(『天然生活』2023年6月号掲載)
愛猫の死を機に変わった、「猫の生」への意識
「しおり」と「てんち」という本にちなんだ2匹の保護猫と暮らす深緑野分さん。
しっかり者のしおりに起こされ1日が始まり、エネルギーの塊のような子猫てんちの“育児”に励む日々を送っています。
しおり
10歳のメス。賢くて責任感の強い学級委員タイプ。「寝る時間に私がまだ仕事をしているとお説教しにきます」。てんちの無邪気さに翻弄されながら、しつけにも奮闘中。
てんち
生後6カ月のメス。多頭飼育崩壊の現場で保護され、深緑家へ。天真爛漫な末っ子気質だが、少し内弁慶でもある。マンガキャラ「ドラルク」のぬいぐるみがお友達。
リビングや仕事場など家のあちこちに飾られているのは、てんちと同じ白黒のハチワレ猫「こぐち」の写真です。
子猫のとき姉妹のしおりと一緒に深緑さんの家にやってきたこぐちは、2年前に進行性のがんで天国へ。
病院で診てもらったときは、すでに末期でした。
「なんで気づいてあげられなかったのかと後悔しかなかった」と深緑さん。
猫の生は自分が握っているとそれまで以上に強く意識し、猫たちの様子を毎日つぶさに見るようになったといいます。
「今日もちゃんと健康か、ちゃんと幸せそうか、日々見つめるというんですかね。いまの私の目標は、しおりとてんちがヨボヨボのおばあちゃんになるまで一緒にいて、天寿をまっとうさせること。目標というか課題ですね」
● 深緑さんの「猫ファースト」な暮らし
毎日のルーティンが健康チェックの基準に
行動や顔つき、食欲、水を飲む量など、猫の状態を毎日しっかり観察することで体調をチェックする。
「具合が悪いときは、ごはんを食べない、起きてこない、いつもしているルーティンをしなくなるなど必ず変化があります。猫は不調を隠そうとするので、ささいな異変も見逃さないように気をつけて見ています」
猫にとって危険な場所は、つくらない、入らせない
台所や書庫など、事故につながりかねない場所には入れないようにし、誤飲しそうなものは引き出しにしまうか隠して対策。
「『入らないで』や『ダメ』としかっても猫のストレスになるだけ。物理的にできないようにする方が確実です。しおりはすきあらば書庫のドアを開けて入ろうとするので、ドアノブをバッグで固定しています」
猫とのコミュニケーションの秘訣は“おしゃべり”
深緑家の猫たちには共通点があります。こぐちも含めてみんなおしゃべりなのです。
「私がいつも話しかけたり歌ったりしているからかも。新入りのてんちの歌もつくりました」と笑う深緑さん。
お母さんのご機嫌な声にこたえて娘たちは愛情や要求をあれこれ伝え、密なコミュニケーションが生まれているようです。
「猫って、クールに見えてちょっとまぬけだったり、マイペースなのにさびしがり屋だったり。共感できるところが多い、私にとって特別な生きものなんです。だから意思疎通ができたり、この子たちが満足そうにしているところを見ると、少しだけ自己肯定感が上がる。それが、私の救いにもなっています」
* * *
深緑さん流 猫と心地よく暮らすための3カ条
1 コミュニケーションをとる
意思疎通ができるようになるまで毎日話しかける。「しおりに『おやすみ』というと寝る場所に移動してくれるし、彼女がいいたいこともだいたいわかります。てんちとは少しずつ、です」
2 命を預かっている自覚をもつ
「猫がどう生きてどう死ぬかは私次第」と深緑さん。「家族というか群れのリーダーとしての自覚をもたなければと。2匹が健康でいてくれることが私の幸せでもありますから」
3 異変を感じたらすぐ病院へ行く
猫の様子が少しでもおかしいと思ったら、獣医に診てもらうことを徹底。「すぐに病院に連れていけるように車の免許を取りました。信頼できる先生も見つけたので安心感があります」
〈撮影/深緑野分 取材・文/熊坂麻美〉
深緑野分(ふかみどり・のわき)
神奈川県生まれ。小説家。『オーブランの少女』(東京創元社)でデビュー。直木賞にもノミネートされた『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)、『スタッフロール』(文藝春秋)など多くの話題作を執筆。最新刊に『カミサマはそういない』(集英社)。
しおり
10歳のメス。賢くて責任感の強い学級委員タイプ。「寝る時間に私がまだ仕事をしているとお説教しにきます」。てんちの無邪気さに翻弄されながら、しつけにも奮闘中。
てんち
生後6カ月のメス。多頭飼育崩壊の現場で保護され、深緑家へ。天真爛漫な末っ子気質だが、少し内弁慶でもある。マンガキャラ「ドラルク」のぬいぐるみがお友達。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです