の種を守る

    秋田県の「雫田かぶ」、岐阜県の「しまささげ」、福井県の「板垣大根」――。

    近年、食への意識は高まっていますが、こうした野菜を食べたことのある人は、多くはいないのではないでしょうか。

    東京・吉祥寺を拠点に活動する高橋一也さんは、その魅力のとりこになったひとり。

    固定種、在来種、地野菜など、いわゆる昔ながらの野菜を古来種野菜と総称し、その流通・販売などを行う「warmerwarmer(ウォーマーウォーマー)」の代表を務めています。

    画像: 取材時にご用意いただいた料理。手前は、新潟・佐渡の「八幡芋」をふかしたもの。もちもちした食感で、後を引く

    取材時にご用意いただいた料理。手前は、新潟・佐渡の「八幡芋」をふかしたもの。もちもちした食感で、後を引く

    高橋さんと古来種野菜の出合いは2006年ごろ。

    自然食品を販売する「ナチュラルハウス」のバイヤーとして全国の農家をまわっていたときに長崎県のとある農家の方から見せてもらった、珍しい大根がきっかけだといいます。

    「『平家大根』という、800年前から受け継がれている野菜なんですが、まず、見た目が全然違う。大きさも形もバラバラだし、あまりに野性的で、『これが本当の食べ物なの?』と思いました。そして、切って生で食べてみたら、ビビビッて体が震えたんです。辛味や苦味といった味、口に入れたときの感覚に驚いて。大根といえば、青首大根しかないと思っていましたが、平家大根と出合って、それまで当たり前だと思っていたことが一気に覆されたんです」

    青首大根のように一般的なスーパーに並ぶ野菜のほとんどは「F1種」と呼ばれるもので、戦後の食料難の時代に開発され、1970年代の高度経済成長期に広まりました。

    大量生産・供給・輸送を可能にするために、大きさや味が均一で、日持ちがするなどの特徴がありますが、種を採って育てても同じような実はできず、農家は種を毎回購入しなくてはなりません。

    高橋さんが扱う古来種野菜は、同じ土地で種をまき、育て、実から種を採ることを繰り返します。それによって時間をかけて風土になじむ、地域ごとの個性が育まれます。

    だから味も形も生育もバラバラ。その多様性は圧巻で、現存が確認されている古来種野菜の総数は1200種以上、うち大根だけでも110種もあるのだとか。

    画像: 出会う人に、いつでも見てもらえるようにファイリングした古来種野菜のリスト

    出会う人に、いつでも見てもらえるようにファイリングした古来種野菜のリスト

    「だけど農家さんは困っているんです。品質や規格、出荷時期がバラバラな野菜は大きな流通システムに乗せられず、地元の道の駅に直接売りに出しても、『昔の野菜』と敬遠される。農家さんは売りものになる野菜をつくりながら、家の裏の畑の一畝だけでひっそりと古来種野菜を育てて、大事に種を採っている。皆さん、この野菜は自分の代で終わりだっていうんですけど、種を途絶えさせてはいけない と思ったんです」

    その思いから、2011年に独立。

    自社サイトや東京の伊勢丹新宿店・地下1階の生鮮食品売り場で、これまでに80の農家から仕入れた約300種の古来種野菜を流通・販売。

    また、古来種野菜の農家と料理人と消費者が集まるマーケット「種市」など、さまざまなイベントを企画しています。

    2016年にはこれまでの活動や思いを綴った著書『古来種野菜を食べてください。』を刊行し、話題を集めました。

    昔ながらの農村と現代都市。その間をつなぎ、流通する

    画像: イベントなどの際に展示する、福岡県の「芥屋(けや)かぶ」。実から種へ命が継がれることの象徴。

    イベントなどの際に展示する、福岡県の「芥屋(けや)かぶ」。実から種へ命が継がれることの象徴。

    古来種野菜を食べたことのある人なら、形や大きさだけでなく、味や香り、硬さにも個性があることがわかるでしょう。

    甘さや苦さだけでも何通りもあり、複雑な味がすること。

    いまの食卓は香料や調味料のにおいはあっても野菜の香りが少ないこと。

    長距離輸送に耐え、店頭に並んでもロスを防ぐために日持ちするようにつくられている一般の野菜が、いかに硬くつくられているか。

    そうした感覚に気づかせてくれる古来種野菜が途絶えてしまうと、

    「意識の振り幅が狭くなり、想像力や自由を失う」

    と高橋さんはいいます。

    画像: 愛用のせいろ

    愛用のせいろ

    一方で、戦後から爆発的に増えた人口を支えるには、大量生産できるF1種が不可欠である ことも高橋さんは認めています。

    大切なのは、昔の農村にも、いまの社会システムにも、どちらかに偏りすぎず、バランスを保ちながら、世界を考えること。

    そのなかでせめて、家族で囲む食卓に、古来種野菜がひと皿だけでも入っていてほしい。そして、いずれは居酒屋の日本酒のメニューのように、野菜も “〇〇県の〇〇茄子” というふうに認知されてほしい。

    高橋さんは、そう願います。

    「昔の時代に戻したいわけではないんです。農薬だって、理由があって使う農家さんもいれば、そういう野菜を食べないことを選ぶ人もいる。それぞれの生き方です。私たちの生き方は『種を守る』こと。いまの社会を変える力を、ひょっとしたら食がもっているのではないかと思うんです。私が一生、活動しつづけても、何かが劇的に変わることはないかもしれないし、次の世代にバトンを継ぐことしかできないかもしれない。だけどそれでも、野菜を通じて、何かを知ってもらいたいし、感じてもらいたいですね」



    〈撮影/村林千賀子 取材・文/岡澤浩太郎〉

    高橋一也(たかはし・かずや)
    1970年、新潟県生まれ。「キハチアンドエス青山本店」で料理人として勤務したあと、「ナチュラルハウス」の有機野菜のバイヤーを経て取締役を務める。2011年に独立し、「warmerwarmer」を設立。古来種野菜の流通・販売、有機農業者への支援やオーガニック市場の開拓を行う。著書に『古来種野菜を食べてください。』(晶文社)。
    http://warmerwarmer.net/

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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