• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。年末に思い出す、あの猫のこと。

    年末に思い出す雪の日のこと

    年末というと思い出す日々があります。

    もう二十年も前。猫エイズと白血病の猫「あい」を保護し、無人の祖母の家でお世話をしていたときのこと。その年は、例年になくひどい雪が降っていました。

    その中を、毎日、三食、ごはんとお薬を届ける日々。こんな寒空の下を、あいが外で暮らさずにすんでよかったと、ひしひし思いました。

    三十一日。まだ若かった私は、おせちなんて凝ったものは作れなかったけれど、最低限のお正月のお祝い料理をこしらえようと、キッチンに向かっていました。

    その日の「あい係」はまだ籍を入れていなかった夫。画質の悪い携帯電話の写真で、きゅるきゅるお目目のあいの写真を送ってくれ、それを見ながら、私は作りかけのお煮しめの写真を送りました。

    あれから長い年月が過ぎ、今では私もいっちょまえのおせち料理を作れるようになりました。

    画像: 年末に思い出す雪の日のこと

    出会って後悔した命はない

    あいは、我が家の一員になり、そして永眠し、今、数多くの骨壺の中にきゅるるんと、存在感を放っています。

    今年はそこに、ぴょんの骨壺も加わりました。

    命を迎えた分だけ、命を見送る痛みは増える。

    そのたび、心をもぎとられるようで、今、キーボードを打つ手もままならないけれど――。

    出会って後悔した命はない。見送る日までともに過ごせて、後悔した命はない。

    これからも、私たちは、愛した分だけ、お別れの瞬間を迎えるでしょう。

    でも、だからこそ、この一瞬一瞬を噛みしめ、命を抱きしめていくのだと思います。

    皆様も、どうぞ、良いお年を。来年も、よろしくお願いいたします。

    画像1: 出会って後悔した命はない

    画像2: 出会って後悔した命はない

    咲セリ(さき・せり)

    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

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