いつもそばには猫が
あたたかくて、やわらかくて、やさしくて、かわいい。
猫にまつわる形容詞を並べただけで、その存在に助けられる。猫とはとても不思議な生き物だと思う。
小さなときから身近に猫がいました。最初の身近な猫は祖母が飼っていた猫。幼いわたしにはとても大きい生き物のように感じ（実際とても大きかった）、猫という生き物が怖くて触れることができませんでした。祖母の家に行くと猫と鉢合わせないよう廊下をいつもチェックし、ばったりと会ってしまえばできるだけ壁をつたってよけていたように思います。
その後、自分の身体が猫より大きくなるころには猫に対する怖さも減り、小学生のときに校門の前で拾った猫や、中学生のころに飼い始めた猫3匹、仕事をはじめてから駅で拾った猫、いろいろな猫とともにしてきました。
そしていまはしまくん（♂）とかごめちゃん（♀）という兄妹猫と暮らしています。
「毛並みは違うけれど顔はそっくり」
先代猫の別れのあと、心の穴を埋めたのは……
2匹との出会いは友人が飼い始めた猫に会いに行ったこと。
その頃、わたしは以前に飼っていた猫との別れからぽかんと空いた穴を埋められずにいました。久々に触れた猫は温かく、心がじんわりとほどけて緊張から開放されるような気持ちになりました。また猫と一緒に生活したいという気持ちがむくむくと大きくなり、友人の「この子の兄妹がいるよ」という言葉ですぐにその子に会いに行きました。
そこで出会ったのがしまくんです。
迎えるならば保護猫と思っていたのですが、しまくんは保護猫ではありません。そのことに気が引ける気持ちもあるのが正直なところ。でもこのしまくんとの出会いはわたしにとってなくてはならないものでした。
「はじめて階段を登り降りしたしまくん」
それからというもの、しまくんとの生活が始まりました。いままで出会った猫のなかで一番の甘えん坊で遊ぶことが大好き。食べることも大好きで常にそばにぴったりと寄り添ってくれる子でした。
寝る時も枕にのって一緒に眠り、お風呂に入るときもトイレにもついてきていました（かごめちゃんが来るまでは）。表情がとても豊かで、留守をしたあとは機嫌の悪い顔でこちらに訴えてくるし、犬のようにおもちゃを咥えてきては目の前にぽとんと落とす、投げる、また拾ってくる、のエンドレスな遊びも止まりません。
しまくんとの生活はわたしのぽっかりと空いた穴に温かさがじんわりと沁みてくる湯たんぽのような感じです。いままで何をしても埋められなかった安心感があり、うちに来てくれてありがとう、と何度お礼を伝えても足りないと感じています。
こう書いているそばでも後ろにおもちゃを落とし、投げて、と背中をぽんぽんと手で触れ見上げてくる。
なんて愛おしいんだ。
「留守にした後の機嫌の悪いしまくん」
しまくんにそっくりな兄妹猫「かごめちゃん」
遅れて半年後にうちにやってきたのがかごめちゃん。
東京と松本を行ったり来たりする生活をしているわたしは、日中の見守りカメラに映るしまくんがとても寂しそうに感じ、もう1匹迎えようか悩みました。
そもそも寂しくなんかなかったかもしれないのに完全にわたしの勝手な思い込みです。相性が悪いと余計にかわいそうだしどうしようか考えていると、しまくんの兄妹がいることが分かりました。
兄妹なら大丈夫なのではないか、そんな期待を込めてかごめちゃんを迎えることにしました。
「人懐っこくてふわふわの毛並みのかごちゃん」
ところが、2匹の最初の対面のさせ方がおそらくよくなかったのか、甘えん坊のしまくんの嫉妬がとても強く、2匹は当初はまったく仲良くなれませんでした。
しまくんのプライドなのか、かごめちゃんの前では全く甘えません。
「ぼく、お兄さんなんだからね」といっているような背中にこちらが寂しくもなります。
「ふてくされてソファの下からかごちゃんを見るしまくん」
……ちなみにかごめという名前は『大豆田とわ子と三人の元夫』という大好きなドラマにでてくる市川実日子さんの役名「かごめ」から命名しました。ドラマの中の「かごめちゃん」はくるくるのヘアスタイルで、独特の雰囲気がありこの子にぴったりだと思い名付けました。
かごちゃんはとてもおっとりしていて穏やか、でも意思がきちんとあってかごちゃんもしまくん同様、おもちゃを咥えてきて遊んでのエンドレスが止まりません。
最初のしまくんの嫉妬深い時期を経験したからか、上下関係を意識していて、しまくんより先にごはんを食べず、しまくんが遊んでいるときは遠くから見ています。妹にあたるけれど、まるでお姉さんのようにしまくんをいつも「はいはい」となだめているようにも見えます。とても甘えん坊でおしゃべりも上手です。
「冬になると毛並みがよりふわふわになります。」
そんな2匹だったので、はじめて一緒に眠り、お互いを舐め合っているところを見たときには涙が出るほど嬉しく、いまでもよく喧嘩はしていますが仲良く寄り添っているところを見ると、2匹一緒でよかったなあ、と思います（しまくんの本音はわからないけれど……）。
「たいていかごちゃんの寝ているところに無理やりおしかけるしまくん」
猫たちに救われる日々。感謝をお返し
わたしは普段からとても緊張しやすく、心がきゅっとかたく縮こまっていると感じることが多いのですが、2匹はそれをいちばんに解いてくれます。家にいるときはいつでも視界の中に入ってきてくれて気づくと目の前にいる。ふとした瞬間の表情や仕草で気持ちを通わせている気持ちになり、心の底からじんわりと緩めてれます。
2匹にたくさん救われ、日々の生活を豊かなものにしてもらっている。
与えてもらうばかりで、わたしはこの2匹に一体なにがお返しできるかなあ、といくら考えても足りるものは見当たらないけれど、おいしいごはんとあたたかい寝床、たくさん一緒に遊んで、気持ちの良い環境づくりしかしてあげられないので、またお仕事も頑張ろうという気持ちにさせてもらい、結局また与えてもらってばかりです。
荻野玲子（おぎの・れいこ）
スタイリスト。東京生まれ。岡尾美代子氏に師事後、2013年に独立。ファッション、雑貨、インテリアなど、暮らしまわりのスタイリングで活動中。2022年に長野県松本市でヴィンテージ雑貨店「レヴォントゥリ」をオープン。
Instagram：@revontuli_vintage
