• 片づけの理論やテクニックを頭では理解しても実践できるかは、また別の話だったりします。だれでも簡単に、気分よく整理できる方法を探し東京の下町で生活道具の卸問屋や雑貨店を営む松野きぬ子さんのお宅へ伺ってみると......。丈夫で気取らない「荒物」が家のあちこちで働き、片づけを支えていました。
    (『天然生活』2022年3月号掲載)

    昔ながらの道具を使った、見せる整理術

    丈夫で使いやすい日用品がそろう「暮らしの道具 松野屋」を、夫の弘さんと切り盛りしている松野きぬ子さん。店で扱う品物は自分たちで使い勝手を確かめ、その多くを自宅で愛用しています。

    画像: さまざまな生活道具が並ぶ自宅。ものは多くとも生活のぬくもりに満ちている。松野さんが着ているのは、余った毛糸で手編みした「0円セーター」

    さまざまな生活道具が並ぶ自宅。ものは多くとも生活のぬくもりに満ちている。松野さんが着ているのは、余った毛糸で手編みした「0円セーター」

    「うちはただでさえものが多いのに、『一回では捨てない』教えが根づいているから、なかなか減らせないのが悩みです。しかも私は整理整頓が苦手。片づけはほとんど道具まかせですよ」

    そう松野さんがいうように、収納の軸になるのは、嫁入り道具でもある大好きな「鳥取民芸木工」の食器棚とたんす。そして、かごやトタン板のボックスなどの荒物と呼ばれる手仕事の道具たちです。

    画像: カシミヤの原毛を紡いで。趣味に打ち込むひとときが大事な息抜き

    カシミヤの原毛を紡いで。趣味に打ち込むひとときが大事な息抜き

    画像: 夫婦のかごは階段を置き場所に。中央の小ぶりなくるみのかごが松野さんのお気に入り

    夫婦のかごは階段を置き場所に。中央の小ぶりなくるみのかごが松野さんのお気に入り

    「基本的なことですが、使った食器と洋服は元の場所にしまう。食器棚とたんすに収まらないものはかごや箱に入れる。やっているのはそれだけ(笑)。でも荒物は、ザックリとものを入れてそのまま置いても雰囲気がいい。プラスチックのものだとそうはいかないから、そこに助けられています」

    一方で、手仕事の道具はけっして万能ではないともいいます。たとえば、かごは押し入れや戸棚にしまったままにするとカビが生えることがあり、通気はかかせません。

    経年でちょっとした破損が生じれば、修繕が必要なことも。

    画像: 庭の草木や弘さんが育てる花が家の各所を彩る。花入れにしたのは熱燗用のタンポ。「雑草でも飾ると見違えますね。花が映えるように、周りを片づける気にもなります」

    庭の草木や弘さんが育てる花が家の各所を彩る。花入れにしたのは熱燗用のタンポ。「雑草でも飾ると見違えますね。花が映えるように、周りを片づける気にもなります」

    「たしかに手はかかりますが、そうやって味わいが育った道具には愛着が深まります。私にとっては、整理整頓の道筋を考えるより、自分の好きな道具に収めて簡単に片づけるほうが性に合っている。暮らしは毎日のこと。無理なく続けられるやり方を選びたいですよね」

    画像: 義母の冨久子さんに習った雑巾。古い手拭いなどを手縫いする。まずは台拭きに、汚れてきたら床拭き、トイレ掃除で使い切る

    義母の冨久子さんに習った雑巾。古い手拭いなどを手縫いする。まずは台拭きに、汚れてきたら床拭き、トイレ掃除で使い切る

    松野さんは、京都で牛乳屋と喫茶店を営む家に生まれ育ちました。実家にいたころは家業が忙しく、“ていねい”とは真逆の生活だったのだそう。

    松野家に嫁ぎ、季節の行事の準備から、ものを最後まで生かして始末よく暮らす知恵まで、多くをお義母さまに習いました。

    「100%でなくて、いいんです。少しでも使い捨てを減らし、長く使える道具や土に還る自然素材の好きな道具を選んでみる。そんな意識をもつと暮らしに潤いが生まれます。そしてそれが、環境を守る一歩にも結び付く。そうやって暮らしていけたらと思っています」

    昔ながらの道具を取り入れた片づけが、暮らしのあり方を見つめ直すきっかけになるかもしれません。自分に必要と思う荒物をひとつ、ふたつ、見繕ってみませんか。



    <撮影/大沼ショージ 取材・文/熊坂麻美>

    松野きぬ子(まつの・きぬこ)
    京都に生まれ、結婚を機に上京。1945年に東京・馬喰町で創業した卸問屋と、小売店「谷中松野屋」を営む。趣味で編み物、縫い物、織物などを手がけ、作家活動もしている。四季折々の暮らしの風景を綴った『松野家の荒物生活』(小学館)が発売中。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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