高齢猫と最期の伴走を決意する
今、19歳の猫「トト」が、フィナーレの時間を過ごしています。
トトは3年前にお知り合いのお家から里子に来た猫。その方は、出先で突然吐血して倒れ意識不明の重体になってしまいました。幸いなんとか意識を取り戻したのですが、動くこともままならずご実家に帰ることに。トトの今後を少しでもしあわせなものにしたいとのお気持ちから、我が家に託してくださりました。
トトが食べることができなくなったのは5日前。最初は混乱し、涙が止まらない私と夫でしたが、母も同じような状態で猫を看取った経験があり、話をしていくと、「食べられなくなってからも、1週間以上、生きてくれたよ」とのこと。
それを聞いて、私も夫も救われると同時に、心を決めました。
「長期戦になってくれる可能性もある。短距離走だと思って、今、全ての力を使わないようにしよう。何か月でもフィナーレを伴走できる体と心を持っていよう」
そこからは、心が固まりました。
片時もそばを離れずに「もうお風呂にも入らない!」くらいの気持ちでいましたが、交代でちゃんとお風呂に入る。夜も片方はベッドで寝て、片方だけトトについている。無理な食事はさせないけれど、毎日、何か少しでも好きそうなものを、目の前に持っていってみる。
すると、もう何も食べられないと思っていたトトが、昔好きだったシュークリームを舐めてくれたり、焼き魚に興味を示したり、お刺身より逆に毎日食べていたウェットフードのにおいに反応したり……。日々、本当に小さな「嬉しい」がありました。
前のお父さん(飼い主さん)にも、トトが何か食べた時、お水を飲んだ時、ただ気持ちよさそうに眠る喉のゴロゴロ……。そんな日々を動画に撮って送ります。そのたび、一緒になって応援してくださって、トトは、今、夫と前のお父さん、ふたりのお父さんに見守られています。
ブログに寄せられる、たくさんの応援のことば
また、ブログでは、いろんな方が自分たちの家でのフィナーレを書いてくださりました。
「強制給餌(これ、名前が変わればなあとちょっと思います……)」という、シリンジで猫ちゃんのお口にペースト状のごはんをモグモグしてもらう方法。その方は、それで半年長く生きてくれたそうです。
逆に、自然を尊重し、少しずつ、いらないものを手放して軽くなっていく猫ちゃんに寄り添ったという方。
クリームやプリン、チキンやマグロを茹でた汁、甘海老を叩いたもの、コーヒークリームなど、好きなものをあげて、うまうまな毎日を楽しむ猫ちゃん。
それぞれに、愛情をこめた時間を過ごされたようです。
どれが正しいか、は、私はないと思います。
どれも、その猫ちゃんとずっと暮らしていたからこそ、たどり着いた答え。
きっと、猫ちゃんも嬉しいでしょうし、その時間をともにすることで、ご家族も、猫ちゃんの姿が見えなくなる日までの心の準備ができるのだと思います。
今日、ふいに猫トイレのある和室に行くと、べちゃっと水たまりを踏みました。なんと、トトのおしっこ。最近は、寝ている場所で垂れ流してしまうことが多かったのですが、トイレの近くまで自分で行けたのです。
「すごいね! すごいよ、トト!」と、夫と踊り出しそうな気持ちで片づけます。
看取りの時間は不安やかなしさもあるけれど……、普段は気づけないしあわせを教えてくれる「宝物時間」なのですね。
咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」