• 日本には心惹かれる器をつくる作家が大勢います。作家と私たちの暮らしをそっとつないでくれるのが器屋さんです。京都市五条にある「utsuwa monotsuki(うつわ ものつき)」は、若い男性店主が選び抜く、土の表情豊かな器を揃える器屋さん。店主の井原しょうさんに、お薦めの作家をこっそり教えてもらいました。

    使い手に寄り添った、器選びのお手伝い

    築50年のビルをリノベーションした雑居ビルの一室に居を構える器屋さん「utsuwa monotsuki(うつわ ものつき)」。店主の井原しょうさんは現在32歳と、器屋店主のなかでは若手といえる年齢です。それでも、並ぶ器は、土味を生かしたどっしりとした佇まいの器で、なんとも渋めなセレクト。店内を見渡すと、日本の古い家具が置かれ、骨董の置物があちこちに飾られるなど、こだわりの空間が広がります。

    「器だけでなく、もともと洋服や家具など物全般が好きで、店名の『ものつき』は、そんな“物好き”のところからきています」と井原さん。

    画像: 什器の家具は、井原さんのお気に入りという東京の「DOUGUYA」、千葉の「アポロギア」などの古道具店で購入したもの

    什器の家具は、井原さんのお気に入りという東京の「DOUGUYA」、千葉の「アポロギア」などの古道具店で購入したもの

    画像: 土の風合いが楽しめる土ものの器を中心に、シンプルな器が多く揃います。棚の上段に並ぶのは、山口利枝さん、吉田学さん、山田隆太郎さん、四海大さんらの作品

    土の風合いが楽しめる土ものの器を中心に、シンプルな器が多く揃います。棚の上段に並ぶのは、山口利枝さん、吉田学さん、山田隆太郎さん、四海大さんらの作品

    以前は、都内で会社勤めをしていたという井原さんは、都内の器屋さんに足しげく通い、器を買い求めるうちに、ある想いに至たったそう。

    「僕は関西出身なんですが、関西に目を向けたときに、東京で自分が好きで通っているような器屋さんが少ないなと感じたんですね。男性の視点で選んだ、土味が強く、雑味も強い、男臭い器を並べるお店ということなのですが。自分が関西にお店を出すことで、そういった器にも注目してもらう場の役目を担えたらと思ったんです」

    器を買うようになったきっかけが、「餃子を、いい感じに盛れる器がほしかった」と話すだけに、使い手としての目線を大事にしている井原さん。だからこそ、お客さんからの相談にも、細やかに対応しています。

    「『この器は、こんな用途のためにこういう形をしています』といった、使い方のヒントになるようなこともよく話させていただいています。贈り物を選ぶ際は、贈る相手の年齢や趣味嗜好などをお聞きして、最適なものをご提案させていただいたりと、かなり提案型なスタイルかもしれません」

    「こんなおかずを盛りたい」「ごはんがおいしそうに見える飯椀がほしい」などの相談にものってくれるそうなので、迷ったら、気軽に相談してみてください。

    画像: 店の入口で、守り神のように鎮座する骨董の置物。愛嬌のある顔にほっこり

    店の入口で、守り神のように鎮座する骨董の置物。愛嬌のある顔にほっこり

    画像: 「うちはギャラリーではなく、あくまで器屋さん」という井原さん。基本は常設展示で、展示会は年に2回ほどだけにしているそう

    「うちはギャラリーではなく、あくまで器屋さん」という井原さん。基本は常設展示で、展示会は年に2回ほどだけにしているそう

    少し足りないぐらいがちょうどいい

    そんな井原さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。

    まずは、愛知県半田市で作陶する、松村英治(まつむら・えいじ)さんの器です。

    画像: 松村さんの人気シリーズ「青流し」の8寸リム皿。美しい青色の釉薬は、染付などに使う顔料でつくられたもの

    松村さんの人気シリーズ「青流し」の8寸リム皿。美しい青色の釉薬は、染付などに使う顔料でつくられたもの

    「松村さんはベテランの作家さんで、もともとは焼き締めで有名な方です。いまも焼き締めはやられていますが、最近はこの『青流し』のような釉薬ものの比重が高くなっていらっしゃいますね。

    発色が強めではあるんですが、素朴さを感じます。というのも、陶芸用の粘土に、原土(精製されていない自然の土)を混ぜているので、土味がよく表れていて、釉薬に自然なムラも生まれるんです。だから、派手ともいえる色味なのに素朴さがあって、料理としっくり馴染みます。

