• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。京都市中京区の「器や彩々(さいさい)」は、古い町家をリフォームしたお店に、味わい豊かな器を並べる器屋さん。店主の鶴田美和さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    誰もが心地よく過ごせる空間に

    オフィス街や繁華街を抱える中京区は、京都市の中心的エリアのひとつ。そんな中京区の賑わいある場所から少し離れた住宅街に、今回ご紹介する「器や彩々(さいさい)」はあります。お店は、古い町家の趣はそのままにリフォームされていて、情緒あふれる素敵な空間となっています。

    「昔は、お習字の先生だったかが住まわれていたそうなんですが、その後しばらく空いていて。私が内見したときは、床はないし、壁もあるかないかというような状態でしたが、建築士さんに希望を伝え、話し合いながらリフォームしました。近隣には同じような町家が立ち並び、あまりにも溶け込み過ぎていて、気づかずに通りすぎてしまうお客さんもいらっしゃいます(笑)」

    画像: 京町家らしい格子があり、風情たっぷりの店構え

    京町家らしい格子があり、風情たっぷりの店構え

    画像: 個展は月1回程のペースで開催されています

    個展は月1回程のペースで開催されています

    画像: ニュアンスのあるモルタルの壁を背景に、余白を持たせて器が並べられています

    ニュアンスのあるモルタルの壁を背景に、余白を持たせて器が並べられています

    店主の鶴田美和さんは、福岡県の出身。進学のため京都へ引っ越し、以来30年ほど京都に住み続けてるのだそう。鶴田さんはどうして器屋さんを始めたのでしょうか。

    「もともと器が大好きで、器好きが高じてといったらありきたりなんですけど。学校を出て会社勤めをしているときから、器を紹介するお店がしたいとずっと思っていました。とはいえ、なんのノウハウも仕入先もないので、まずはオンラインショップから始めて、少しずつ作家さんとの繋がりを持ったり、経験を積むことにしようと思って」

    会社を辞めると、派遣の仕事をしながらオンラインショップを運営。3年ほど経った頃に四条烏丸という繁華街の小さなビルの2階に小さなお店を出店し、その5年後に今の場所に移転したそう。「けして順調な道のりという感じではなくて。でも、作家さんやお客さまに恵まれたおかげで、着実にステップアップできてきたとは思います」と鶴田さん。

    こちらの物件に決めた理由は、「庭があって、常設と展示を分けてゆったりと見てもらえるスペースがあったから」だそうで、その庭はお店で素敵な役割を果しています。

    「ご夫婦やカップルで来店された際、女性は一生懸命器を見ていても、男性が手持ち無沙汰な様子だったりするのを、目にすることがあって。お連れの方が寛げる場所があるといいなと思い、坪庭を臨む喫茶スペースを設けました」

    画像: 奥が喫茶室。コーヒーや紅茶など簡単な飲み物を、取り扱いのある作家さんの器でサーブしてくれます

    奥が喫茶室。コーヒーや紅茶など簡単な飲み物を、取り扱いのある作家さんの器でサーブしてくれます

    画像: 上段のフリーカップは、手前から鈴木史子さん、八木橋昇さん、大野七実さんの作品。下段のカトラリーは、金工作家、竹俣勇壱さんのもの

    上段のフリーカップは、手前から鈴木史子さん、八木橋昇さん、大野七実さんの作品。下段のカトラリーは、金工作家、竹俣勇壱さんのもの

    喫茶室だけでなく、鶴田さんのお客さんへの配慮は、お店の隅々まで行き渡っているよう。天井から下がる和風のランプ、目を潤す数々のグリーン、温か味を添えるドライフラワーなどが店内を彩り、心休まるスペースとなっています。

    作家さんの抱く世界観を大切に

    そんな鶴田さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介してもらいました。
    まずは、高知県の谷相(たにあい)で作陶する、小野象平(おのしょうへい)さんの器です。

    画像: 青の灰釉が美しい「青灰釉八寸皿」。「土を混ぜすぎないようにしたり、指跡を残したりすることで、器ごとに違う表情を持たせています」と鶴田さん

    青の灰釉が美しい「青灰釉八寸皿」。「土を混ぜすぎないようにしたり、指跡を残したりすることで、器ごとに違う表情を持たせています」と鶴田さん

    「象平さんは、小野哲平さんの息子さんです。しばらくはサラリーマンをされていたんですが、陶芸の道に進まれて。いまは哲平さんの工房のすぐ近く、お隣さんぐらいの場所に、工房を構えていらっしゃいます。土は自ら山で掘った原土を用い、釉薬は自然にある鉱物と植物の灰のみでつくった自然釉を使っていて、自然と向き合いながら作陶されていますね。

