(『天然生活』2021年12月号掲載)
三春の暮らしが教えてくれた冬じたくの豊かさ
「三春に暮らすようになってから、いただきものがうんと増えたんです。とくに多いのが、冬の前。私にとっての冬じたくは、保存食づくりがメインかもしれません」
福島県のちょうど真ん中あたり、田村郡三春町に長谷川ちえさんが移り住んだのは、2016年のこと。2年間の団地住まいを経て同じ町内の平家に暮らすようになり、これで5度目の冬になります。
渋柿にゆず、どんと大きな白菜に大根などなど、季節の恵みはふいに到来するもの。仕事も含め、なにかとあわただしいこの時季ですが、「いつかこれが特別ではなく、当たり前のこととして楽しめるようになりたくて」、今年もせっせと手を動かします。
もちろん、こうして毎年取り組めるのは、でき上がった保存食がおいしいからこそ。静岡や長野などの山間部を中心につくられてきた保存食「ゆべし」も、3年前にはじめてつくった際、「手前味噌ながら、おいしくて感激」したのだとか。友人宅の庭で採れた小さな渋柿は、しっかり干してかために仕上げるのが定番に。
「きっと周囲の方には『ずいぶん長く干しているな』って見られていると思うのですが、私はキュッと締まった柿が好きなんです」
干し柿を手づくりする
友人から「毎年100個ぐらい」いただくという渋柿。1カ月かけて干し柿にしたら、バターをはさみちょっとリッチなお茶請けに。
「ドライフルーツとして、和でも洋でも楽しみます。手づくりの干し柿は、好みのかたさに仕上げられるのもうれしい」
ゆずを丸ごと使い切る
3年前からどっさりいただくようになったゆず。以前から好きだった「ゆべし」のほか、皮は料理、実は入浴剤、種は日本酒に漬けて天然の化粧水にと、余すことなく活用するのが楽しみに。
「ゆべしの味噌も、いまでは買わずに手づくりのものになりました」
<撮影/長谷川ちえ 取材・文/玉木美企子>
長谷川ちえ(はせがわ・ちえ)
エッセイスト、器と生活道具の店「in-kyo」店主。2016年、福島県三春町に仕事と暮らしの拠点を移し、店舗も東京・蔵前から移転。近著に福島での暮らしや季節の行事、心地よい時間の流れを綴った『三春タイムズ』(信陽堂)がある。https://note.com/hasegawa_chie/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです