(『天然生活』 2023年10月号掲載)
毎日を面白がって上機嫌で過ごせるように
山本さんがよくいう言葉がありました。「ところどころに、嫌なことが混ざっているほうがいいのよ」
娘たちにも「口癖」と笑われます。快調が続いたり、順調すぎるときには気をつけよう。そして物事がうまく運ばないときは「止められたかな」と考えるのだとか。
「あとになって、あのときあれが実現しなくてよかった、と思い返すことってありませんか?」
見えない力に止めてもらったと思い明(あき)らめて(諦めるのではありません)、別のことに気持ちを向けていくことも大切だとみずからにいい聞かせています。
「人生の『宿題』はだれにも与えられます。避けたって、気づかないふりをしたって、それは及第点をもらうまで何度でも......。そのときの自分に必要な『宿題』なのでしょうね。よし! と心を決めて向き合うことにしています」
「宿題」の過程には、庭の野菜が実った、漬物がおいしくできた、田んぼにマガモがやってきた、なんていうごほうびも。
こんなふうに暮らしにちりばめられたことごとを大いに喜ぶことこそ、山本さんの面白がり方、機嫌のとり方なのだといいます。
自分の幸せ
芳しくないことは「必要な宿題」と受けとめる
何か困難が起こったときは、自分に課せられた宿題だと受け止めるようにしているという山本さん。
「また、過去のいろいろな『しくじりの贖(あがな)い』だという受けとめ方をすることも......。たとえば、知らぬ間に人を傷つけていたり、よかれと思ってしたことがそうなっていなかったりって、きっとあると思うから」
みんなの幸せ
できる限り「全肯定」の姿勢で
家族や知人(とくに若い人)から相談をもちかけられることが少なくない山本さん。そんなときは、基本的には全肯定の姿勢で向き合う。
「若い人特有の前のめりで、向こう見ずに思えるような話も、否定はせずに『その気持ちわかるよ』といったん受けとめます。『私ならこうするかな』と自分の考えを伝えるのはそのうえで」
自分の幸せ
ものをなるべく持たず、すべてに定位置を設ける
「旅をするように暮らしたい」山本さんにとって、持ちものは最小限にして、暮らしは身軽であるのが理想。
「いっぱい持ちたい人の気持ちもわかるけど、必要なものだけを持っているほうが私の場合はうまくいく。すべてに定位置があって、外で気に入ったものと出合っても、置き場所をイメージできなければ買いません」
自分の幸せ
あさってより先は、見ない
近著のタイトルにもなっているほど、山本さんが大切にしている言葉です。
目の前のことにしっかりと目を向け、よき今日と明日を積み重ねていくと、それが連なり、おのずとよき人生になると考えています。
「容量が少ないんだと思います。『先まわりの心配』をしても、それが解決するわけではないし。いま、今日、明日で精一杯」
幸せをくれるもの
日当たりのいい縁側で鉢植えを育てている。炭鉢植えに植えた多肉植物はとくにお気に入り。
「多肉植物は成長がゆっくりですが、観察していると少しずつ変化して面白い」
大切にしている言葉
少しネガティブに見える言葉だけれど、「孤独は大事」と山本さん。
「孤独を楽しむ、さびしいのも素敵だという感覚を手に入れられていると、とくにこれからは強いと思うのです」
<撮影/有賀 傑 構成・文/鈴木麻子>
山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
随筆家。暮らしまわり、生活と社会を見つめる多くのエッセイを執筆。50年以上暮らした東京を離れ、2021年から埼玉・熊谷の築150年の古民家で暮らす。長年、ブログ「ふみ虫、泣き虫、本の虫」を更新。最新刊は『あさってより先は、見ない』(清流出版)。配信系のラジオ「うんたったラジオ」も好評。https://www.fumimushi.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです