• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。大阪・谷町にある「趣佳(しゅか)」は、料理を格上げしてくれる普段づかいの器を揃える器屋さん。店主の太田利博さんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    作家への想いが、店主を務める原動力に

    古い建物をリノベーションした店内に、古家具を配し、陶器、ガラス、木工と普段づかいにいい器を並べる「趣佳」。40代の中堅作家がメインだそうで、人気、実力ともに兼ね備えたつくり手たちの作品がずらりと並びます。

    「趣佳」がスタートしたのは、2012年。WEB制作会社で働き、“ものをつくる人に特化したWEBサイト”や、当時はまだあまり知られていなかった玉木新雌さんのショールを販売するオンラインショップを社内で立ち上げ運営することに尽力した前店主が、会社を辞め、友人たちの力を借りて店を構えました。

    画像: 場所は、谷町の空堀商店街の並び。温か味のある空間が広がります

    場所は、谷町の空堀商店街の並び。温か味のある空間が広がります

    画像: 展示会は月に2回ほど開催。こちらは、近藤 文さん、平岡 仁さん、船串篤司さんの3人展の様子

    展示会は月に2回ほど開催。こちらは、近藤 文さん、平岡 仁さん、船串篤司さんの3人展の様子

    経営が軌道にのりスタッフも増え、お店は順風満帆でしたが、昨年、多くの仲間や関係者に惜しまれて前店主が他界。亡き若き店主の後を継いだのは、店主のパートナーで、開店当初から店を手伝う太田利博さんです。

    太田さんは、店のオープン前は、靴のリペアの店を自営していたそうで、食べることは好きだったものの、器にまったく興味がなかったといいます。店を手伝うようになり、作家の工房を店主と訪れたり、入荷してくる器を眺めるうちに、器のよし悪しがわかるようになって、興味が増したものの、「ものすごく器が好きかというと、正直わからなかった」と話します。

    画像: 「趣佳」では、器のほかに衣類も販売。右隣りの建物(店名は「の、となり」)に衣類が並び、玉木新雌さんのショールも扱っています

    「趣佳」では、器のほかに衣類も販売。右隣りの建物(店名は「の、となり」)に衣類が並び、玉木新雌さんのショールも扱っています

    それでも、内気な店主に代わり、作家とのお酒を交えてのコミュニケーションを担っていた太田さんは、作家たちと心が通い合い、親密な関係を築けるように。「作家自身に惚れ込むと、なんとかしてこの方の作品をより多くの人に届けたいという気持ちになって。僕の場合、作品云々というより、そういった想いのほうが強いのかもしれません」

    現在お店で取り扱っている作家はみな、前店主が選んだ方たちだそうですが、「今年からは、クラフトフェアや陶器市に積極的に出掛けて、僕の選ぶ作家の作品も、少しずつ増やしていきたい」と意気込む太田さん。太田さんの視点で選ぶ新しい作家さんにも、ぜひ注目してみてください。

    変化にわくわくできる作家の器を

    そんな太田さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、茨城県笠間市で作陶する、平岡 仁(ひらおか・じん)さんの器です。

    画像: 華やかさがありつつも、ふだんの料理とよくなじむ「輪花皿」。どれも使い勝手のいいサイズ感です

    華やかさがありつつも、ふだんの料理とよくなじむ「輪花皿」。どれも使い勝手のいいサイズ感です

    「平岡さんは、開店初期からお付き合いのある作家さんで、岡山県の備前で修業された後、和歌山に工房を構え、最初は備前焼をやられていました。その後、『趣佳』に集う作家さんにも刺激を受けられたと思うのですが、『お客さまになんとか寄り添いたい』との想いから試行錯誤されて、いまの作風に辿り着かれたんです。すごく努力家で、大好きな作家ですね。

    画像: 男女問わず支持されている平岡さん。左は「掛分どら鉢」、右は「刷毛目どら鉢」

    男女問わず支持されている平岡さん。左は「掛分どら鉢」、右は「刷毛目どら鉢」

    画像: 盛り付けしやすく、どんな料理も引き立ててくれます

    盛り付けしやすく、どんな料理も引き立ててくれます

    備前焼をされていた頃から、平岡さんの器は、料理が映える器だなと感じていました。しかも、こういうものがあればいいなという形を、ちょうどいいサイズでつくってくださる。それは、使い手の声をフィードバックしながら、作陶されているからではと思います」

    お次は、香川県綾川町で制作する、田井将博(たい・まさひろ)さんの器です。

    画像: ガラスでありながら温もりを感じる田井さんの作品。こちらは、アンティークのような佇まいが魅力の「輪花モール鉢」

    ガラスでありながら温もりを感じる田井さんの作品。こちらは、アンティークのような佇まいが魅力の「輪花モール鉢」

    「田井さんは、高い技術を持ったガラス作家さんで、ファンも大勢いらっしゃいます。この『輪花モール鉢』のように、縁に加工で色づけしたものを多く制作されていますね。縁の色は金と緑の2パターンあります。お皿でいうリムみたいに、縁の色が器の輪郭を立たせているかのようで、料理が映えるというか、ワンランク上のものにしてくれます。

    画像: 奥は、おやつ時間の盛り上げ役「おやつドーム」と「輪花コンポート」。手前は「大輪の皿」

    奥は、おやつ時間の盛り上げ役「おやつドーム」と「輪花コンポート」。手前は「大輪の皿」

    最初は、売り込みのような形で訪ねていらしたんですが、田井さんのことはすでに存じ上げていたので、『田井さんが来てくださった!』と内心興奮しました(笑)。田井さんはとてもシャイで、打ち解けていただくまでに時間がかかりましたが、一度仲良くなると、とても人懐こいというか親しみの持てる方です」

    最後は、滋賀県大津市で制作する、落合芝地(おちあい・しばじ)さんの盆です。

    画像: 落合さんは、海外からも注目を集める木工作家。「花十字盆1尺」は、比較的新しい作品で、優美な姿に目を奪われます

    落合さんは、海外からも注目を集める木工作家。「花十字盆1尺」は、比較的新しい作品で、優美な姿に目を奪われます

    「落合さんは、椀なども制作されますが、お盆の人気が大変高く、いまではお盆をメインに制作されています。購入した木地を作品に仕立てるのではなく、木材を仕入れて何年も乾燥させ、木地にするところからご自身でされていますね。ある程度の形までは機械でカットしますが、そこからは手彫りで、形を整えたり溝をつけたりと、手間暇かけてつくられています。

    画像: 上品なフォルムと木目の美しさに見惚れる「輪花盆1尺1寸」

    上品なフォルムと木目の美しさに見惚れる「輪花盆1尺1寸」

    『花十字盆』も『輪花盆』もオイルで仕上げることで、木目がしっかりと出ています。同じ形でもひとつひとつ木目の表情がまったく違って、とても面白いですね。落合さんのお盆は、結構いいお値段がしますが、お客さまが何枚も買われたりするのは、そんなところに惹かれているのではないかと思います」

    今年から作家選定を行う太田さん。どんなことを大切にされるのでしょうか。

    「いま取り扱っている作家さんと作風がかぶっていないというのが前提で、そのうえで、まだ完成しきっていない、これからどう変化を遂げていくのか、追っかけていくのが楽しみな方を探したいと思っています。もちろん、そこを見定めるのは、難しいことではあると思うのですが。

    作風は、僕の好みを押し出しすぎないようにしようと思っています。それよりも、お店に合うかどうかを大切にしていきたいですね。企画展もやっていますので、その中に入っても違和感のない方を見つけたいと考えています」

    料理を引き立てる土物や、“よそ行き感”を演出するガラス、木の個性を引き出す木工など、毎日の生活に楽しさやトキメキをくれる道具がそろう「趣佳」。つくり手と使い手をつなぐことに力を尽くした店主の想いを、大切に受け継ぐ器屋さんです。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/山本麻希 ※店内外観は太田利博 取材・文/諸根文奈>

    趣佳
    06-7503-2508
    12:00~17:00
    水・木休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
    大阪市中央区谷町6-15-22
    最寄り駅:大阪市営地下鉄鶴見緑地線「松屋町駅」3番出口より徒歩7分
    大阪市営地下鉄谷町線「谷町六丁目駅」4番出口より徒歩7分
    https://www.syuca.jp/
    https://www.instagram.com/syuca_jp/
    ◆松平彩子さん・うつわうたたねさんの二人展を開催予定(4月15日~4月23日)
    ◆岳中爽果さんの個展を開催予定(5月3日~5月4日)
    ◆佐藤もも子さんの個展を開催予定(6月3日~終了日未定)



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