(『天然生活』2021年9月号掲載)
台所は“コミュニケーション”の中心
オープンラックに並ぶ器をはじめ、見えるところに置かれている数々の道具たち。
「私は整理整頓が全然できないから」と笑いつつ、出しておくことで「すぐに使える」「存在を忘れない」のはもちろん、別の理由も教えてくれました。
「土鍋もせいろも道具自体が素敵じゃないですか。どれも造形が美しいわけですから、目から遠ざけるなんてもったいない。人間の感覚はそういうところで成長するものでしょ。それと食器はね、たとえばお客さまが“手伝いましょう”といってくださっても、よそさまの戸棚まで開けてというわけにはなかなかいかない。でもオープンならだれでも手に取れる。“この器、素晴らしいわよね”なんて、感性を分かち合うこともできるんです」
「台所は人に見せない、というのはひと昔前の話」と秦泉寺さん。
「コミュニケーションと密接につながっているのが現代の台所。やっぱり家の中心にあるべきよね」
秦泉寺さんの「私の台所の楽しみ」
「キッチンは実験の場でもある」という秦泉寺さん。磨かれた感性とひらめきで、手づくりを楽しみます。
庭の山椒の葉で、ヘアオイルづくり
工房のあったバリ島で覚えたというヘアオイルづくり。バリでは香りにジャスミンを使っていたそうですが、今回は庭に植えた山椒で制作。
熱したココナツオイルに山椒の葉を入れて香りを移し、彩りにアジサイの花を加えて。昨年はツバキや月桂樹を使ってオイルをつくったそう。
手をかけた料理やお菓子でおもてなし
食事会の献立はていねいに筆書きする。食後は「デザートルーム」と呼ぶお茶室で歓談することも。紅花の色が愛らしい掛け軸は秦泉寺さんの作品。
自由なアイテム使いで、心が躍る空間に
こまごまとした道具を収めた収納庫の扉には、遊び心のあるカトラリーの持ち手を取りつけて。古いイギリスのめん棒は、吊るしてふきん掛けに。
庭で摘んだビワの葉で、うがい薬を
「ビワの葉をきれいに洗って乾かし、ハサミで切ってびんに入れ、焼酎をひたひたに注ぎ、漬けておきます」すり傷などの手当てにも使えるそう。
秦泉寺さんの「台所の相棒」
老舗で誂えた草履
「料理と向き合うときは足元をちゃんとする」と、台所では草履を愛用。若いころに誂えたという「祇園ない藤」の草履がお気に入り。
和食を改めて勉強中
「京ぎをん浜作」の料理教室に6年通い、さまざまな刺激を受けているそう。漆器のコレクションも多く、日常に取り入れている。
再利用できる木箱
海外旅行でよく持ち帰るワインの木箱は、小物入れに。「見た目がかっこいい。ここにスパイスのびんをストックしたら素敵よね」
〈撮影/伊藤 信 取材・文/山形恭子 イラスト/ホリベクミコ〉
秦泉寺由子(じんぜんじ・よしこ)
大学卒業後、北米で12年間過ごす。キルトに魅せられ、バリ島で工房「グラスハウス」を設立、染料探求や作品制作に打ち込む。2010年、滋賀県比叡平に「キッチンハウス」を建てる。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです