(『天然生活』2023年10月号掲載)
敷地内にある納屋で静かに紡ぐ、夜時間
母屋と畑の間に建つ10帖ほどの小さな納屋。60年ほど前、横山頼子さんの夫の父が建てたものです。
当時は農具を収納するほか、食品の貯蔵にも使われ、一時期は親戚のおじさんが住んでいたこともあったそう。古いけれど、実に趣のある建物です。
「17年前、義母が亡くなってここに越してきました。義実家は兼業農家を営んでいて、私にとっては初めてのことばかり。義父には畑仕事の全般を、近所の人には料理や季節の手仕事を教わりました」
子育てと畑仕事を手伝う間も、ずっとこの納屋が気になっていたという横山さん。
「どこかひかれるところがあったんですね。このままほこりまみれにしてしまってはもったいないと考え、手を加えて人が集まれる場所にできないかと思い切って提案しました。義父も若い人が来てくれるのはうれしいと言ってくれ、夫の賛同も得てリノベーションすることに」
かくして納屋は「78nanahachi」に生まれ変わり、現在はワークショップやギャラリーに活用されています。そして、横山さんの仕事の拠点も、この納屋。
日中はもちろん、夜も何かしらこの納屋で手を動かすことが多いのだとか。季節の移り変わりにゆったり並走するように横山さんの手仕事もめぐっていきます。
「翌日に行うワークショップの下準備をすることが多いのですが、これからの季節は、干し柿をつくったり、豆を煮たり……」
また、横山さんが大事にしているのは夜のアウトプットとインプットの時間。
「備忘録的に残すのはもっぱらインスタグラムですが、手帳に書きものをすることも。今後のワークショップのことなどとりとめのない事柄が多いですが、手を動かして書くことで頭の中が整理されていく感覚があり心も落ち着きます」
一方、インプットは好きなアーティストの音楽を聴いたり映像を見たりする、いわゆる「推し活」。夜仕事をする際のBGMだそう。
「若い方の考え方や表現から学ぶことも多く、いい刺激になっています。よし、明日もがんばるぞ! と元気をもらって健やかに眠りにつくことができるんです」
ストーブで豆を煮る
秋から冬にかけてストーブを活用して豆を煮るのが横山さんの夜仕事。
「あんこが好きなので小豆はよく煮ています。薄いおせんべいにあんこをはさんで食べるのがマイブームです。それから、味噌仕込みのための大豆もこの納屋でコトコト時間をかけて煮ています」
ダーニングで繕う
「78nanahachi」のワークショップでダーニングを習って以来、靴下のほころびなどはダーニングで繕っている。
「はじめは難しかったのですが自分なりにだんだん上手になってきたのがうれしくて。ほころびが直るうえに、ワンポイントにもなって愛着もわきますね」
草木染めの下準備をする
横山さんのライフワークのひとつが草木染めや藍染め。庭や畑で育てた植物を用いて、自然な染めを楽しんでいる。
「これはびわの葉。びわの葉というと硬く濃い色ですが、染めるとこんなふうにやさしいピンク色になります。葉をゆでこぼすのは夜の仕事です」
手帳を書いて頭を整理する
長年、使っているお気に入りの手帳のフリーのページに、思いついたことを書くのが横山さんのリラックス時間。
「CITTAの手帳を使っているのですが、ページの頭のところにやりたいことを書ける“ワクワクLIST”があって、なんだか、かわいらしいんです」
旬の野菜で漬物をつくる
「畑でたくさんの野菜が採れるので常備菜や漬物は毎日つくっています。夏野菜の名残を使ってピクルスや甘辛漬け、麹漬けにすることが多いですね」
冷蔵庫にお漬物があると、朝ごはんにも困らないのだとか。
「お漬物に炊きたてごはんとお味噌汁があれば満足です」
夜のコツコツ時間のお供
ポータブルテレビ
母屋と納屋を行き来するため持ち運べて便利。
アーティスト「藤井風」さん関連の映像を見るのが横山さんの活力の素。
<撮影/山田耕司 構成・文/結城 歩>
横山頼子(よこやま・よりこ)
埼玉県ふじみ野市で納屋をリノベーションしてワークショップやイベントを行う。不定期で「畑あそびの日」で畑や納屋を開放しているほか、年に二度「実り市」も開催。自宅の畑の貸し農園もある(現在は空き区画なし)。オープンデーの詳細はホームページを。http://78nanahachi.com
インスタグラム@78_nanahachi
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです