小麦の特性を生かした、ほどよいしっとり感
「僕は生まれも育ちも東京なんですが、両親の実家が島根の奥出雲町にあり、農家をしていて。子どもの頃から長い休みになると遊びに行っていたんですが、土地で採れたものをいつも食べさせてもらっていましたね。そのおかげで、野菜を食べると『この野菜は味が濃いな』と感じたり、自然とおいしいものに敏感になったように思います」
そう話すのは、千駄木にある自家製酵母のパン屋さん「ベーカリーミウラ」の店主、飛田憲彦さん。店名の“ミウラ”というのは、神奈川県の三浦半島からとったもので、もともとは逗子で営業。生まれ故郷の東京に戻ることになり、逗子から出張販売によく訪れていた馴染みのあるこの地へ、2017年に移転しました。
全粒粉の酵母、ルヴァンリキッド、牛乳酵母の3種類の自家製酵母を、パンによって使いわけ。全粒粉の酵母には、玄麦を農家から直接仕入れて、使う分だけをその都度、電動石臼でひいた全粒粉を使っています。全粒粉の酵母は、パンの味に奥行を持たせるため、すべてのパンに入れているのだとか。
全粒粉の酵母で焼き上げた「ペカンナッツとチェリー」は、有機のペカン(ピーカン)ナッツとドライチェリーを練り込んだパンで、粉の香り豊かな生地と、ドライチェリーのキリリとした酸味、ペカンナッツのコクが溶け合います。
「ベーカリーミウラ」のもうひとつの特徴は、ガスオーブンで焼き上げること。「ガスオーブンじゃないと、店をやらない」と決意し、「ガスオーブンの使用許可が下りる物件」というのが、物件探しの第一条件だったそう。
ガスオーブンのメリットは、生地の水分を残した状態で焼き上げてくれることで、ほどよくしっとりとした食べやすい生地に仕上がります。また、数日経って硬くなっても、リベイクすれば、おいしく食べられるのだとか。
さらに、ガスオーブンなら短時間で焼き上げることができるのも、大きな利点。パンは大きく焼いたほうがおいしいといわれますが、大型パンもガスオーブンなら難なく焼くことができます。飛田さんも大きく焼くことを意識しているそうで、「ライ麦パン」は、なんと幅90cmほどもあるビッグサイズで焼かれます。
「ライ麦パン」にはドイツ産有機ライ麦が使われ、ライ麦は使う分だけ前日に挽くことで、香りが華やかに。酸味もうま味も鮮烈で、自然のエネルギーに満ちた力強い味わいがします。
「うちで、一番おいしいパンですね。甘いのにもしょっぱいのにも合います。ハチミツを塗ってもおいしいし、パルミジャーノ・レッジャーノを削ってかけて、オリーブオイルをつけて食べるのもおすすめ。洋風、和風問わず、どんなおかずとも合うように、配合を考えてつくっているので、白いご飯の代わりにしてみてください。カレーと一緒に食べてもおいしいですよ」
「製法で最もこだわっているのは、水分の抜き差し」と飛田さん。「最近は、高加水のパンが流行っているようですが、そういう流行りには疎くて(笑)。それよりも、小麦の特性を見極めて、生地によって多めに水分を入れたり、逆に水分を抜いたりと、喉ごしがよくなるように考えてつくっています。たんぱく質の量のこととか、小麦の特性については製粉会社さんが詳しいので、情報をもらって参考にしていますね」
国産小麦のほかにも、有機のナッツやドライフルーツを使うなど、パンに使う食材は、自然の力を蓄えたおいしいものを選択。サンドイッチのフィリングはマヨネーズからすべて手づくりで、焼き菓子のペースト類も自家製。「買ってきたものはゼロですね。厨房のなかでつくったもので完結しています」という飛田さん。どれも手を抜かず、ていねいに。そうして生まれたパンは、心と体に養分を与えてくれる、自然の恵みに溢れたパンでした。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
ベーカリーミウラ
03-5834-8972
8:00~18:00 ※月曜のみ11:00〜18:00で、食パンと限定サンドイッチの日
火・水休み
東京都文京区千駄木2-2-15 原野ビル1F
最寄り駅:東京メトロ千代田線「千駄木駅」、「根津駅」