やさしいミルクの風味を纏う、牛乳酵母パン
両親の実家が島根の奥出雲町で農業を営んでいたという店主、飛田憲彦さんにとって、島根の食材は幼少から慣れ親しんできた大切なもの。牛乳酵母を起こすのに使う木次乳業(島根県雲南市)のノンホモ牛乳も、そんな食材のひとつです。
「独立して店で牛乳を使うなら、島根の牛乳にしようと決めていました。伯父が酪農家で、木次乳業に牛乳を卸していたので、伯父に話を通してもらって。自然な流れでしたね」

飛田さん(右端)とスタッフさんたちでパチリ。女性スタッフはお二方とも、『天然生活』を創刊から購読しているのだとか

パンが一番多く揃うのは、午前11時頃です
そんな木次乳業の牛乳を使った牛乳酵母で焼き上げるのが、店一番人気の「食パン」です。北海道産小麦「春よ恋」を100%使用した生地は、キメが細かくしっとり。口に運ぶとミルクの香りがフワッと鼻を抜けていきます。

口溶けなめらかな「食パン」。ガスオーブンで焼くことで、時間が経ってもしっとり感が持続するのだとか

ノンホモ牛乳とは、パスチャライズド・ノンホモという方法でつくられた本来の生の牛乳に近い牛乳。さっぱりとした風味で、飲みやすい
同じく牛乳酵母で焼き上げる「コッペパン」も人気で、プレーンのほかサンドイッチも用意されています。サンドイッチのフィリングはすべて手づくりされ、贅沢な味わい。なかでも「たまごサンドイッチ」には、自家製マヨネーズと、鎌倉・極楽寺にあるスパイス屋「アナン邸」のカレースパイスが使われ、まろやかなマヨネーズと個性的なスパイスの香りがマッチし、絶妙なおいしさです。

大人の味わいの「たまごサンドイッチ」。「アナン邸」は、インド人のアナンさんのお店で、飛田さんが逗子にいた頃からの知り合いだとか

伊勢原の名店「ブノワトン」(現在は閉店)のコッペパンが好きで、「店にこういうパンがあるのもいいな」と考えていたという飛田さん。上段に並ぶのが「コッペパン」
地域から慕われるお店に
店のホームページを持たず、SNSもやっていないという「ベーカリーミウラ」。パン屋さんでは、いまどき珍しいかもしれません。
「あまり手を広げ過ぎず、自分でできる範囲でやりたいといつも思っていて。だからお客さんの9割は地元の人たち。近隣のレストランにもパンを卸していますが、自分の口で説明して、理解してくれるお店だけに卸していますね。SNSなどで宣伝するのではなく、パンが雄弁に語ってくれるほうがいいかなって」と飛田さんは話します。

ルヴァンリキッドを使い低温長時間発酵で焼き上げる「バタール」。ほんのりとした塩気が心地よく、噛むほどに粉の味が増していきます

エスプレッソマシンでいれるエスプレッソやカフェラテなどドリンク類も提供。カウンターで立ち飲みしたり、テイクアウトすることができます

全粒粉の酵母を使うことで、香ばしさを増した焼き菓子は、どれも人気。こちらは、2年ほどラム酒漬けにしたドライフルーツを混ぜ込んだ「ドライフルーツと木の実のタルト」
店の壁に目をやると、お店のシンボルの燕のマークがついたエコバッグが。紙製で温かみのある、かわいいバッグです。聞くと、小麦の袋をリサイクルしたもので、地域の特別支援学校の生徒さんたちが、ミシンで製作してくれているのだとか。

食パン2斤が入るサイズ。ゴミの削減に役立ち、お客さんたちも喜んで購入していくそう
「授業の中でつくってくれていて、売上の半分をお渡ししています。納期には、いつも生徒さんと先生とで一緒に来てくれて、いい関係が築けていますね。作業の様子を何度か見に行っているんですが、一生懸命な姿に刺激をもらっています」

残ったパンはラスクにして販売したり、翌日に値下げして売り切ることで、パンの廃棄はゼロに
さらに店の入り口には、いくつもの紙袋が「ご自由にどうぞ」といった感で置いてあります。お客さんたちが家から持ってきてくれるものなんだとか。「こんなパン屋さんが、自分の街にもあったなら」、そう思わずにはいられない、地元の人たちに愛されるパン屋さん。ひと口食べれば、きっと虜になるそのパンを、どうぞ召し上がってみてください。

<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
ベーカリーミウラ
03-5834-8972
8:00~18:00 ※月曜のみ11:00〜18:00で、食パンと限定サンドイッチの日
火・水休み
東京都文京区千駄木2-2-15 原野ビル1F
最寄り駅:東京メトロ千代田線「千駄木駅」、「根津駅」