(『天然生活』2023年10月号掲載)
今日という日に感謝を伝え、明日のため手を動かす
1歳半になる息子を寝かしつけると、仁平さんの夜時間が静かに動き始めます。まずは台所の壁にかけてある長ほうきを手にし、台所の掃き掃除を開始。そのまま食卓まわりまでぐるりと掃き上げ、掃き出し窓から屋外へサッと払えば完了です。
「ただ掃き掃除をするというよりは、今日、無事に一日を過ごせたことに感謝を伝え、疲れや汚れを祓い落とすようなイメージで行っています。この掃き掃除をすることで一日のひと区切りがつき、明日また気持ちよく一日のスタートをきれる気がします」
栃木県益子町で家具店やギャラリーを営む夫と1歳半の息子と暮らしている仁平里帆さん。里山の恵みを暮らしに生かし、できるだけ手を動かすことを信条としています。
前出の掃除もしかり、器を乾かしたり、翌日の料理の下ごしらえをしたり、ひとつひとつはとるに足らない家事の延長だけれど、自分にとっては深く意味のあることだと話します。
「いまは息子が小さいため、日中、思うように家事が進まないこともあるのですが、そんなとき、夜のこの家事貯金が助けてくれます。子どもが深く寝ている時間だけは自分のペースでできるので、家事をしながらですが、同時に安らげる時間でもあって。とはいっても、くたびれて子どもと一緒に早々に寝てしまうこともあるんですけれどね」とやさしく微笑む仁平さん。
家事のほかにも、夫と顔を突き合わせ、お茶を飲みながらゆっくり話をしたり、自作のよもぎオイルで自身の体をマッサージしたりすることもあるそう。
「好きな音楽をかけて、香を焚きながら家のことをしたりリラックスした時間を過ごせたりすることに幸せを感じています。こんなふうに夜の時間が貴重でありがたいと感じるのも息子が生まれてきてくれたから。以前は自分のさじ加減ですべてできていましたからね。ありがたいことです」
静かで豊かな夜時間を過ごすことができるのも、昼の時間があるからこそ。そんな当たり前のことに気づかせてくれる言葉は、小さな事柄にも常に感謝の気持ちを忘れない仁平さんならではなのです。
掃き掃除をして香で清める
ほうきは長野県の「米澤ほうき工房」のものを愛用している。
「掃除機も持っているのですが、ほうきのほうが手軽なことと、音を気にしなくてよいのでよく使っています」
柄の短い小さなサイズも並んでいて、日中は息子と一緒に掃き掃除をしているのだとか。
変わり麹を仕込む
「最近、ひと味変わった塩麹に凝っているんです」といって見せてくれたのは、にんにく麹と玉ねぎ麹。
それぞれ、みじん切りにしたにんにくと玉ねぎがたっぷり入っていて、塩麹よりさらに味わい深く、料理の幅がぐんと広がるのだとか。
翌日の料理の下ごしらえをする
1歳半になる息子の「天音(あまね)くん」も一緒に食べられるようにやわらかく煮た野菜が重宝するそう。
「野菜の重ね蒸しをつくって、お味噌汁にしたりあえものや玉子炒めにしたり。その下ごしらえは前日の夜に。きざんでおけばすぐに火にかけられます」
よもぎオイルをつくる
よもぎの葉とどくだみの花と葉を合わせ、低温の太白ごま油でじっくり煮出した自家製のオイル。虫刺されや切り傷に塗るほか、全身のマッサージに使用。
「オイルを手になじませて温め、腕や脚を軽くなでるだけで疲労感が取れて、体がふっと軽くなります」
器を自然乾燥させる
夕飯で使った器類を洗うのは夫の担当。
「ふいて片づけるのは私の担当ですが、すぐに食器棚にしまわず、ひと晩、自然乾燥させることが多いです」
作業台に1枚ずつ、ずらして重ねるのが毎晩のルーティンになっている。石を上手に活用しているのが印象的。
夜のコツコツ時間のお供
お気に入りの音楽とお香
友人でもあるアーティスト「いろのみ」の『Four Nocturnes(4つの夜想曲)』とホワイトセージのお香。
<撮影/山田耕司 構成・文/結城 歩>
仁平里帆(にへい・りほ)
栃木県益子町で夫、息子の3人で暮らす。里山の恵みを生かし、日本の昔ながらの生活からヒントを得た暮らしぶりをインスタグラム(@_______aun)で発信。美しい写真と言葉で綴っている。夫の仁平透さんは益子町と隣の真岡市にある「仁平古家具店」の店主。倉庫を改装した器や雑貨、家具を扱う「pejite(ペジテ)」も営む。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです