(『百実帖』より)
春を運び去る
うらうらと、上天気の昼上がり。すっかり伸びた草の間をぬって、蒲公英の綿毛がきらめいている。
足元の一本を手折り、ふーっと息を吹きかける。風にうまく乗ると、どこへともなく旅立っていく。
飛ばすことはあっても、生けることはあまりしない。どこかで採っても、持ち帰るまでに飛んでいってしまうこともしょっちゅうだし、室内のあちこちに落ちる綿毛は、掃除が面倒でもある。
それでも、遊び心が働くとでもいうのだろうか。たまにちょっと生けてみたくなる。ままごと気分で摘むのもたのしい。なのに、飾った綿毛を眺めているうち、どうしたものかしんみりしてしまう。
ハル、ハズゴーン、だね。
掘りたての竹の子を前にした、友人のことばを思い出す。
竹の子も蒲公英も、その生長とともに、春を運び去ってしまう。
ゆく春を惜しむ。出会いは嬉しく、あと味はちょっぴりせつない植物なのだ。
西洋蒲公英〈セイヨウタンポポ〉
春|キク科 多年草
アルミの容器に西洋蒲公英〈セイヨウタンポポ〉を生ける
生けるときは
綿毛の中心部がしっかりしていそうなのを選ぶと
心なし保ちが違う気がしている。
花材
西洋蒲公英(セイヨウタンポポ)/ 黄金小手毬(オウゴンコデマリ)/黄華鬘(キケマン)
花器
アルミの容器
※ 本記事は『百実帖』(エクスナレッジ)からの抜粋です
〈スタイリング・文/雨宮ゆか 撮影/雨宮英也〉
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雨宮ゆか(あめみや・ゆか)
花の教室「日々花」主宰。神奈川県生まれ。季節の草花を生活に取り込む「花の楽しみ方教室」を東京・大田区のアトリエを拠点として全国に発信。工芸作家とコラボした花器の提案をおこない、各地のギャラリーで企画展を催す。花にまつわる執筆やスタイリングなどを手がけ、メディア掲載も多数。 著書に『花ごよみ365日』(誠文堂新光社)、『百花帖』『百葉帖』(ともにエクスナレッジ)がある。
雨宮英也(あめみや・ひでや)
写真家。東京都生まれ。梅田正明氏に師事の後独立。食器、家具、住宅など生活にかかわるプロダクトを主に撮影。人の暮らしが伝わる建築写真に定評がある。 近刊に『小さな平屋。』『自然と暮らす家』(ともにエクスナレッジ)など。