(『天然生活』2020年4月号掲載)
縁起物を手仕事で綯(な)う、わら細工の職人たち
ここは宮崎県の北端部、日之影町。高千穂峡で知られる高千穂町の隣に位置し、多くの神話や伝説が語り継がれてきました。
高千穂町とともに古くからしめ縄づくりが盛んに行われており、この地域では正月以外も家や商店の軒先にしめ縄を飾るのが日常の光景。
たくぼは60年以上、ここでしめ縄とわら細工を手がけてきました。
現在は3代目の甲斐陽一郎さんが指揮をとり、とくにわら細工づくりに力を注いでいます。
「縁起がよいとされるものを身近な素材でつくる文化は、昔から世界各地にあったと思います。日本人は田んぼを耕して米をつくる。その副産物のわらでつくるのは自然な流れだったのでしょう」
たくぼのわら細工は、鶴や亀、鳥など縁起のよいものをかたどったなわ飾り。
「お正月を過ぎても、家に一年中飾っておけます。わらの経年変化を見ながら、暮らしのなかで楽しめる飾りものです」と陽一郎さんは話します。
お正月限定の飾りではなく、一年中飾ることができるわら細工。
どれも「祝結び(いわいむすび)」や「祝酉(いわいどり)」など縁起のよい名前がつけられている。
茶色は天日干しをして米を収穫したあとのわら、青色は実ができる前に刈り取った青わらで、それぞれが魅力的。
卵を包んだ「卵つと」や、魔除けの意味をもつとうがらしも飾り物のひとつ。
ひとりで始めたわら細工。いまでは4人の仲間とともに
もともと家業だったしめ縄業を、陽一郎さんが継いだのが約10年前。
仕事を辞め、ひとりで始めたわら細工づくりも、いまではなりわいとするメンバーが4人も増えました。
ひとりは「現役時代より忙しいわあ」と笑い飛ばす、定年を迎えた父・稔さん。
ふたり目は国立大学の大学院で遺伝子研究に励んだあと、移住してきた山木博文さん。
3人目は長年勤めた会社を辞め、地元に戻り職人になることを決めた佐藤響さん。
全員が「石橋を叩いて渡るような保守的な性格」なはずが、それぞれ第2の人生に導かれるように、たくぼの一員に。
そして4人目は、そんな男性たちの生活面もサポートしている、母・博子さんです。
いいわらをつくるために、苦労の多い田んぼの仕事
仲間が必要だったのには、理由がありました。実はわら細工の仕事は、ほとんどが田んぼ仕事。
一年をとおして、材料となるわらを自分たちの手でつくるのです。
「雨が降りそうになればビニールをかける。雨がやんだらはずす。毎日の天気の変化にあわせて面倒を見ています。
真夏の炎天下での収穫や、稲の病気や台風の影響も……。振り返ってみれば、とてもひとりではできないことばかりでした」と、陽一郎さん。
収穫後も1把ずつ柵にかけて天日干しするなど、わらを綯うまでの工程は数知れず。工芸品用なので、わらの状態や美しさにも気がぬけないそうです。
「思い通りにいかないことが多いので、自分が精一杯やっていれば、ダメでもあきらめがつく。
仕事が少ない田舎でも、自分の手で農業をしながら仕事を生み出せたら、それに勝ることはないと思いました」とも。
たくぼで働くひとりひとりも、口には出さずとも、同じ気持ちなのかもしれません
写真ギャラリー〈たくぼのわらづくり〉
〈撮影/森本菜穂子 取材・文/大野麻里〉
わら細工たくぼ
3代目の甲斐陽一郎さんを中心に、宮崎県の日之影町でしめ縄とわら細工をつくる。「たくぼ」とは、この地域で番地の代わりに家を指す屋号。甲斐家の場所は古くからたくぼと呼ばれており、そこから陽一郎さんが名づけたそう。
https://takubo753.jp/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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天然生活オンラインショップでたくぼのわら細工を販売します。
毎年大変ご好評をいただいている、「わら細工たくぼ」の縁起物の飾りを天然生活オンラインショップで販売します。
3代目甲斐陽一郎さんの指揮のもと、宮崎県・高千穂郷で制作されるわら細工。
職人による美しい日本の文化と暮らしの道具で、幸せな1年をお過ごしください。
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