• 東京・秋葉原にある、カフェ風精進料理のお店「こまきしょくどう」おかみの藤井小牧さんが、日々の暮らしや食などを綴ります。精進料理のレシピもときどき紹介。今回は、いざというときに備えて、74歳になるお母さんが暮らす、実家の大掃除を決行します。

    思い出とともに増える実家の荷物

    先日夜中に久々に大きい地震がありました。皆さまも10年前を思い出されたことと思います。

    夜中、布団に入りウトウトしていたところ、不気味に長く続く横揺れで船酔いしそうな地震で、娘も自分の部屋からとびおきて慌てふためいていました。

    たまたま、その数日前に防災用具の点検をふたりでしていたので、少し安堵しつつも、改めて指差し確認をして、また布団に入りました。

    昨年、コロナの影響で時間に余裕があったこともあり、防災セットをいろいろ買い足していて、この何年かの災害もあり、娘もいろいろ学校で防災教育を受けているのでなかなかたよりになるのです。

    朝から夜遅くまで仕事をしているし、自宅まで電車利用で1時間弱あるので、仕事場で被災したらどうする? など、あらかじめ確認をしておけば「そなえあれば憂いなし」。娘との避難場所の確認などあたらめて確認し直すよいきっかけでした。

    長女にメールをすると、寝ていて気がつかなかったとのこと。中国地方はそこまで強く揺れなかった様子。さて、一番心配なのは思い出多き実家です。以前から、少し大きい地震や台風などの災害があると、思い出とともに増える荷物に母が押しつぶされないか不安で仕方がないのです。

    母も74歳になりました。まだまだ超が付くほど元気。だからこそいまのうちに思い出の片づけが必要なのです。そして、大掃除を決行することにしました。

    以前より母をなんとか説得していたのですが、母もなかなか首を縦に振らない……。いそがしい、やる気にムラがある、大変だからと、いろんな理由をつけてきます。そんななかでも何度かトライしてみてはいました。前回の大掃除は3年前、娘ふたりとお手伝いの方にお願いしての大掃除でした。そして今回、父が亡くなってから12年たったこともあり、いい加減片づけようと、母をくどいたのです

    父の思い出があるのはわかりますが、地震がきて思い出に母が押しつぶされてしまうのでは元も子もない。そして、たまたまのご縁で、母よりもひとまわり若く、掃除が大好きな女性ブラジル人のお坊さんが、2週間ほど実家にステイすることになっていました。

    渡りに船。母とふたりでやっても、女同士ただ喧嘩になるだけだもの。ほぼ英語しか喋ることができない人と、まあまあ英語が喋れる母と、ほぼ日本語しかしゃべれない私の、長い1日がはじまったのでした。

    子供を見送り、電車に揺られ実家に帰宅すると、そこはもう戦場。母たちは朝早くから始めていたようで、まさに「棚卸し」。いろんな棚からものが出され、「イル?」「イラナイ?」と問答していました。これはたのもしい! コミュニケーションはどうもほどほどしかとれていないようですが、それでもなんとか片づいています。

    私はそんな戦場を離れ、父の書庫に向かうことに。文筆業を生業としてきた家なので、資料としてものすごい量の本が眠っていました。

    仏教書、料理書、健康系、歴史もの、映画、落語、音楽……と、さまざまなジャンル。雑誌、冊子、書籍、辞典……と、さまざまな形態でなかなか処分をする見極めが困難です。選別された処分本は、一冊一冊すべてパラパラめくってみて、大事なものは挟まっていないか? など確認します(へそくりやラブレターなどは見つかりませんでした)。

    ある程度、心を鬼にしながら分別を進め、古本はまとめてチャリティーセンターに送り現金化して、アジアの子どもたちの学校をつくる団体に寄付をしました。捨てればゴミですが、少しでも子どもたちの笑顔につながるのは私たちもうれしいかぎりです。前回から合わせて、50箱以上は送っています。学校の柱の1本にでもなっていればいいな。

    画像: 手元に残した本たち

    手元に残した本たち

    さて、困ってしまうのは「カセットテープ」「ビデオカセット」です。昭和の時代はさずがに見当たらないけれど、平成と記してある、父母のテレビ出演した映像の録画が残っていました。

    確認したくて見るという機会がそもそもないのだけれど、「人質のような思い出、困るんだよねー」と、ため息をつきながら、一応ほこりをぬぐい棚に戻しました。

    そういえば前回押し入れを掃除した時は、鎌倉名物(?)の『台湾リス』が巣をつくっていました。実物にはお目にかからなかったけれども、本当に驚きでした。

    ほどほどに区切りをつけ、これからは月イチで帰ると約束をし、実家をあとに。これもいい思い出になるだろう、と感傷に浸り、江ノ電に乗ったのでした。

    コロナや災害がくれたよい時間でした。悪いことばかりではないのですね。家族を見つめ直す貴重な機会として受け止めよう。

    片づいてできた空間にはきっと、幸せがやってくるでしょう。世の中が落ち着いたら、ますます羽ばたける準備を。

    さて、来月は手伝ってくれるひとを誘うとしましょう。



    画像: 思い出とともに増える実家の荷物

    藤井小牧(ふじい・こまき)
    東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。

    ホームページがリニューアルしました。
    こまきしょくどう 鎌倉不識庵
    https://www.kamakura-komaki.com/

    ウェブショップもできました。
    こまきしょくどう商店
    https://gomagomagohan.stores.jp/

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    ISBN978-4-594-08460-8



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