ふつうの料理を特別にする頼れる器
都心からは少々離れた場所にある町田駅。その町田駅から15分近く歩いた住宅街にさしかかるあたりの、実に控えめな場所にある「ももふく」ですが、その“ひっそり具合”とは裏腹に、圧倒的なセレクトのよさで、器好きから高い人気を誇るお店です。
店主の田辺玲子さんは、素敵なお住まいや暮らしぶりがこれまで雑誌などで紹介されたこともあり、ご存じの方も多いかもしれません。最近では某テレビ番組にご出演され、ご飯茶碗に関する奥深い話を披露して話題を呼びました。
そんな田辺さんですが、もともと設計事務所や住宅メーカーで設計の仕事に携わっていたそうで、そのときの経験が器屋を始めることにつながったと話してくれました。
「設計の仕事をしていたときに感じたのですが、つくり手、たとえば家を建てる職人さんといった人が、気持ちのいい仕事をしていると、できあがった空間はとても気持ちがいいんですね。いい仕事をするつくり手の“もの”が空間にあると、生活が豊かになるんだと気づいて。そんなものを、ご紹介できればと思ってお店を始めたんです」
「ももふく」では、土の表情が色濃いどっしりとした器が中心ですが、なかには繊細な磁器や絵付けの器などもあります。
「おしゃれな食卓を演出したいという気持ちは意外となくて。簡単につくれる料理ってどちらかというと和食なので、忙しい日々の生活で和食をささっとつくってチャチャッと盛ったときに、『なんかおいしそう!』と思わせてくれる器を中心においています。だから、奇抜なデザインや華やかすぎるものはなくて。土物の器をメインにして、ちょっと絵柄があるものや磁器なんかを、差し色的な感じで取り入れると、気分が華やぐよね、というご提案で、そういったものも扱っています」
思いの深さが滲み出るような器を
そんな田辺さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、神奈川県相模原市で作陶する山田隆太郎 (やまだりゅうたろう)さんの碗です。
「山田さんは、器をつくる土を自ら掘り、大きな登り窯(山の斜面にそって焼成室がいくつか並ぶ、薪を使って焼く窯)でおもに焼いていらっしゃいます。窯が大きいと、窯のどの位置に配置するかによって焼け具合が違うので、すべて計算して器を置くのだそう。だからひとつひとつ表情が違います。
さらに山田さんの場合、薪の窯だけでは表情に満足がいかないと、電気や灯油の窯で二度焼き、三度焼きをされることもあって。仕上がりの表情に、すごく楽しみを見つけてつくってらっしゃいますね。
この碗は大振りなので、ご飯茶碗としてはもちろん、おかずを盛ったり、お茶漬碗にしたり、小丼としても使えます。薪窯で焼いたからこその風合いを、ぜひ楽しんでほしいですね」
お次は、栃木県益子町で作陶されている若手作家、櫻井薫(さくらいかおる)さんの鉢です。
「櫻井さんは、灰釉といって、草木の灰などを用いた釉薬を使った作品をよくつくっていらっしゃるんですが、灰釉の色の雰囲気がとても素敵なんです。この鉢も灰釉を使ったもので、私はうずらの羽をイメージするんですが、柄がとても可愛らしい。なんてことのない野菜炒めを盛っても、『えー!おいしそう』って見せてくれます。
益子で作陶されていますが、益子焼というわけではありません。でも益子の土を使ってらっしゃるので、産地ならではの色や雰囲気がなんとなく出ていて、面白いですね。この方も、焼いたときに土の成分がどう出てくるかとか、釉薬の色や質感の出方などに、すごく興味を持ってやってらっしゃいます」
最後は、奈良県で作陶されている古川桜(ふるかわさくら)さんのお皿です。
「古川さんは染付や色絵を中心にやってらっしゃいます。絵付けの作品は、古典をベースにしている作家さんとオリジナルの作家さんがいて、古川さんはオリジナルがメインですね。女性作家さんによる絵付けの器は可愛らしい絵柄のものが多いんですが、古川さんのものは、珍しい感じで女性っぽいエレガントな印象があります。
ご本人も、おっとりとしていて女性らしい、素敵~って感じの方なんです。でも、芯が強くチャキチャキした一面もあり、たぶん中身は男前なんじゃないかと。それが絵の勢いに出ているように感じます」
田辺さんが器に興味を持たれのは、器好きのご両親、特にお母さまの影響があったのだそう。焼き物の産地を家族で旅行したときは焼き物を見に足を運ぶ、食事を出す際には「この料理だからこのお皿に盛るのよ」と説明してくれたり、器を買うときは自分で選ばせてくれました。そのおかげで子どもの頃から、器って大事なもの、面白いものと感じるように。
そんな田辺さんに、作家さんを選ぶ際に大切にしていることを聞いてみました。
「たとえば、輪花という花の形をした器をつくる人も、土物のがっしりとした“焼き物です”みたいな器をつくる人も、それぞれに思い入れがあってつくってらっしゃいます。どんな思いで作陶されているか、どんなものが好きで、何を表現したいかなど、強い思いがあると、それが作品の中に投影されてくるので、その思いが強く表れているものを選んでいるような気がしますね。うちの作家さんは、強すぎるぐらいかもしれませんが(笑)」
意志が滲み出るような器、そんな器を自然に選びとっていらっしゃる田辺さん。それでいて「ももふく」が応援するのは、普段の暮らしの普通の食卓。簡単な料理もご馳走に見せてくれるその秘密は、そんな器選びの賜物のようです。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/山川修一 取材・文/諸根文奈>
うつわ ももふく
042-727-7607
12:00~19:00
日・月・祝日休
東京都町田市原町田2-10-14-101
最寄り駅:JR横浜線「町田駅」北口より徒歩10分、小田急線「町田駅」西口より徒歩15分
https://www.momofuku.jp/
https://utsuwa-momofuku.com/(オンラインショップ)
https://www.instagram.com/utsuwa_momofuku/?hl=ja
◆清水なお子展を開催予定(2021年1月30日~2月5日)