• エッセイストで空間デザイン・ディレクターの広瀬裕子さん。60歳を前に、歳を重ねるなかで出てくるさまざまな課題や考えなくてはいけないこと。たとえば住まいのこと、仕事のこと、⾝体のこと。ひとつひとつにしっかり向き合い、「心地いい」と感じる方へ舵を取る広瀬さんの毎日。そこから、60歳までにこうなりたい、という目標と取り組みを同世代や下の世代の方とシェアしていけたらと思っています。「エンディングノート」というと先のことに思えますが、「いま」を知るために必要なものだそう。

    考えを可視化する、これからを生きるためのノート

    自分ノートを作りをはじめています。自分ノートとは「エンディングノート」と呼ばれるものです。まだ早い、と思うかもしれませんが、エンディングノートは、終わりに向けてのノートという意味合いだけでなく「いまを知る」「これからを生きる」ためのノートです。いま、自分がどこに立ち、これからどうしたいのか──を、確認するためのノートです。

    画像: まず大事なこと。リラックスしながら書けるところからスタート

    まず大事なこと。リラックスしながら書けるところからスタート

    20代で仕事をはじめた時、わたしは本の仕事に就くまで、自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのかわからない時期がありました。その時、実行したのが「やりたくないリスト」を作ることです。やりたいことがわからないのなら、やりたくないことを考えよう、と見方を変えました。不思議なことに「やりたくないこと」はすぐわかりました。そして消去法でたどり着いたのが「本」でした。そこではじめて「本」と関わることを仕事にしていこうと思ったのです。

    いまは「書く」ことをメインにしていますが、そのスタートも「得意だから」「やりたいから」というよりも「本」のそばにあったからですが、当たり前すぎて見落としていたことでした。「可視化する」は大切です。意識にあがらない自分の「したいこと」「できること」がわかります。

    自分ノートも同じです。現状を書いていくことで、自分のこれからが見えてきます。「こうしていきたい」もあるでしょう。反対に「こうしたい」と考えていても実はそうでもなかった、ということもあるかもしれません。思いがあってもそこに無理があるなら、別の方法を考える必要もあります。悩みと思っていたことが思いこみの場合もあれば、不安がっても仕方のないこともあります。可視化し、視点が高くなることで、見えてくるのです。

    自由に書いていくことで見えてくるもの

    いま出回っている(市販されている)エンディングノートで、いいと感じるものがなかったので、そちらは下書き用と決め、自分のすきなノートに書き写し残していくことにしました。必要なのは、内容と書き方です。元のノートを参考に、自分で選んだノートに書いていけば、結果、必要事項を網羅した自分らしいノートができあがります。

    画像: 「クオバディス」の白いノートは、手軽に使えるため、書き足したり、新しくしやすい

    「クオバディス」の白いノートは、手軽に使えるため、書き足したり、新しくしやすい

    画像: 消せるペン(フリクション)は伊東屋オリジナル。インクはカートリッジ式で長く使える

    消せるペン(フリクション)は伊東屋オリジナル。インクはカートリッジ式で長く使える

    この時、使用するペンは「消えるもの」がいいですね。書いたあと、気持ちや考えに変化があるかもしれません。正式な遺言状を作る際はルールに法る必要がありますが、そうでない場合は、自由に書き消しできるものがお勧めです。

    市販のノートを見ると必要事項がわかります。1.自分の基本情報 2.資産状況(預貯金・年金・クレジットカード、不動産など)。つづいて3.交友関係  4.健康管理。いっしょに暮らしている動物がいる場合は、そちらも忘れずに。

    書きはじめると、必要なことが多岐に渡っているのに気づきます。誰しもその人が歩んできたその人だけの時間があります。その時間を自分でたどることが「60歳」という年齢に合っている気がします。

    近しい人の介護や看取りを経験すると、知らないこと、わからないことがあり、戸惑うことがあります。わたしもそうでした。何がどこにあるかわからない。聞いていたこととちがう。大事だと考えて、大切にしまったのでしょう。場所はわかるけれど、鍵が見当たらないこともありました。いま、自分ノートは、自分の未来のためのものですが、やがて、周りの人にも必要なノートになっていきます。

    自分ノートは、資産や健康など現実的な内容がほとんどですが、そこにはいつも「わたし」がいます。もうすぐ60歳。たのしいことも、かなしいことも、60年という時間のなかではありました。でも、ここでこうしているわたしがいる。それは、何よりの誇りです。

    画像: 「自分ノート」は、これまでの時間をふり返り、思い出す時間にも

    「自分ノート」は、これまでの時間をふり返り、思い出す時間にも

    60歳までのメモ

    1 自分ノート用にノートを用意する

    2 ノートに必要なことを書いていく

    3 消えるペンを用意する

    4 必要な時は、法規に従って遺言状等をつくるようにする

    5 急な時のために作ったノートは目につきやすい場所に保管しておく


    画像: 自由に書いていくことで見えてくるもの

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)

    エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19



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