    『青灰釉』は定番で、最初の頃からつくっていらっしゃるシリーズです。力強さを感じるとともに、やさしい雰囲気もあってすごく素敵。シンプルな料理でも、すごく美味しそうに見せてくれますね。見た目たけでなく器自体も強くて、とても扱いやすいですよ。

    象平さんは最初、哲平さんの師匠でもあった現代陶芸家の鯉江良二さんに師事されていたんですが、鯉江さんの最後のお弟子さんとなりました。その後は、哲平さんに師事されて独立して。独立と同時ぐらいに声をかけ、その頃から親しくさせていただいています」

    お次は、滋賀県信楽町で作陶する、大谷桃子(おおたにももこ)さんの器です。

    画像: ハスの花が濃紺で描かれた「黒ハスの花のカップ」。花の細部まで描かれ、凛とした雰囲気を放っています

    ハスの花が濃紺で描かれた「黒ハスの花のカップ」。花の細部まで描かれ、凛とした雰囲気を放っています

    「桃子さんの旦那さんは大谷哲也さんで、ご夫婦で陶芸をされています。桃子さんは絵がすごくお上手で、柄が上品。今回ご紹介するマグカップもそうですが、ハスのモチーフがとても有名です。手描きなので同じ柄でもひとつ一つ微妙に違うのもいいところですよね。

    桃子さんはすごくおおらかな性格。それにお料理上手で、自家製でいろいろつくったりされています。信楽は近いのでよくお伺いするんですが、自家製ベーコンをいただくことも。哲也さんも料理上手で、大谷家の食卓はすごいですね」

    最後は、栃木県で作陶する茨木伸恵(いばらきのぶえ)さんの器です。

    画像: 手前から「ピッチャー」「 マグカップ」「 プレート」「花器」。どれもアンティーク感があり、テーブルに置くだけで様になります

    手前から「ピッチャー」「 マグカップ」「 プレート」「花器」。どれもアンティーク感があり、テーブルに置くだけで様になります

    「茨木さんはほとんどの作品を手びねりでつくっていらして、手びねりらしいおおらかさが特徴かなと思います。マットな質感が独特で、ところどころ錆びのような質感もわざと出されていて、古物のような深い味わいがあるところがすごく好きです。この頃は、外国で、とくにフランスでよく紹介されているようですよ。

    今回ご紹介する『ピッチャー』は、独特なデザインで大変人気がありますね。『花器』はドライフラワーを入れて飾るという方も多いですし、店舗のインテリアとして買って帰られる方もよくいらっしゃいます。

    茨木さんは、陶芸を学ぶ前は専門学校で服飾デザインを学ばれていたそうで、すごくおしゃれ。とてもかわいらしい女性で、そんな茨木さんらしさが、作品にも出ているように感じます」

    鶴田さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「自分が好きかどうか、どちらかというと直感で決めていますね。いい意味で整いすぎていない、味がある器に惹かれます。そして、使ってみてから、作家さんにお会いし話をした後で、取り扱いを始めるようにしています。

    たとえ惹かれる作品があっても、ほかの作品でピンとこないものがあれば、その方のものは扱わないというのがあります。世界観というのでしょうか、作家さんがつくる作品すべてを好きになれるということを大事にしているように思います」

    まずは直感で思いのままに選び取り、作家さんの感性をまるごと好きかどうかを冷静に判断。そんな風に店主が心を尽くして選んだ器たちは、毎日の生活をやさしく支えてくれるはず。器選びに疲れたら、喫茶室で一服したりと、楽しいひとときをお過ごしください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    画像: 作家さんの抱く世界観を大切に

    <撮影/鶴田美和 取材・文/諸根文奈>

    器や彩々
    075-366-3643
    11:00~18:00
    火・水休
    京都市中京区三条大宮町263-1
    電車:阪急「大宮駅」、嵐電「四条大宮駅」、地下鉄「二条城前駅」から徒歩5分、JR「二条駅」から徒歩12分
    https://saisai-utsuwa.com/
    https://www.instagram.com/kyoto_saisai/
    ◆floresta fabrica(ガラス)の展示会を開催予定(11月27日~12月5日)



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