    掛け分け(2種類以上の釉薬をわけて掛け流すこと)の器で、青の釉薬にも濃淡があり、1点1点表情が違うのも魅力です。ろくろをひいてから型でつくる、型打ちという方法でつくられているんですが、ろくろでは出せないフラットな形をしています。平たいからこそ相性のいい、生姜焼きやとんかつなどを盛るのにおすすめです」

    お次は、神奈川県相模原市で作陶する、下村 淳(しもむら・あつし)さんの器です。

    画像: 柔らかな刷毛目模様がやさし気な「刷毛目6.5寸皿」。表面に現れた鉄粉の表情も、味わい深い

    柔らかな刷毛目模様がやさし気な「刷毛目6.5寸皿」。表面に現れた鉄粉の表情も、味わい深い 

    「下村さんは、もともと唐津を代表する窯のひとつ、隆太窯で修業し、2年ほど前に独立されました。いまは、神奈川県相模原市の藤野という、陶芸家やアーティストが多く移り住んでいる場所で、作陶されています。

    お皿の中心に、白いポツポツが5つほどうっすらと見えますが、これは目跡(めあと)といって、窯のなかで積み重ねて焼かれた跡なんです。この目跡もそうですが、刷毛目も一枚ごとに模様の出方が違って、手仕事の跡がすごく素朴。そんなところにも惹かれます。

    見た目がとてもシンプルで、“引き算要員”といえますね。華美な器ばかりだとテーブルがうるさくなりがちなので、こういう落ち着いた器がひとつあると、バランスがとれると思います。深さがあり、汁気のある料理も受けとめてくれるので、なすの揚げびたしなんかが似合いますよ」

    最後は、高知県高知市で作陶する、長野大輔(ながの・だいすけ)さんの器です。

    画像: 釉薬使いが巧みな長野さんの「粉引8寸リム皿」。神秘的な色合いが目を引きます

    釉薬使いが巧みな長野さんの「粉引8寸リム皿」。神秘的な色合いが目を引きます

    「長野さんは、薪窯で作品づくりをされているんですが、薪窯では、同じ土、同じ釉薬を使っても、窯の中の置く位置だったり、温度帯、酸素濃度などの違いで、まったく異なる表情になります。長野さんはそんな偶然性の強い薪窯を巧みに操って、複雑な表情の器をつくりあげていらっしゃいますね。

    この『粉引8寸リム皿』は、透明の釉薬を使い二度焼きされたものなんですが、1回目と2回目で、窯の中での置く位置を変えて焼いたそうです。釉溜り(ゆうだまり)の青みがかった感じも素敵で、これぞ薪窯のなせる技ですね。

    長野さんは釉薬を自作されていて、梨の木や柑橘系の木の灰からつくる木灰釉をよく使っていらっしゃいます。植物の種類によって色の出方が全然違って、興味深いですね。作陶の傍ら農業もされていて、米づくりで出た藁を燃やし、その灰で藁灰釉をつくったりされているのも、長野さんのおもしろいところです」

    井原さんは、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。

    「“料理を盛りつけてはじめて完成する作風”だと思います。模様がしっかり入っていたり、形がかわいらしかったり、お皿単体で完結しているような器もあって、それはそれで魅力的ですが、僕が選ぶのは、それ単体では少し寂しく見えるような、だからこそ盛りつけたくなる、そんな器です。

    ケの日の料理すら、格をあげてくれる器がいいなと思っているのですが、土味の強い素朴な器こそ、そういう器だと思っていて。飾り気がないからこそ、シンプルな料理でも上級者っぽく見せてくれる。実際に、僕がつくった料理の写真を店のSNSにあげているんですが、たいした料理じゃないのに上手くごまかせているようで(笑)。素朴な器に助けてもらっています」

    「utsuwa monotsuki」は、JR「京都駅」から歩いて16分ほど、地下鉄「五条駅」からは歩いて3分ほどと、いずれも徒歩圏内。京都に観光や仕事で訪れたとき、帰りがけにふらりと立ち寄りやすい場所にあります。土ものの器に挑戦してみたいという方も、土もの大好きという方も、普段の料理をおいしく見せてくれる魔法の一枚を見つけに、どうぞ足を運んでみてください。

    ※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。

    <撮影/井原しょう 取材・文/諸根文奈>

    utsuwa monotsuki
    050-5359-4425
    11:00~19:00
    木休
    京都市下京区西錺屋町25番地つくるビル406号室
    最寄り駅:JR「京都駅」から徒歩16分、阪急「烏丸駅」から徒歩12分、地下鉄「五条駅」から徒歩3分
    https://www.monotsuki.com/
    https://www.instagram.com/utsuwa_monotsuki/



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