• 思春期娘と母。受験を控え塾に通う娘と母の間には、バトル勃発がごく日常。でもおいしい食事の時間があれば、心のしこりはほぐれていきます。料理家・文筆家の馬田草織さんによる、母娘のリアルな日々のエッセイとレシピ集『塾前じゃないごはん』(株式会社オレンジページ)より、親子旅についてのちょっぴりせつないコラムを紹介します。

    気がつけば、塩対応です子どもらは。親子旅は、行けるうちにね

    「親子旅」の究極の目的とは?

    親子旅のよさってなんだろう。気持ちのいい場所でおいしいものを楽しんだり、初めてのことに挑戦したり。仮にそれらが旅の目的だったとして、旅だとその体験がいつもよりも際立つのはなぜだろう。

    思うにそれは、親子がいつもと違う環境や、違う時間の流れのなかで過ごせるから、なのでは。親も子もふだんの生活から離れるだけで、ものの感じ方はきっと変わってくる。

    旅と日常が具体的にどう違うのか。なによりまず、親は3食の準備をしなくていい。これは大きい。朝は宿、昼は外、夜は外か宿と常に自分ではないだれかが食事を用意してくれる。

    その間は、メニュー決めも買い出しも準備も片づけもしなくていい。夜も食べたら片づけずにそのまま寝ていい。しかもベッドはふかふか、ふとんもふっくら。朝は脱いだパジャマの洗濯もしなくていいなんて、まるで最高を絵に描いたような状況だ。

    そんな感じで生活と離れられるから、旅の間は自分に余裕ができる。車窓を流れる景色をぼーっと眺めていられるのも、子どもの遊んでいる様子をやさしく見守ったりできるのも、余裕があるからこそ。

    子どもの話をゆっくり聞いたり、あるいは親子で胸の内を交換したりして新たな気持ちにもなれる。ちょっとふざけてみたり、昔のことを思い出したり、そんな合理的じゃないことを心から楽しむことができる。それもこれも、余裕があるからこそ。

    考えてみると私たちはふだんの生活のなかで、いつも無意識のうちにスケジュールをこなしているようなものなのだ。常に何かに間に合うように起きてごはんを作り、部屋を片づけ、仕事をして、出かけて、買い物をして、帰ってきて、ごはんを作り、お風呂を入れて、寝かせて、寝てを繰り返している。

    合理的じゃない時間がほぼ持てないのだ。だから旅に出ると、やることなすことノーリミットの心地よさを、つかの間思い出すことができる。

    ああ、生きるって案外自由だったんだ、と思えたりするのだ。そして旅の究極の目的は、そういった非日常で自分の生活の枠をはずし、考え方をラフな状態にすることにあると思う。

    画像: 「親子旅」の究極の目的とは?

    親子の時間は短い。旅は行けるうちに!

    ここで、まだティーン未満の小さなお子さんを育てているお忙しいみなさんにはぜひお伝えしておきたい。

    子どもが無条件に親といることを喜んでくれる奇跡のような時期はじつは期間限定であり、ある日突然終わりを迎えます。

    いまは24時間ひっつき虫のように離れないあなたのお子さんも、です。 にわかには信じられないですよね。

    でも、事実です。そして、想像もしなかったような親拒否モードが突如発動します。いつから発動するかは子どもの個性によりますが、わが家の場合は小6の春ぐらいからだった気がする。ああ、無情。

    わが家の場合、まず週末のお出かけに興味を持たなくなり、どこかへ誘うと「お母さん行ってくれば、私はいい」と、決まったフレーズでチャットAI ばりに即答するようになった。

    最初は何が起きたのかわからず、それが思春期の顕著な行動パターンだとピンとくるのにしばし時間がかかった。

    つまりは自我の目覚めであり、自分の世界の構築が始まったということだから、本来は喜ぶべき成長過程の寿案件なのだが、それまでどこにでもくっついてきていた子どもがいきなり離れるものだから、結構ショックだった。

    なかなかあきらめがつかず、しばらくは、まるでくっつかなくなった付箋を何度もノートに貼りつけようとするみたいに、買い物やお出かけ前に声をかけては娘を誘っていた。

    そのうちわが家の付箋娘はどんどん自分のスケジュールを組むようになり、自分の世界を作り、いまや一冊の独立したメモとして、完全に母親のノートを飛び出している

    そうか、子育てって案外せつないものなんだ。ホルモン大航海時代の復路まっただ中の私は、ときおりそんなことをかみしめている。

    ということで、大事なことなので繰り返します。

    親子旅は、行けるうちにぜひ積極的に行っちゃってください。そして、将来子どもの塩対応にしびれるようになるであろう自分のために、よき思い出をたっぷり作っておいてください。

    繰り返しますが、子どもはいずれ、旅はおろか近所の買い物すら、いっしょになんて行かなくなります。

    子どもが親を慕ってくれる奇跡の時期は限られているので、その間は仕事も家事も暮らせる程度に適当にして、ていねいな暮らしなんてしなくていいので、なにより親子の時間を堪能することを優先させてください。

    この奇跡のシーズンは、暗黒の0歳児育児をくぐり抜けた人に与えられる、期間限定のごほうび特典。だからみんな堂々と有休を取りまくって、おまけの季節を味わい尽くすべし。以上(そして涙)。

    画像: ポルトガル第二の都市ポルトを歩く娘。当時9歳

    ポルトガル第二の都市ポルトを歩く娘。当時9歳

    馬田家の“料理しない日”の頼れるごはん

    料理無気力につき、今夜はだれかの何かに頼ります。そんな日も、おいしいものが食べたいことには変わりはなし。ふだん馬田さんが頼りにしている味の一端をご紹介。

    黄金オリーブチキン&フライドポテト

    画像1: 馬田家の“料理しない日”の頼れるごはん

    キッチンに絶対立ちたくないわー、というときの救世主。韓国ドラマでよく見る、あのピリ辛フライドチキンと山盛りフライドポテトをテイクアウトします。

    買ってきたらもう一度魚焼きグリルに並べ、表面をカリッカリにさせて食べるのがわが家のデフォルト。

    bb.q オリーブチキンカフェ

    本記事は『塾前じゃないごはん』(株式会社オレンジページ)からの抜粋です

    〈イラスト/はるな檸檬〉

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    『塾前じゃないごはん』(株式会社オレンジページ)

    『塾前じゃないごはん』(株式会社オレンジページ)|馬田草織

    『塾前じゃないごはん』(株式会社オレンジページ)|amazon.co.jp

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    母娘のリアルな日常と、心をほぐすレシピ集

    受験を控え塾に通う思春期娘と母は、仲良く話していたと思ったら次の瞬間突然バトル勃発がごく日常。文筆家・料理家の馬田草織さんが、親子のリアルな日常と想いを「塾前ごはん/塾前じゃないごはん」のレシピとともに綴る一冊です。


    画像2: 馬田家の“料理しない日”の頼れるごはん

    馬田草織(ばだ・さおり)
    文筆家・編集者・ポルトガル料理研究家。出版社で雑誌編集を経て独立。ポルトガルの食や文化に魅了され、現地の家庭からレストラン、ワイナリーなど幅広く取材している。ポルトガル料理とワインを楽しむ教室「ポルトガル食堂」を主宰。著書に『ムイト・ボン!ポルトガルを食べる旅』(産業編集センター)、『ホルモン大航海時代』(TAC出版)などがある。一児の母。



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