• 猫、猫、猫はかわいい。そして、賢い。猫を愛する方々に、今日の猫との暮らしをお聞きしました。今回は、編集・ライターの古賀千恵子さん。全ての猫好きの方のためにおくります。

    世界のまんなか

    画像1: 世界のまんなか

    グレーの毛色だから、名前は「GRIS(グリ)」。フランス語やスペイン語でいうグレーという意味。初めて飼う猫の名付けはものすごい数の候補から、一周回ってシンプルな意味に着地した。

    猫が飼いたくてブリティッシュショートヘアにしたのではなく、ブリティッシュショートヘアを飼いたいと思ったらそれが猫だった、という感覚がごく自然な感じがする。独立心が強く、膝乗りなどはしないが温厚で大人しい猫種というブリティッシュショートヘア。

    グリと出会ってから5年。ブリショーらしく、膝乗りをせず、抱っこも好きではない。その代わりにお留守番は賢く出来る。ニャーニャーと執拗な催促も要求もしない。

    いつでもグリは気高く、家族に寄り添いながら“らしさ”を貫いて暮らしているという感じだ。執拗な催促も要求もしていいから、その代わりに思う存分、抱っこさせて……、それが家族の願いになるほど、子猫の頃からべったりと甘えてくることはない。ちょっと寂しさすら感じるくらい。

    しかしだ。グリという存在に心を撃ち抜かれることがある。もちろん、なんでもない毎日の暮らしの中で心ときめくことはたくさんある。ソファで本を読んでいる時に隣でスーピーと寝息を立てるかわいいBGM音が聞こえている時も、見上げた階段の上に姿を見つけた時も、「あぁ、猫がいる」という日常には未だにいちいちときめく。

    画像2: 世界のまんなか

    我が家にはいつもかわい子ちゃんがいる、という事実に家族全員の心が和んでいる。が、そんなさりげない猫との暮らしの中に心を撃ち抜かれ、猫ってすごい! と感じる時があるのだ。それは体調であれ、メンタルであれ、こちらが弱っている時に訪れる。

    高熱を出して寝込むとベッドの上で添い寝をし、悲しくて落ち込んでいる時には、一定の距離を取ったまま、香箱座りをしながらじっとそばにいる。それが何時間でもずっとそうしているのがすごい。

    「ありがとうね」と声を掛けると、うっすらと目を開けるだけで何もしないし、何も言わない。グリは延々と飼い主に寄り添い続ける。そして、やがてこちらが元気を取り戻しつつあると、スッと立ち去っていく。「もう、大丈夫ね」とその後ろ姿が語っているように目に映る。

    グリが側にいなくなったから自分はもう大丈夫なんだなと、元気度のバロメーターにさえなっている。そんなことが病む度に必ず続く。確実にグリは空気を読み、何でもお見通しなのだと感じる時である。

    画像3: 世界のまんなか

    そんな我が家は3人家族。夫と私と大学生の息子。猫はそれぞれに役割を決めていると聞いたことがあるが、それはどうやら本当のようだ。それぞれにやってほしいこと、やりたいことが違う。

    息子にはあまり小さな要求すらしないが、息子が持つバッグにはとにかく入りたがる。夫のも私のバッグにはまったく入りたがらないが、息子のバッグにだけは入りたい。理由は不明。

    バッグの中身を出して入らせて欲しいと言わんばかりに、バッグの中を手でカリカリと掻いてみせる。そして、空っぽになったバッグに入り込み、満足そうな顔で時間を忘れて入り続けている。「もう!」と言いながらも息子の顔はなんだかうれしそうなのが、微笑ましい。

    時に何かと帰りが遅くなりがちな息子の晩ご飯は、高校生時代からずっと一人飯になりがちだ。そこにもグリの出番がある。

    息子がご飯を食べ始めるとグリもともに食卓に着く。ちょっかいを出すわけでもなく、一人でご飯を食べる息子の見守り隊長をしているのだ。優しい。食べている息子も黙々と食べるので、その様子はなかなかシュールである。おもしろい。

    画像4: 世界のまんなか

    そして夫。彼には遊んで、という以外に特にこれといって何もなかったのだが、ちょうど2年前くらいからある日突然膝に乗るようになった。そう、待望の瞬間を彼だけ迎えた。

    彼がソファに座ると、お気に入りの場所で寝ていても、慌てて彼の膝の上に飛んでやって来る。なぜ膝乗り猫へと突如変貌したのかは、これもまた不明。とにかく夫はにやけた顔で、一人優越感に浸っている。望む通り、私は羨ましくて小さくひがむ。

    猫という生き物は不思議だ。何かルールや意味があるのかないのかさっぱり分からないけれど、なんらかの意味があるのではないか? と思わせるような動きを日常に散りばめている。だから、毎日どれだけ見ていても飽きない。かわいいし、楽しい。猫と一緒に暮らすということの幸せを感じる。

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    私の膝乗り猫にはならないグリだけど、一つだけ子猫の時から私だけのものがある。他の誰のところにも行かず、私の布団にだけ入って一緒に寝ること。

    布団に入れてと、寝ている私の頭を2回、チョイチョイと優しく突く。無意識に近い状態の寝ぼけた私が布団を持ち上げると、するりと入って来て添い寝をする。これが身体も心も本当に温もる。

    時々、ふと思う。家族それぞれ、いかにグリに愛されているか私たちはいつも探している。グリと自分だけの世界を見つけては、それぞれ喜びに浸っている。

    そんなわけで間違いなく、我が家の世界の中心は、グリだと思う。人3人の世界を征するほど、グリは愛おしくてたまらない存在なのだ。

    また何年後かのある日突然。今度は抱っこ大好き猫へとグリが変貌する瞬間が来ることを家族全員が期待している。その抱っこの主が、もちろん自分であるとそれぞれ密かに願いながら。

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    古賀千恵子(こが・ちえこ)
    編集・ライター。デザイン事務所MOKA STORE所属。雑貨まわりの原稿を主に手がける。バッグブランド『TEMBEA』にてコラム「Notes」を連載中。MOKA STOREがデザイン担当する、猫グッズのハンドメイド本『猫と暮らす手づくり帖』(株式会社エクスナレッジ)amazonで見る が2021年5月10日に発売。

    Instagram:@mokastore_design



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