長年育んだ感性による、確かなもの選び
奈良県広陵町は、靴下の生産が盛んな町。そんな広陵町の住宅街に建つ「陶屋なづな」は、選び抜かれた作家の器を自宅に並べる器屋さんです。自宅兼ショップというと、住空間とお店のスペースをわけているのが一般的ですが、こちらは普段生活をしている空間に器を並べるという独自のスタイル。
「お店に住んでいる感じなんです(笑)。長期のお休みや展示が変わる期間は、いったん器は片付けていますが、それ以外は器を並べている中で生活しています。最初からお店をしようと思っていたら、もちろんわけていたんでしょうが、もうどうしようもなく……。でも、ダイニングテーブルとテレビを見るソファーに物が置かれてなければ、生活はできるので(笑)」
そう笑って話すのは、店主の大垣ひろ子さん。器を展示しているのはダイニング、リビング、和室と三部屋分にわたり、区切りのないオープンな空間。並ぶ作品の数も相当なものです。「個展では作家さんがたくさん作品をご用意してくださいます。ゆったりとご覧いただけたらうれしいです」と大垣さん。
さらに驚くのは、作家さんの錚々たる顔ぶれで、人気作家さんが勢ぞろいといった感があります。
「お店を始めたのは2005年で、お取り扱いする作家さんのほとんどは、その当時、作家になって間もない、新進気鋭の元気な作家さんたちでした。その頃からずっとおつきあいいただいていて、感謝しかありません」
そんな先見の明の持ち主ともいえる大垣さんは、若い頃から大の器好き。窯元や器の産地に定期的に足を運ぶほどでしたが、お店をやるとは、夢にも思っていなかったそうです。
「出産を機に会社を辞めて、専業主婦をしていたんですが、30代半ばで育児に少し余裕ができ、パートの仕事を始めました。でも、お誘いを受けるなどして、気がつくといくつものパートを掛け持ちすることになってしまい、時間に余裕がなくなって。いつまでもこのような状態を続けるのは無理があると思い、何か自分にできることはないかと考えていました」
そんな折、引っ越しをして家を建てることになり、住宅メーカーのインテリアコーディネーターの方と知り合います。「コーディネーターの方が、うちのインテリアや器などにすごく興味を示してくださり、共感してくださいました。彼女に出会って背中を押され、器でもインテリア用品でも何でもいいから、お店を開いて紹介したいと思うようになったんです」
インテリアのプロが興味を示したのもそのはず、大垣さんは器だけでなく、若い頃から家具や暮らしまわりのものに目がなく、熱心に収集し続けてきたそうで、お部屋には、イギリス製のヴィンテージのドレッシングテーブル、和製のアンティーク棚、作家もののテーブルなど、センスのよさを感じる家具がずらりと並んでいます。「長く集めていると、好みがどんどん変わってきて。だからテイストはバラバラですね」と笑って話します。
「器を見るとつい花を入れたくなる」ともいう大垣さんは、年に5回ほど季節に合わせたお花の会を開催。招く講師は、お店のお客さんだったのがご縁となった方だそう。「選んでくださる花材、素敵なうつわ使いの花生けが大好きで、定期的に季節のきれいな風を運んでいただいています」と大垣さん。こちらのワークショップにも、とても興味が湧きます。
飾っても決まる美しい作品を
そんな大垣さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、長野県八ヶ岳で作陶する、村上躍(むらかみやく)さんのポットとマグです。
「『ポット』は村上さんの代表的な作品で、洗練されたデザインに目を奪われます。とても機能的で、茶こしの部分も綿密につくられており、お茶の出方がほどよくてスムーズ、キレもよくて液垂れしない逸品です。
『ポット』もそうですが、村上さんの作品は手びねりでつくられています。手びねりならではの温かみがありますが、フォルムに無駄がなくて、釉薬の色や質感も計算されてバランスよく、キリっとクールです。マグカップもそんな印象がありますね。手に馴染みやすく、口当たりも良好です。そこにあるだけでうれしく、見ているだけで癒され、使って納得していただけると思います。
お店をする前から、村上さんの作品が大好きで、お取り扱いさせていただくことができたらと思い続けており、念願がかないました。いまではファンの方がとても多く、うれしい限りです。毎年2月に展示会を開催してくださっていて、たくさんの作品をご紹介させていただけることが、何よりうれしくて」
お次は、奈良県川上村で制作する、渡邉崇(わたなべたかし)さんの器です。
「奈良県川上村という、山深い木々に囲まれた場所で制作されている、地元の木工作家さんで、木が持つ個性を大切に、素材を生かしながら、作品づくりをされています。繊細で美しい、この『コンポート』は、ろくろを使ってていねいに削りだして制作されたもの。器のほかに、素材と向き合いながら、テーブルや椅子などの家具もつくっていらっしゃいます。
コンポートをつくり始めたのは、工房近くのお店のパティシエさんに依頼されたのがきっかけだそうで、これは何年も試行錯誤された末にできた形。黒い色は、柿渋と松煙(松を燃やすときに立ちのぼる煙)の煤で染め上げたもので、色をさらに塗り重ねて、より墨黒に仕上げていただきました。“この形でこの塗り重ねた色”を定番として、大切にご紹介し続けていきたいと思っています」
最後は、大阪府寝屋川市で制作する、里衣工房(りえこうぼう)さんの箸置きです。
「里衣工房さんは、槌目(ハンマーで叩いてつけた模様)の入ったフォークやスプーンなどのカトラリーを中心に制作されています。槌目がとても美しくお取扱いさせていただいているのですが、この箸置きは、鎚目のないシンプルな、キューブ型の箸置きをと、リクエストしてつくっていただいたものです。
何回も試作してくださり、色や素材、サイズ違いなど、何個も何個もつくってくださいました。箸置きって意外と場所をとりますが、コンパクトにテーブルの上ですっきりとコーディネートしていただけます。並べたり積み重ねたりして、オブジェとして飾っても素敵です」
大垣さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「何よりも私自身その作家さんの作品が好きであること。技術的なことはあまり得意分野ではなく、直感で選んでいます。惹かれるものの共通点は、お料理を盛ったときに美しく見えるもの、置いてあるだけで絵になるものに惹かれます。
実は、器に惹かれるようになったきっかけは、焼き締めや窯変のようなゴツゴツとした器だったのですが、軽くて扱いやすく美しい表情の器に変わってきました。いまは形がスッキリしたもの、色も白や黒などシンプルなものが好みです」
自宅とはいえ、スペースの広さや作品数などは、街中の器屋さんに引けを取らないほど。展示会やワークショップも精力的に開催しているのにも驚きました。そんなパワーの源は、「器が好き」という純粋な想い。凛とした清々しい器たちが目を楽しませてくれる「陶屋なづな」で、毎日の生活を潤す一枚を、ぜひ選んでみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/大垣ひろ子 取材・文/諸根文奈>
陶屋なづな
0745-55-9117
11:00~17:00
日~水休
奈良県北葛城郡広陵町馬見北9-2-6
最寄り駅:近鉄大阪線「五位堂駅」からバス約5分 「馬見中5丁目」下車歩いて4分
近鉄大阪線「五位堂駅」から徒歩23分、タクシー6分
https://www.naduna-utsuwa.com/
https://www.instagram.com/hirohiro0220/
◆村上躍さんの個展を開催予定(2月24日~3月12日)
◆津田清和さん(ガラス作家)の個展を開催予定(5月12日~5月21日)
◆ハタノワタルさん(和紙職人)の個展を開催予定(7月28日~8月13日)