(『天然生活』2021年1月号掲載)
いつでも使えるように、好きな器や道具をそばに
「子どものころから“お茶碗はこれじゃないとイヤ”というのがあって。高校生のときには自分の食器棚をつくっていました。いいなと思うものは使ってみたい。格好よくても水がもれるということもありますから。質感、重み、片口のキレのよさ……使って確かめたくて、ものが増える一方なんです」
器と道具の店「木と根」を夫と営み、2020年からギャラリーも始めて、多忙な林七緒美さん。
道具を使うことが好きで、一番の息抜き。整理整頓は苦手な性分で、よく使うもの、たまに使うものにざっと仕分けています。
水屋箪笥(みずやだんす)には出番の多い器がみっしりと。ここから選ぶのが楽しみです。
「普段は手の込んだ料理はなかなかできなくて簡単に焼くだけ煮るだけ、でき合いのお惣菜という日もありますが、好きな器に盛るとおいしそうで心が躍ります」
家族の時間もひとりのときも、好きなもので場を整えて
中国茶や裁縫の道具はかごにひとまとめにしておいて、さっと始められるように。夜、家族が寝静まってからひとりで楽しみます。
「気づいたら午前3時ということもありますが、朝が得意な夫に中学生の息子を送り出してもらい、私は9時ごろから動き出します。併設の喫茶室でかき氷を出す夏は夫が店に出て、私は家でシロップの仕込みや商品発注を。夫はスキーが好きなので、冬場は主に私が店番。夕食の支度はその日、お店に出ていない方がやりますね」
お互いの得意なことを尊重して、役割分担。夫婦それぞれ好きな時間もつくりながら、無理のないリズムで日々過ごしています。
「古布を使って小物をよくつくるんですが、きっちりきれいに縫うと面白味がない。昔の人が日常のなかで何気なく縫ったものは美より用、美しいなと思います」
好きな道具をいつもそばに置き、時間をつくっては手を動かして。
“用”から生まれる美しさが、暮らしを心地よく整えていきます。
林さんの「心の整え方」
読みかけの本をそばに
リビングの片隅に読みたい本を積んでおき、時間ができたら手に取れるように。牧野伊三夫のエッセイ『かぼちゃを塩で煮る』など、繰り返し読む本も多いそう。
「冬になると向田邦子の本が読みたくなりますね。映画も好きで、学生時代みたいに休日に3、4本続けてDVDを観ることも」
金工で無心になる
美術大学でデザインを専攻し、ものづくりが好きな林さん。銅や真鍮など、金属を加工する金工を自宅で楽しんでいます。
茶托や茶匙など、中国茶の道具も制作。
「織り物も経験しましたが、金工は自分の手でみるみるうちに形になっていくのが面白くて。無心になれるのがいいですね」
〈撮影/伊藤 信 取材・文/宮下亜紀〉
林 七緒美(はやし・なおみ)
京都「木と根」店主。2020年に分室「gallery LAKEWALL」をオープン。著書『ひとり時、円居時』(KADOKAWA)では器の楽しみを紹介。木と根 kitone
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです