(『天然生活』2022年11月号掲載)
時を重ねたからこそ、深く染み入る言葉たち
高校生で土をあつかう喜びに目覚め、20代から陶芸家の道を歩んできた島るり子さん。
「ひとつ、ひとつ、ひとつずつ」とは24歳のとき、自らの手で登り窯をつくった際に実感した言葉だといいます。
「登り窯づくりは私にとって、焼き物で生きていく決意の表れでもありました。用意した材料はレンガだけで数千個。最初は終わりなんて見えなかったけれど、ひとつずつ積み上げていったらとてもよく焼ける窯に仕上がってくれて。そのときから、どんなに途方もなく思えることも、ひとつずつ進めればいつか実現できると信じられるようになった気がするんです」
その後、子育てのため作陶を中断した時期を経て、再び土に向かい今年で20年。その道の途中では、愛息を亡くすというたとえようもない悲しみも経験しました。
「いまでも、一日のどこかで涙を流す時間があります。でもね、いろんな出来事を経て『いまを生きる』という言葉の大切さがわかるんです。昨日までの自分が丸ごと、いまの自分。未来はわからないから、仕事も出会いもいまを精一杯尽くすことが私の幸せです」
ひとつ、ひとつ、ひとつずつ。
いまを生きる。〈ともに、自身の経験から〉
〈撮影/佐々木健太 文/玉木美企子〉
▼本記事はこちらのムックにも掲載されています
第1章 これからの「おいしい生活」のつくり方
料理家・大庭英子さんには、いまの自分にちょうどいい、レシピ6品と台所仕事の工夫を、スタイリストのchizuさんには、気負わず楽しむ、テーブルコーディネートのコツを教えていただきました。
第2章 おしゃれは心のビタミン!
中野翠さんのエッセイと、ぬ衣さん、山下りかさんの春夏秋冬のコーディネートを紹介します。
第3章 豊かな人生のための幸せの支度
山本ふみこさん、ユキ・パリスさん、中島デコさん、松場登美さん、横尾光子さん、坂井より子さんの暮らしの流儀を紹介します。
第4章 心身とお金を整えるために
家で簡単にできる体操や、節約のこと。
第5章 人生の豊かな「しまい方」
石黒智子さんがはじめた終活と、井上由季子さんが経験した家族の介護について、お話を伺いました。
* * *
島るり子(しま・るりこ)
陶芸家。新潟県柏崎市生まれ。京都・丹波にて陶芸修業をし、24歳で登り窯を築く。出産を機に活動を中断。1992年長野県にて穴窯を築き、10年後に作陶を再開。著書に『島るり子のおいしい器』(扶桑社)など。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです