• 子育ての悩みや日常生活のちょっとしたイライラ、みなさんどんな風に解決していますか。京町家に家族4人で暮らし、洋服づくりを手がける美濃羽まゆみさんは、仕事に家事に忙しい毎日も自分のペースでごきげんに楽しんでいるようです。個性豊かな子どもたちとの向き合い方や日々の小さな心がけ、気持ちの整え方……。美濃羽さんが日ごろから大切にしていることをお聞きして、“ごきげんに暮らすヒント=ごきげんスイッチ”を探っていきます。今回のお話は「子どもへのアドバイス」について。子どもの行動や決断について、自分の思いや考えを美濃羽さんはどんな風に伝えているのでしょう?

    子どもに言うことを聞かせたい!
    「こうあるべき」を手放して、見えてきたもの。

    日常の些細な場面のなかで、子どものすることや選ぶものに先回りして口を出してしまったり、望む方へ誘導してしまっていること、ありませんか。

    特に、想像もしない決断や行動を目にした時などは、ついつい自分の思い通りに操ろうとしてしまいがち。もちろん、私にも思い当たる節はありありです。でも、そのうち親子の関係がどこかぎくしゃくしはじめて……。

    それがあるタイミングをきっかけに和らいでいきました。今回はそんなわが家の山あり谷ありなエピソードをお話ししてみたいと思います。

    アドバイスは子どものため?

    子どもへのアドバイス、誘導……。かつては私もやっていました。子どもと行ったスーパーで「好きなお菓子を選んでね」と言いながらも、「こっちのほうがええんちゃう?」とか「おいしくなさそうやん」なんて口出ししたり。

    親としては「子どものためを思って」言っているわけですが、実はそれ、よくよく考えてみたら親の安心のためだったりするんですよね。

    私もかつて親から「あんたのためやから」と、選ぶ洋服、友達、進路、就職先などなど、さんざんアドバイスされましたが、その度うんざり。

    だって、それは本当に私のために言ってくれているのではなく、親の自己満足だと勘付いていたから。でも、そんな私もいざ親になると、子どもに同じことをしていたのですよね。

    思い出すのが、今となってはわが家で笑い話になっている、長男まめぴーの「夢かわ靴事件」です。

    それは彼と新しい運動靴を選びに行ったときのこと。3歳だった彼が気に入ったのが、なんとパステルピンクにレースの付いた、とびきりガーリーなものだったのです! 当時彼の中でピンクがブームだったうえ、大好きだったちょうちょモチーフも付いていたので、きっと一目ぼれしてしまったのだろうな。

    「これにする!」とウキウキの息子を前に青ざめた私。「同じクラスの子にからかわれたらどうしよう」「でも本人の意思を尊重せねば」「いや、後々大人になって何でこんなの選ばせたんだ、と非難されるかも……」。まばゆいばかりの“夢かわいい靴”を前に、頭の中は葛藤でぐるぐる。

    結果、どうしても説得したい気持ちを抑えきれずに、「すてきやね~。でももっとええのがあるかも!」としれっと違うお店へ。「えーこれがいいんやけどなあ」とつぶやく息子の声は聞こえないふりをして、何軒か連れまわし……。結果、さらにド派手で「まるで宇宙船!?」と錯覚しそうなラメラメ&シルバーの靴を買うハメになったのでした!

    「こうあるべき」は誰の意見?

    冷静になってから気づいたのが、私は彼の身を案じていたようでいて、実は「かわいい靴を履いた息子が受け入れられなかった」だけ。つまりは「男の子の靴はこうあるべき」という偏見を持っていたということ。我ながら情けない限りです。

    きっと、親が子どもに「アドバイスしたい」「言うことを聞かせたい」と思ってしまうときって、こんなふうに「こうあるべき」が根っこにあるのかもしれません。

    けれどそれってただの一般論だったり、靴事件みたいに単なる偏見に過ぎないことも。なのに、私たち親はそれらをまるで絶対的な正しさのように勘違いしてしまう。その結果、悲しい行き違いが起きてしまうこともあります。

    たとえば学びの場でのこと。親が「こうあるべき」にこだわるあまり子どもを追い詰め、苦しめた結果起こるのが教育虐待です。でもその親だってきっと、子どもを不幸にしたかったわけじゃない。むしろその逆で、はじめは子どもの幸せを願っていたはずです。

    一見、子どもへのアドバイスと教育虐待は縁遠いことのように思えるかもしれません。けれど「大人からの一方的な正しさの押し付け」という点で、どこかつながっているような気がするんです。

    その後も靴事件のようなことが起きるたびに「これは正しさの押し付けじゃないか」と自分の行いをふり返るようになりました。まずは自分の価値観が「偏ったもの」だと認める。そのうえで、彼らの意見を尊重しながらていねいに対話をしていこう。そう心に決めたのです。

