サワードウを一層楽しく、おいしく
築80年の建物をリノベーションした複合施設「上野桜木あたり」に入居する「VANER(ヴァーネル)」は、海外仕込みのサワードウブレッドが人気のお店。4年前のオープン当初は、基本の「サワードウブレッド」のほかペストリーが2種類というラインアップでしたが、その後、少しずつ仲間が増えてきています。
なかでも昨年登場したレーズン入りのサワードウブレッド「サワードウレーズン」は、生地と一緒に発酵させた芳醇なレーズンが、サワードウの濃厚な生地とマッチして、このうえないおいしさ。たちまち人気となりました。
「マスカットレーズンだけでも、紅茶のような味だったり、黒豆のような味だったり、種類によって味が違うので、サワードウの発酵した味に合うものを選びました。レーズンも生地と一緒に発酵させるんですが、レーズンが生地の水分を吸い上げて発酵し、うま味を増します。日によってレーズンの味が違っていて、おもしろいですね」
昨年からは、サワードウを使ったガレット・デ・ロワもお目みえ。
「ケーキ屋さんにあるのとは、まったく違うものです。実際に、知り合いのパティシエの方に食べてもらったら、『自分たちはこれをガレット・デ・ロワとは呼ばないかもしれないけど、でもすごくおいしい』といってもらって。発酵のおもしろさなど、パンを通じて伝えたいことを、ガレット・デ・ロワでも伝えていけたらいいなと」と話します。
このほかにも、デンマーク流のクラシックなライ麦パン「サワードウライブレッド」(土日限定)も。サワードウブレッドの楽しさが増々広がっています。
食べる人のことを想うために、できること
お昼時になって、ふと店先に目をやると、そこには見慣れない光景が広がっていました。スタッフの方がみな集まって、楽しそうにまかないを食べています。普通、パン屋さんでは、スタッフが交代でお昼をとっているのですが、「VANER」では全員集合。
「チーム全体でご飯を囲むというのを最近始めました。ご飯を食べる喜びのような、人間としての感覚をみんなで共有して、そういう場所で“食べ物である”パンをつくることがいかに大切か、この取り組みを始めてから、強く感じました」
さらに最近では、労働時間の長さとクオリティの高いパンづくり、そのバランスのとり方を模索しているそうで、「スタッフ全員、一日平均10時間労働で週4日勤務という体制に切り替えてみた」といいます。1日の労働時間は比較的長くなりますが、3連休が毎週とれることに。
「そうしたら、仕事と生活のバランスがよくなったようで、スタッフみな、つくるものに対するアプローチがいい意味で軽くなってきました。『食べる人にとっていいものとは何か』というところの目線でパンがつくれるようになってきたかなと。余裕がないと、たぶんそういう物づくりをするのは、難しいんじゃないかと思います」
宮脇さんはスタッフのなかで一番の責任者であるヘッドベイカーという立ち位置ですが、よりよいレシピや方法があれば誰でも気軽に提案することができる雰囲気づくりも意識しているのだとか。
「ほかのスタッフも僕と同じぐらいパンづくりに携わっているので、上とか下とか関係なく、レシピの細かなところは誰でも変えていいようにしていて。たとえ働き始めて1週間のスタッフでも、気軽に発言できるような場にできればと思っています」
「僕ひとりの力では、ここまでおいしいものはつくれてなかっただろうなと思いますね」とも話す宮脇さん。スタッフ全員が、風通しのいい場所で人間らしく働きながら、食べる人のことを考えてパンをつくること。そんな理想的な環境が、パンの味わいを確実に進化させていっています。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
VANER
03-5834-8137
8:00〜15:00(売り切れ次第終了)
月・火・祝日休み
東京都台東区上野桜木2-15-6
最寄り駅:JR山手線「日暮里駅」
https://www.instagram.com/vanertokyo/