訪れる人に、面白い、楽しいを届けたくて
慶応3年、いまから150年ほど前に移築されたという古い蔵を改装したお店「レ・トロワ・アントゥルプ」。「当時のままの面影をできるだけ残した」という趣ある建物には、作家の器から、オブジェ、洋服、アクセサリーなど、感性豊かな品々が並びます。そんなお店を営むのは、公私ともにパートナーという廣瀨圭太さんと鈴木千晴さんのおふたり。
「僕らは以前から器やオブジェ、アートなどに興味があったんですが、お互いまったく違った仕事をしていました。この店を運営しながらいまも続けていますが、僕がファッション関係、鈴木はエディターで。
『器を扱う仕事もしたいね』とずっとふたりで話していたものの、具体的なことは何も進んでいなかったんです。でもあるとき、伯母の家の蔵が老朽化で取り壊されるというのを聞いて、その蔵を使わせてほしいとすぐさま手をあげました。蔵の存在が後押ししてくれましたね」
店名は、蔵の扉に残されていた「この蔵に『三福蔵』という名前を付けます」という書付にちなんでいるそう。
「“三”は、この蔵がもともと三つの棟にわかれていたからで、“福”は、子孫が幸福であるようにとの願いから。そこで店名を、フランス語で“三つの蔵”を意味する『レ・トロワ・アントゥルプ』と名付けたんです。“福”の部分は入ってないんですけどね(笑)」
楽しさだったり面白さなど、感情を刺激するようなものをお客さんに届けたいと話すおふたり。店を眺めると、器の横にユニークなオブジェが並んでいたり、古い木材が絵画のように飾られていたりと、その想いは設えにも表れていました。
互いの視点を尊重して、作家選びを
そんな廣瀨さんと鈴木さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、岐阜県中津川市で作陶する、田中直純(たなか・なおずみ)さんの器です。
「田中さんは、安藤雅信さんの工房に長くいて腕を磨かれただけあって、上質な作品をつくられます。どことなく西洋絵画のようなやさしいゆらぎを持った作風の方だと思いますね。これは勝手な僕のイメージなんですが、ジョルジョ・モランディの絵画を思わせるというか。
『ゴブレット』は型でつくられているんですが、そこに辿り着くまでに随分と試行錯誤されたようです。最初はろくろでひいてみたそうですが、そこに揺らぎをだそうとすると逆に狙いすぎた感じになってしまったとか。そこで、いろいろな技法を試し、自分の思った表現ができるというので、型を使うようになったそうです。
『ゴブレット』は、口当たりがよく、持ち具合もいい。軽すぎず、適度な重さがあって、使い勝手もとてもいいですよ」
お次は、長野で制作する、森田孝久(もりた・たかひさ)さんの器です。
「家具の製作に長く従事され、修業をかなり積まれたベテランの作家さんです。最近でこそ木工の輪花皿はとても人気で、いろんな作家さんがつくられていますが、森田さんは先駆けのほうで、昔は全然売れなかったと話されていました。
作品づくりでは、機械も使いますが、仕上げの多くは手作業でやっていらっしゃいます。だから細部の意匠もすごく立体的で、陰影がよくでていますね。この『蝶型四角皿』は、無国籍な雰囲気でとても洗練された印象を受けます。お皿としてだけでなく、小ぶりのお盆や折敷(おしき)としても使えますよ。
森田さんは飄々とした雰囲気の方ですが、お話するととても饒舌で。いつも車で来て器を納品してくださるんですが、気がつくと3時間ほど話に花が咲いていますね」
最後は、茨城県桜川市で作陶する、鈴木 環(すずき・かん)さんの器です。
「この方もベテランの作家さんです。作品全体を眺めると、鈴木さんならではの世界をお持ちで、技術も大変高い方です。こちらのシリーズは、黒土にフランスの化粧土をかけたもので、鈴木さんの理想とする白を表現。ところどころ下地の黒が透けて見え、そのコントラストも独特な表情を醸し出しています。
両端のカップが『ピジョンカップ』。『両手で持ったときに鳩を抱いているように見える』といった方がいて、そこからこの名前になったそうです。サイズはいろいろありますが、うちでメインに扱うのは、中と小。中サイズはヨーグルトやシリアルだったり、ひとり分のポトフなど、幅広く使えます。小サイズはお茶がよく合いますね。
鈴木さんはすごく遊び心のある方で、ときどき面白いものをつくるんです。この前も鈴木さんが“お玉”をつくられたということで、少し分けてもらいました。サイズが大き目で一般家庭では使いづらいようにも思ったのですが、黒鉄のようにも見える素晴らしい質感でとにかく魅力的でしたので、お客さまにぜひ紹介したいと、お店に置いてみたんです。すると、好奇心旺盛なお客さま方が興味津々で見てくださり、“お玉談義”で盛り上がることもあって。
ピジョンカップがあまりにも有名な鈴木さんですが、こんなお品もつくっているのを紹介できて、自分たちも楽しませていただきました。これからも面白い作品を拝見できるのが楽しみです」
廣瀨さんと鈴木さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
廣瀨さん:
「どんなものをつくっていらっしゃるか作品全体を見て、その世界観が琴線に触れるかです。最近、世の中では、“この作家さんのこの作品”のように人気作品だけを欲しがるという傾向があり、それは否定しませんが、それも含めて作家さんの世界観を大切にしたいと考えていて。ですので、ひとり一人の作家さんからできるだけ幅広い作品を仕入れて、その世界観を紹介できるようにしていますね。
鈴木さん:
「男女差があるといったら、いまの時代あまりよくないのかもしれませんが、選ぶ視点がふたりで違って、それも面白いと感じています。私の場合、女性の視点が入るので、使い勝手のよさだったり、服の着回しが好きなように、あれにもこれにも使える汎用性の高い器をいいと感じたり。そんなところを見て作家さんを選んでいます」
好きなものの根っこは似ているという廣瀨さんと鈴木さん。それでも、選ぶ視点が違うので、お互いが選んだ作家さんに驚くこともあるそうです。「ときには喧嘩もあります(笑)」と笑うおふたり。でも、相手がいいと思うならやってみようと、できるだけお互いが選んだものを尊重し合っているそうで、「いい塩梅でミックスされるので、ふたりがそれぞれ選ぶことは、実はすごく意味があることのように思います」と話します。
お店ではネットショップも運営していますが、人気が高い作品はすぐに完売してしまうそうで、やむなくネットに出すのを控える作品もあるのだとか。また、ほかの作品も入荷後にすぐにネットに出すのではなく、まずは店頭に並べるようにしているそうです。
「こうやってお店を構えているので、できればお店に来ていただいて、現物を見て触って感じていただきたいという想いがあって。ただそうすると近隣の方に限られてしまうので、大変申し訳ないのですが……」
小牧市は、名古屋市の北側に位置する市で、織田信長にゆかりのある歴史ロマンあふれる街。ぜひそんな小牧市まで小旅行がてらお出かけを。店主それぞれの視点で選んだ、心を動かす作品たちを、五感で存分に確かめてみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/廣瀨圭太・太田昌宏(作家作品) 取材・文/諸根文奈>
レ・トロワ・アントゥルプ
0568-44-1568
12:00~19:00
月火水休
愛知県小牧市間々本町31-1
電車:名古屋鉄道小牧線「小牧駅」からタクシーで約10分 名鉄バスも利用できます
車:「小牧インター」から約5分
https://shop.lt-entrepots.com/
https://www.instagram.com/lestroisentrepots/
◆三浦ナオコさん・三輪周太郎さん(金工)の二人展を開催予定(3月5日~3月13日)
◆小川真由子さん(パート・ド・ヴェール/ガラス)・佐野元春さんの二人展を開催予定(4月16日~4月24日)