• 日本の風土を反映して生まれた、美しい暮らしの道具たち。未来に手渡したい、夏を乗り切る知恵が息づいています。今回は、Zen(ぜん)の 渡辺敦子さんに、日本の涼を楽しむ道具について伺いました。
    (『天然生活』2022年7月号掲載)

    移り住む土地ごとに増えていく夏の相棒

    「私、とにかく暑いのが苦手なんです」。開口一番、そういって笑う渡辺敦子さん。茨城県で生まれ、大学卒業後は栃木、東京、遠野(岩手)、鎌倉(神奈川)と日本各地に移り住んできた渡辺さんは今年、長野県御代田町(みよたまち)で二度目の夏を迎えます。

    それぞれの土地で「暑さをしのぎながら」過ごすうち、少しずつ集まってきたという、日本の夏の道具たち

    「午後になるとすーっと涼しい風が吹く遠野の夏は日陰が心地よく、家族で外ごはんを楽しむことが多かったですね。そんな食卓では、タイマグラという山奥の集落に暮らす『南部桶正』さんの寿司桶が活躍していました」

    一方、最も暑かったのが鎌倉の夏。「これは扇子の出番、と思っていたところ、ちょうど子どもが壊してしまって。そんな折に若宮大路のショップで手に取った品は、いまも夏の相棒です」

    天然繊維と生活雑貨の店「かぐれ」を立ち上げた経験から、世界の生活道具を目にしてきた渡辺さんは「日本の風土のなかで生まれた道具はやはり、日本の夏に寄り添っていて、使いながら感心させられることも多い」のだとか。

    「ふたりの子どもたちには使う姿を見せることで、道具とともにそこに込められた暮らしの知恵を自然に手渡せたらと思います」

    南部桶正(なんぶおけまさ)の寿司桶

    画像: 南部桶正(なんぶおけまさ)の寿司桶

    岩手県・遠野に暮らしていた時代に出合い、「ご夫妻はいまも憧れの『暮らしの達人』です」という奥畑正宏さんの「南部桶正」。伝統の技を大切に、側板は竹釘でつなぎ、接着剤は不使用。

    「おひつと迷いましたが、私も家族も手巻き寿司が大好きなので、寿司桶にしました」

    奈良県吉野産の杉を使い、木の香りもさわやか。

    15年選手のガラスペン

    画像: ひんやりしたガラスで心地よく夏の便りを

    ひんやりしたガラスで心地よく夏の便りを

    文房具集めに凝っていた20代のころ、ベネチアではじめてその存在を知った日本生まれの筆記用具・ガラスペン。

    「そのとき購入したペンはうっかりなくしてしまったのですが、15年ほど前に友人から日本製のものをプレゼントされて。以来、夏に手紙を書くときに使います。手入れも意外と簡単、長く使えるのはさすがです」

    切子のおちょこと、小澄正雄さんの徳利

    画像: 切子のおちょこと、小澄正雄さんの徳利

    自身が立ち上げを行ったセレクトショップ「かぐれ」にて展示を企画した縁で愛用するようになった、小澄正雄さんの徳利。

    「吹きガラスのやわらかなフォルムが気に入って、ずっと愛用しています」

    一緒に使っている美しい切子のおちょこは、なんと現在暮らしている家に以前の家主が残していったものなのだとか。

    ttyokzk ceramic design(タツヤオカザキ セラミックデザイン)の蚊遣(かや)り

    画像: ttyokzk ceramic design(タツヤオカザキ セラミックデザイン)の蚊遣(かや)り

    シンプルで使いやすいデザインが魅力の蚊遣りは、東京に暮らしていたときに購入したもの。

    「あいにく、ふたが割れてしまったのですが、漆継ぎをほどこしたことで自分だけの一品に。さらに愛着がわきました」

    天然の防虫菊を使った菊花線香を灯し、窓辺や庭などに置いて、子どもと家族のためにも虫対策を。

    西川庄六商店の扇子

    画像: 丸いワンポイントもお気に入り

    丸いワンポイントもお気に入り

    蒸し暑い鎌倉の夏の記憶がよみがえる品といえば、シンプルな布生地と丸いワンポイントが気に入って手に取ったこちらの一品。

    「電車やバスを待っている時間って、なんだか一層暑さを感じますよね。そんなときにサッと取り出して涼んでいます」

    おでかけの移動中に、寝入ってしまった子をあおいだ懐かしい思い出も。



    <撮影/山浦剛典 取材・文/玉木企美子>

    渡辺敦子(わたなべ・あつこ)
    金継ぎした器のブランドZen(繕)主宰。栃木県益子町の「STARNET」に勤務後、セレクトショップ「かぐれ」を立ち上げ、ブランドディレクターを務める。2015年、出産を機に岩手県遠野市に移住し山暮らしを経験。鎌倉と遠野の二拠点生活を経て、現在は長野県御代田町に居住。陶芸に魅せられ、関わること20余年。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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