• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。生きづらい人にとっての猫との生活とは。

    猫がいれば生きやすくなる?という質問について

    私が、生きづらく、心の病の真っただ中にいたとき、病気の猫との出会いから「生きる希望」を手にしたというお話をよくさせていただきます。

    すると、同じように生きづらい方から、問われることがあります。

    「自分も猫を飼えば、生きやすくなれるでしょうか?」

    実は、これはとてもお返事に困る質問です。

    たしかに、猫は無償の愛をくれます。私たちを信じ、あまえ、温もりを与え、生きづらい人生に命の光を灯してくれるのです。

    一方で、猫はひとりでは何もできません。お世話が必要です。

    ごはんもあげなければ死んでしまいますし、トイレも毎日変えなければなりません。他にも遊んでストレス発散させてあげなければいけませんし、体の不調に気づくため、定期的にチェックすることも必要でしょう。

    画像: 猫がいれば生きやすくなる?という質問について

    鬱状態になると起き上がれない。そんなとき猫の世話は家族の担当に

    私は、双極性障害(俗にいう躁うつ病)を抱えていて、ときどき、重いうつ状態になってしまいます。

    すると、まず食べ物を全く受け付けなくなってしまい、やがて寝たきりになります。お風呂なんてとても入れません。お手洗いに行くのもやっと。

    そんな中で、「猫のお世話」となると、どれだけ気持ちが「やりたい」「やらなければ」と思っても、起き上がることさえできず、体が追いつかないのです。

    我が家には幸いなことに猫好きの夫がいます。

    普段は、猫のお世話は分担してやっていますが、私が鬱で倒れたときは夫がそのすべてを引き受けてくれて、猫たちは快適に過ごすことができます。

    画像: 鬱状態になると起き上がれない。そんなとき猫の世話は家族の担当に

    猫は生きる希望です。

    ですが、おそらく私がもし一人暮らしなら、猫との生活は選べないと思うのです。

    そう気をつけていても、猫と暮らし始めたのちに心の病を患ってしまう人もいるでしょう。

    自己責任の時代だけれど、互いに支え合う社会が必要

    そんなときにお願いしたいことは、ひとつ。

    どうか、周りの方々がサポートして、その人に対しても、猫に対しても、生きやすい空間を与えてほしいのです。

    今の時代、自己責任を突きつけられる現実をよく目にします。

    ですが、たとえば、人間の赤ちゃんがいて、お母さん(お父さん)が仮にシングルだったとき、その方が体調を崩したらサポートできる世界であればと私は願います。

    そのとき、当然サポートするのは、その方に対してだけではありません。赤ちゃんにもミルクを与え、おしめを変えて、親御さんの代わりに安心を与えてあげることができればと思うのです。

    猫も同じ。

    生きづらさを抱える人は、どれだけ猫が好きでも、猫に癒されたいと思っても、ときとして心の調子を崩し、猫のお世話ができないことがあります。

    そのことを考えずに、命を引き受けることはしてはいけないと思うとともに、それでも猫を迎えたいとき、助けてくれる人たちをしっかりと見つけておいてほしい、と思います。

    何もかもをひとりきりで背負うこと。それはますますの生きづらさを呼びます。

    みんなで支え合って、人と猫、誰もがしあわせになれますように。

    画像1: 自己責任の時代だけれど、互いに支え合う社会が必要

    画像2: 自己責任の時代だけれど、互いに支え合う社会が必要

    咲セリ(さき・せり)

    1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。

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