アイデアを出し合った、遊び心ある空間
モノトーンでまとめられたシックな店内。そこに、全国から選りすぐられた作家の器と、上質でこだわりある洋服を並べる「ta-na(ターナ)」。その巧みなセレクトで、地元を中心に器好き・洋服好きから多くの支持を集めるお店です。
店主の隈純子さんは、以前、洋服のお直しの店をひとりで切り盛り。するとあるとき、商売人だった父親から、「人を雇うなどして、もっときちんと店をやったら?」と促されます。また、時を同じくして、身近な人が突然の死を迎えることに。「人って、こんなにあっけなく亡くなることもあるんだ」と、身にしみて感じたといいます。
「そのふたつをきっかけに、改めてこの先のことを考えたんです。お直しの仕事は、将来ずっと続けたいとは思えない。そしてそれまでは、『好きなことを仕事にしない方がいい』という言葉を半ば信じていた部分があって。でも、真剣に考えて出した答えは、『本当に好きなことをして生きていきたい』というものでした」
それでも、「お直しの店を一気にやめる勇気はなくて」、補正の仕事を続けつつ、店の半分ほどのスペースで、器やバッグ、生活雑貨などの作家作品を扱う「ta-na」を始めます。すると、不安をよそにお客さんは順調に増えていき、2年ほどで「ta-na」に専念できるようになりました。
ただ問題は、お店が手狭だったこと。日もあまり入らない物件だったため、「いつか、もっと広い、日が差し込む場所で、器も洋服もたっぷり見てもらえたら」というのが隈さんの夢だったそう。そして、そんな夢をも無理なく実現できたのには、息子さんの存在がありました。
「息子は、デザインや映像制作の会社を経営していて。それで、『ta-na』と合併し、両方がひとつの建物に入居できるようにしてくれたんです。息子のおかげで、念願が叶いました」
隈さんは、お直しの仕事をしていただけに、洋服にも深い愛情を抱きます。「高品質で手触り抜群。ずっと昔から好きで着ていました」と話す「エヴァムエヴァ」、細部までこだわりを感じる「テンハンドクラフテッドモダン」などのブランドを扱います。
ほかにも、「マタン エ エトアル」のスキンケア類や香りのものも。日々の暮らしの質を高め、小さな幸せをくれるアイテムが勢ぞろい。選ぶ楽しさが尽きません。
自分の好きにぴたりとくる器を
そんな隈さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、福岡県うきは市で制作する、山口和宏(やまぐち・かずひろ)さんの器です。
「山口さんはとてもお若く見えますが、60歳代後半と大ベテラン。優しくて穏やか、それでいてユーモアもある素敵な方ですね。ある程度までは機械を使って形をつくりますが、そこからは手作業。ノミでていねいに削った跡が、とても味わい深いです。
山口さんの器は、ぽってりとした厚めのフォルムが魅力です。ご自身も、『安心感があるでしょう?』と仰っていて、厚めにこだわっていますね。木皿は、トーストをのせると、蒸気を吸ってくれるので、サクサクのまま食べられます。揚げ物も同様、油を吸収するので、ベタベタせずおいしく食べられますよ。
最近、山口さんの工房に喫茶を併設した『jingoro』という場所ができました。喫茶は娘さんが切り盛りされていますが、『木の道具に慣れ親しんでほしい』との想いから、山口さんの器でデザートがサーブされています。作品の販売もありますし、ぜひ足を運んでみてください」
お次は、大分県別府市で作陶する、亀田文(かめた・ふみ)さんの器です。
「文さんは、亀田大介さんの奥さまで、夫婦揃って陶芸家さんです。型成形の技法で、白磁を中心に制作されていますが、ヨーロッパのアンティークを思わせるフォルムに魅了されますね。色は白のほか、グレーや『さくらベージュ』という淡いピンクの器もつくられます。
こちらのお皿は、長いところが30cmほどもある大皿。洋食はもちろん、意外と和や中華などいろんな料理と相性がいいんです。使いやすく、うちでは頻繁に食卓に登場しますよ。印象的なフォルムなので、テーブルに出すとぱっと華やぎます。
先日、新作が届いたのですが、貫入が全体に入った、より古めかしさを醸し出す作品で。これまでとは違ったイメージですが、新作の感じもすごく好きですね。また、銀彩の燭台も手掛けられ、そちらも人気があります。文さんは、おっとりとして物静か、また女性らしい方で、私とは正反対です(笑)」
最後は、群馬県榛東村で制作する、中村智美(なかむら・ともみ)さんの器です。
「大好きな金工家さんで、10年以上のおつきあいになります。この『片口さん』は、ステンレス素材の片口の器。お豆腐、きんぴらやお浸し、サラダや果物など、ありきたりのものでもおいしく見せてくれますよ。
おじい様とお父様が鉄工所を営まれていて、中村さんはそこで制作されています。驚くことに、全工程のほとんどが手作業。打ち込んで成形するのはもちろん、鉄の板を切るのも手作業なので、切り跡にも味わいがあって。量産のステンレス製品は薬で光沢を出しますが、あえて薬は使わずくすんだ表情にされています。そんなところにも惹かれますね。
また、鉄製のフライパンもおつくりになり、とても人気があります。耐久性が増すようにと、継ぎ目のない一体型にしたこだわりのフライパン。愛らしい形にも魅了されます」
隈さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「有名無名に関係なく、選ぶときは直感です。自分で見て、心の底から好きだと思えるもの。惹かれるのは、経年変化があるものやフォルムが美しいもの。また、形だったりテクスチャーだったり、どこかに古めかしさを感じられるものにも惹かれます。
お店にはモノトーンの器が多いですが、色味のあるものも嫌いではなくて。ただ、古びた趣のある色味が好きです。たとえばグリーンならきれいめではなく、渋めのグリーンですね」
店を始めるにあたり声をかけたのは、それまで個人的に交流のあったつくり手たちだったといいます。展示会に何度か足を運び、顔を覚えてもらった器作家、SNSで知り合い仲よくなったバッグ作家など。そんな風に軽やかに関係を深められたのは、飾らない人柄の隈さんだったからに違いありません。
気さくな店主と一生つきあえる器が出迎える「ta-na」で、ぜひお買い物を楽しんでみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/隈 純子 取材・文/諸根文奈>
ta-na
097-532-1988
11:00~17:00
水休 ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
大分県大分市浜町北10組 CORNER Bldg.2F
最寄り駅:JR「大分駅」より車で5分ほど
https://www.ta-na.jp/
https://www.instagram.com/ta_na_oita/
◆冬の暮らし展 *器、照明、リースなどこの季節に合うアイテムを販売(12月7日~クリスマス前までを予定)
◆中村智美さん(金工)の個展を開催予定(2025年3月予定)