• 「勉強しても成績がいまひとつ」「不器用で失敗が多い」「やる気がないと周囲から言われる」など、原因がよくわからないけれども、日常生活がうまくいかない子どもたちがいます。そんな生きづらさの原因として考えられるのが「境界知能」の存在です。児童精神科医の宮口幸治さんに、境界知能の子どもたちが抱える「生きづらさ」や、周囲の大人ができる対策法について伺いました。

    支援の手を受けられない境界知能の存在とは

    画像: 支援の手を受けられない境界知能の存在とは

    そもそも、「境界知能」とはどんなものなのでしょうか? 一般的に「知的障害」の基準はIQ69以下と言われていますが、「境界知能」の基準はIQ70~84ほど。

    実は、ひと昔前のWHO(世界保健機関)による区分では、IQ70~84は「境界線精神遅滞」として定義されていたそうです。しかし、その場合、あまりにも知的障害の人口が多くなるために、境界線精神遅滞は「境界知能」というグレーゾーンで表されるようになった、という経緯があるそうです。

    「知的障害や発達障害だと診断されれば、特別支援の対象になるものの、境界知能の子どもたちは、“グレーゾーン”になるため、支援の対象外になりがちです。ただ、支援の手が届かないゆえに、生きづらさを抱え、辛い想いをしている子どもも決して少なくありません」

    境界知能の子どもたちは、一見すると普通の子に見えますし、ほかの子と一緒に学校に通うケースが多いようです。ところが、一般的に低い学習パフォーマンスを示すので、しばしば学習が遅れたり、教師や親の言うことを理解できなったりすることも多いのだとか。

    「それゆえ、周囲からは『やる気がない』『勉強が苦手』『コミュニケーションが取れずに自分勝手』といった誤解を受け、生きづらさを感じてしまうのです

    まず大切なのは、本人の気持ちに共感すること

    画像: まず大切なのは、本人の気持ちに共感すること

    苦境に立たされる子どもたちのサインを見逃さず、きちんと対策を取ってあげること。それが、周囲の大人たちに求められることなのだと、宮口先生は続けます。

    「明らかな障害や診断がつかなかったとしても、境界知能とグレーゾーンの子どもに相当することもあります。そのなかで周囲の大人たちに出来るのは、つらい状況に置かれている子どもの心境を想像し、それに対して、どんな支援をできるかを考えていくことが大切です」

    なんらかの対策を考える際は、まず大切なのは、子どもの気持ちを知るために、本人から話を聞くことです。

    「ただ、ここでやってはいけないことの1つに、『話を聞いた後に本人を指導しないこと』があります。大人は、つい子どもの話を聞いた後は、『そう、わかった。でもね、それは……』などと言ってしまいがちですが、子どもは大人にアドバイスを求めているわけではありません。単に自分の気持ちに寄り添って、わかってほしい。それだけです。大人側は状況が理解できずに困ることもあるかもしれませんが、一番つらいのは本人です。だから、あくまで、まずは相手の気持ちに共感することが重要なのです」

    学習、社会、家庭など、様々な分野で、すぐ実践できる対処法を考えよう

    画像: 学習、社会、家庭など、様々な分野で、すぐ実践できる対処法を考えよう

    ただ、いざ本人に聞いてみても、その原因がよくわからないということもしばしば起こります。そんなときは、できるだけ明日からでも使えるような具体的な支援策をとることも重要です。

    「たとえば、勉強が遅れている子に『学習面を支援しよう』だけでは、具体的に何をしていいのか分かりません。『みんなと同じようにできない』という子には、数の概念や視覚認知が発達しているのかどうかを確認してみて、その子がどのような認知機能の段階にいるのかを確認しましょう。

    また、『先生が何を言っているのかわからない』という子の場合は、まずは、何語文聞き取れるのかを確かめるのが肝心です。『僕は食べた』などの2語文なのか、『僕は朝ごはんを食べた』などの3語文なのか、一度にどのくらいの文章ならば理解ができるのかをチェックしてみましょう。

    子どもは一人ひとり違うので、見えるサインは異なります。ただ、その背景は共通していることも多い。認知機能の段階がわかれば、そこから具体的なトレーニングを考えることもできるはずです」

    現場の教師たちが行う事前検討会とは?

    画像: 現場の教師たちが行う事前検討会とは?

    支援が必要な境界知能とグレーゾーンの子どもたちに対する対応策については、現在議論に上がることも多く、近年は、学校や福祉施設、医療機関などで、多数の事例検討会と呼ばれるものが実施されているそうです。

    「事例検討会の多くは、事例提供者が事例を詳細に説明し、他の関係者も情報を追加しながら、参加者みんなで情報を共有した上で、ディスカッションしたり、コンサルタントが助言したりして、進めていくものです。

    一方、参加者みんなが当事者意識をもって議論に参加し、かつ楽しく進められるグループワーク型の検討会もあります。これは進行方法に慣れれば外部からの専門家や助言者がいなくても、比較的容易にどの施設でも実践することは可能です」

    こうした事例検討会などを通じて、現場の教師たちも勉強を重ねる機会が増えており、境界値脳に対する理解は深まっているはず。もし、自分の子どもの日常生活に不安を感じたときは、ぜひ一度、学校の先生や専門家に連絡を取ってみてはいかがでしょうか。

    「境界認知」については、宮口幸治先生の新刊『困っている子を見逃すな マンガでわかる境界知能とグレーゾーンの子どもたち2』のなかで、より詳しく紹介しています。


    宮口幸治(みやぐち・こうじ)
    立命館大学産業社会学部教授。京都大学工学部を卒業後、建設コンサルタント会社に勤務。その後、神戸大学医学部を卒業し、児童精神科医として精神科病院や医療少年院、女子少年院などに勤務。医学博士、臨床心理士。2016年より現職。著書に、2020年度の新書部門ベストセラーとなった『ケーキの切れない非行少年たち』などがある。



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