    ていねいな対話、実践例

    たとえばある日、息子が「今日は靴を履かずに保育園に行く」と言い出したら。「そんなんアカン!」と一喝するのではなく、客観的事実を説明します。

    「なるほど、気持ちはよく分かった」と受け入れてから、「道路には思いがけずいろんなものが落ちている。そのためにケガや病気になる可能性だってある。もちろんそうなっても治るとは思うけれど、その間はふだん通りには走れなくなるだろうし、お風呂にも入れないかもしれない。靴はケガをしないために足を守ってくれるんやよ」そして一息、「私からは以上です! あなたはどうしたい?」なんて具合です。

    だいたいの場合は「ふうん」としばらく考えて、「それなら(楽しみにしている)温泉に行けへんかもしれへんしな……やめとくわ!」と、自分なりにどうするのが最善かを決めてくれました。もちろん、対話した結果「それでもやる!」と意見を曲げなかったこともありましたけれどね。

    画像: 寒風吹きすさぶなか、ジャンパーの前を豪快に開けて歩く5歳のまめぴー

    寒風吹きすさぶなか、ジャンパーの前を豪快に開けて歩く5歳のまめぴー

    かけがえのない「驚き」の数々

    そんな説明と対話をいくつ重ねたころでしょうか、ふと気づいたのです。どんなに奇妙に思える子どもの行動にも、ちゃんと彼らなりの理由があるんだということに。

    よく覚えているのが、まめぴーが4歳ぐらいのころ、冷蔵庫を開けて何やらいっしょうけんめいやっていました。よく見ると、食材に謎の文字が書かれたふせんがびっしり!

    どうやらいつも私がつくり置いたおかずに日付を貼って管理しているのを見て、そのまねっこをしていたようなのです。ふせんが貼られていたのは牛乳にヨーグルト、ゼリーと、彼のお気に入りばかり。思わず大笑いでした。

    また、長女のゴンが9歳ぐらいのときのこと。近所の公園が閉鎖されて老人ホームが建つということでみんなで寂しがっていました。そしていよいよ閉鎖の前日。朝から公園に出かけて行ったゴンが、何時間たっても帰って来ない。

    心配でときどき様子を見に行きましたが、とうとう帰る気配はなく、なんと日暮れまで公園で過ごしたのです! 帰り際、泥だらけになりながら「これで公園とお別れができた」とにこにこ満足げな顔を見て、胸にじーんと込み上げてくるものがありました。

    きっと「こうあるべき」を手放せるまでは、子どもが同じことをしていても「なんでこんなことするの!?」と眉間にしわを寄せていたはず。理由を尋ねることすらせず、親子でギスギスしていたと思います。それが今では、彼らに対して「すごい!」「おもしろいな~」と、驚きを感じることばかりなのです。

    そんな私の様子を見てどこか誇らしげな彼ら。もっとおもしろがってほしい! 驚かせたい! とばかり、さまざまなアイデアを披露してくれます。私も負けずにへんてこなサプライズを繰り出しては、親子で大笑い。

    生きるうえで正しさを求めることは大切なことかもしれません。けれど、そればかりに目がいき子どもの一瞬の輝きを感じられないのはもったいない。

    親子が親子でいられる時間は意外と少ないもの。子育ての折り返し地点が見えてきた今、くだらないことで笑いあった思い出が、大人になった彼らの心をどうか温めていますようにと、ひそかに祈る私なのです。

    〈今回のスイッチポイント〉

    「こうあるべき」から自由になれば、親子の暮らしはもっと楽しい!

    正解にとらわれず、子どもの持つ力を信じて対話してみよう。


    ――― さて、次回のテーマは「手助けをするタイミング」。成長するたびに、どんどん新しいことに挑戦していく子ども。親はそっと見守るべきか、どこまで手を差し伸べるべきか、迷うことも出てきます。美濃羽さんはどんな風に寄り添ってきたのでしょうか。お楽しみに!




    〈写真・イラスト・文/美濃羽まゆみ 構成/山形恭子〉

    画像: かけがえのない「驚き」の数々

    美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
    服飾作家・手づくり暮らし研究家。京町家で夫、長女ゴン(2007年生まれ)、長男まめぴー(2013年生まれ)、猫2匹と暮らす。細身で肌が敏感な長女に合う服が見つからず、子ども服をつくりはじめたことが服飾作家としてのスタートに。

    現在は洋服制作のほか、メディアへの出演、洋裁学校の講師、ブログやYouTubeでの発信、子どもたちの居場所「くらら庵」の運営参加など、多方面で活躍。著書に『「めんどう」を楽しむ衣食住のレシピノート』(主婦と生活社)amazonで見る 、『FU-KO basics. 感じのいい、大人服』(日本ヴォーグ社)amazonで見る など。

    ブログ:https://fukohm.exblog.jp/
    インスタグラム:@minowa_mayumi
    voicy:FU-KOなまいにちラジオ



    本誌プレゼントへのご応募はこちら

    お得な定期購読はこちらを
     (富士山マガジンサービス)

    読みもの,連載,美濃羽まゆみのごきげんスイッチ,美濃羽まゆみ

    This article is a sponsored article by
    ''.