散歩途中にふらりと寄れる器屋さん
二子玉川駅から歩くこと5分。大通りから少し離れた静かな路地に、器屋さん「KOHORO」はあります。古い一軒家の1階を、できるだけ手を加えずに改装した趣ある店舗。ドアが開け放たれ、訪れる人を温かく迎えます。
「親しみやすく、気軽に作家さんの手仕事を見ていただける場でありたい」と話すのは、店長の萩原梨絵さん。目指すのは、“ギャラリーとお店の中間”だそうで、展示会は月に2~3回と多く開催されるものの、展示会の間には、必ず常設期間を設けています。
遠方から訪れる人も多い有名店ですが、近隣の住人が気軽に立ち寄る姿も多く見かけます。「散歩ついでだったり、特に用事はなくても、毎週遊びに来てくださる方も多いですね。近況報告をしてくださったりとか」と、萩原さんはうれしそうにいいます。
店に置く器は、見た目だけでなく、日常使いしやすいかに注目してセレクト。「素敵なつくり手さんを見つけるとまずは作品を購入し、スタッフで使ってみて使用感について報告し合います。手にとるのも恐れ多いとかではなく、“使って楽しい”と感じてもらえる器を選ぶようにしていますね」。
日々の暮らしを盛り立てる器を
そんな萩原さんに、いち押しの作家さんのアイテムをご紹介いただきました。
まずは、滋賀県信楽町で作陶する、八木橋 昇(やぎはし・のぼる)さんの器です。
「耐熱の器が人気を集める八木橋さんですが、普通の陶器もとても素敵なんです。この鉢や皿は、毎回色が違うのですが、“この季節の『KOHORO』に似合う色”などとイメージされて。何色もの釉薬を重ねたり焼き方を工夫して生まれる、奥行きある色彩に引き寄せられます。
それに、佇まいが美しいだけでなく、料理をすごく引き立ててくれるんです。どの季節も『この料理をのせたい!』と、気持ちを駆り立てられます。こういった器は重いものが多いですが、八木橋さんの器は驚くほど軽くて。ろくろを引く際にコツがあると仰っていました。
こちらは、耐熱の片手鍋。冬はチャイを煮出すのに使うという方も多いですね。器も鍋もあらかじめ目止めして納品してくださるので、シミがつきにくいんです。八木橋さんは、物腰が柔らかく思いやりのある方。事前の目止めや軽めの造りなど、器からも細やかな気配りを感じます」
お次は、愛知県瀬戸市で作陶する、小倉夏樹(おぐら・なつき)さんの器です。
「小倉さんは、まだ30代前半とお若い方。作品すべてに、鎬(道具で均等に線をつけていく線刻の手法)を取り入れていらっしゃいます。どんな形なら鎬が映えるかを研究されるなど、ストイックに鎬を極めようとする姿勢に惹かれますね。
この『鎬フラットプレートS』は、ひと目みて『ケーキをのせたい!』と思いました。和菓子なんかにも合います。ほかの器もそうですが、鎬は主役でありつつも主張しすぎないので、料理を盛りつけてもバランスよくまとまりますよ。
小倉さんの器は、全体のフォルムも美しくて。また、器のフォルムと鎬の入り方の取り合わせも絶妙です。器によって、可愛らしいもの、女性らしさやしなやかさを感じるもの、凛とした佇まいのものなどがあって、多彩な表情を楽しめます」
最後は、佐賀県唐津市で作陶する、府川和泉(ふかわ・いずみ)さんの器です。
「府川さんは唐津の山深い土地で、薪窯を使って制作されています。60代のベテラン作家さんで小柄な方ですが、チェーンソーで薪窯用の薪を自分で切っているというから驚きます。空が大好きで工房名は『陶ぼう空』。私たちは“空さん”って呼んでいます。
自然との調和を大切にされていて、『窯に入れて完成するまで、どんな表情に仕上がるかわからないのも愛おしい』と仰っていますね。どの作品からも、生命力のような強さを感じますが、それでいて大らかさや柔らかさもあって、そのギャップにも惹かれます。
朝鮮唐津・三島・焼締め・絵唐津と、作品も幅広いです。この『朝鮮土瓶』は朝鮮唐津で、自然にまかせて生まれた味わい深い表情が魅力。どの角度から見ても、“ここの垂れてる釉薬がきれい”とか“ここの混ざり合う色の変化が素敵”など、思わず引き込まれてしまいます」
「KOHORO」では、作家さんを選ぶとき、どんなことを大切にされているのでしょうか。
「うちでは、スタッフ4名で作家選定をしていますが、クラフトイベントに出向いて探すことも多いです。先ほどもお話しましたが、4人で共通して選ぶ基準にしているのは、“暮らしに取り入れやすく、使って楽しいもの”ですね。
私個人としては、丸みを帯びたシルエットが好み。かっちりした器もかっこいいと思うのですが、大らかな形に心を動かされることが多くて。丸みがある以外にも、質感がしっとりしていたり、“このままずっと触れていたい”と思う器に出合うと、我が子のように迎え入れてしまいます(笑)」
「お客さまで、いろんな作家の器をうちで買われた方に、『作家はバラバラでも、組み合わせしやすく、並んだときに生まれる景色がすごくよくて』と仰っていただいたのが、とてもうれしかったですね」と話す萩原さん。
常設時には、陶磁器、木工、ガラス、金工、漆器など多彩な作品が並び、つくり手もさまざま。それでも、互いが共鳴し合い、ずっと昔からそこにあるような温か味ある風景をつくり出しているように感じます。心地よい食卓が自然と整う取り合わせの妙、ぜひ体感してみてください。
※紹介した商品は、お店に在庫がなくなっている場合もございますので、ご了承ください。
<撮影/山田耕司 取材・文/諸根文奈>
KOHORO 二子玉川
03-5717-9401
11:00~19:00
水休(展示会期中は営業) ※臨時休業はSNSにてお知らせしています
東京都世田谷区玉川3-12-11 1F
最寄り駅:東急田園都市線・大井町線「二子玉川駅」西口より徒歩5分
https://kohoro.jp/
https://www.instagram.com/irohani_kohoro/
◆棚橋祐介さんの個展を開催予定(12月20日~12月29日)
◆企画展「KOHOROと新潟」を開催予定 *新潟の手仕事や美味しい食べ物を紹介(2025年1月10日~1月26日)
◆長野大輔さんの個展を開催予定(2025年2月8日~2月17日)